リオの会場に咲いたパナのプロジェクションマッピング

閉会式の会場に映された日の丸=玉井良幸撮影
閉会式の会場に映された日の丸=玉井良幸撮影

世界中を熱くさせたリオデジャネイロ五輪。カーニバルの国らしい色鮮やかな開閉会式を演出したのは、立体物や平面に映像を映すプロジェクションマッピングだ。舞台裏を支えたのは、五輪最高位スポンサーでもあるパナソニック。4年後の東京五輪・パラリンピックに向けても貴重な機会となった。

アップテンポの音楽に乗せ、カラフルな模様が次々とフィールド上に描き出された。開会式では伸び縮みするビル群の上を出演者が跳びはね、閉会式では大きな日の丸が登場。経費抑制で大がかりな舞台装置が作られなかった式典を、プロジェクションマッピングが鮮やかに彩った。

開会式でもイベントに合わせた映像を次々と投影した=柏原敬樹撮影

4年前のロンドン大会でも採用されたが、日が落ちるのが遅く、演出の一部にとどまった。五輪では初めて開閉会式のほぼ全編でプロジェクションマッピングが行われた今回、運営全般を担ったのがパナソニックだ。

同社はプロジェクターの納入にとどまらず、本番の投映も任された。3人のエンジニアが五輪開幕1カ月前から現地入りし、英国やフランスから集まった映像のプロ約30人とチームを編成。日々変わる式典のストーリーや演目に四苦八苦しながらも準備を進めた。責任者の一人、ビジュアルシステム事業部の山本淳課長も「何度もテストを繰り返した」と振り返る。

使用されたプロジェクターはロンドンの4倍となる110台。スタンド最上部の4カ所から同じ映像を投映した。停電などアクシデントへの備えに加え、「影を消す」のにこだわったためだ。1方向からだと出演者の後ろに影ができるが、4方向からの投写で必要な部分にだけ色を映せる。4方向からの画像をぴたりと合わせるため、大会組織委員会と入念にプログラムを練ったという。

舞台となったマラカナン競技場はスタンドの傾斜が緩やかだった。投映面に対して垂直に当てる方が映像は鮮明に映し出せる。プロジェクションマッピングには不向きな競技場だったが、毎夜リハーサルを繰り返し、日中は暗室に置かれた50分の1の大きさのスタジアムの模型でシミュレーションを重ねた。

閉会式は前日夜に男子サッカーの決勝が行われたため、本番リハーサルは1回だけ。「映し出された映像に合わせて出演者が演じた。そういう意味では精度の高いパフォーマンスだった」と大役を全うした山本氏も胸を張った。

閉会式のリハーサルはたった1回だけだったが、本番では映像と演技がマッチした=柏原敬樹撮影

LED72枚などリオに過去最多の設備投入

発光ダイオード(LED)大型ディスプレー72枚、音響システム41機、薄型テレビ1万5500台――。パナソニックはリオデジャネイロ五輪に過去最多の製品を納入した。1988年カルガリー冬季大会から映像音響機器を納めて以降、五輪は「新技術を全世界に体感してもらう場」(小杉卓正オリンピック・パラリンピック課長)だった。だが、リオでは変化の兆しがあったという。

変化の象徴が開会式や閉会式で活躍したプロジェクターだ。今回、パナソニックは初めて機器の納入だけでなく、システム設計から運用まで関わることに強くこだわった。国際オリンピック委員会(IOC)のスポンサーだが、リオ大会組織委員会と開閉会式のパートナー契約まで結んだ。

パナソニックは自動車や航空機といった企業間取引を重視する経営にシフトしている。顧客へのノウハウ提供や設備の保守点検まで手がける必要が増えてきた。「会社が変わるのに合わせ、五輪との付き合い方も変える」(小杉氏)。様々な団体や企業との連携が要る五輪は、企業間取引に必要な知見や技術を磨く絶好の機会に映る。

パナソニックはリオに過去最多の映像音響機器を納入した=同社提供

プロジェクターでは苦い思い出がある。2008年の北京五輪で初採用を目指したが、明るさが足りず、他社に競り負けた。性能で劣った悔しさを胸に開発陣はゼロから設計見直しに着手。サイズを小さく、重さも軽くした。課題だった明るさも2万ルーメンと業界最高水準の高輝度・高画質化を実現。12年のロンドン五輪で採用を勝ち取った。

リオ五輪の経験は本業の収益にも貢献しそうだ。18年度までの中期経営計画で「エンターテインメント事業」を成長分野と位置づけ、競技場やテーマパーク、国際会議場などにプロジェクターやディスプレーなどを提供し、運用まで手がける考えだ。榎戸康二専務は「(同事業の)16年3月期の売上高は2500億円だったが、19年3月期には3000億円規模に増やしたい」と抱負を語る。

視線はすでに東京五輪を向いている。多言語翻訳機、スマホを使って建物の中でも目的地までスムーズに移動できるシステムの実用化は間近だ。キーワードは「おもてなし」。東京五輪がなければ世に出なかった商品をたくさん作る――。パナソニックにとって、東京五輪はあらたな「わくわく」を生み出すきっかけになってくれそうだ。