本物のモンスターは私だ!
立川笑二
師匠と兄弟子の吉笑とともに更新している、まくら投げ企画11周目。今回の師匠からのお題は「ゲーム」。
今、私にとって一番影響のあるゲームはポケモンGOだ。
私自身はこのゲームで遊んではいない。その理由は、ポケモンGOの配信日、7月22日のできごと。
ポケモンを保育園児のころからやっていた私は配信された日に早速ダウンロードして遊んでいた。
その日の夜は上野で自分の独演会があったので、会場へ行きポケモンGOをやりながら高座チェックをしていたら、高座の座布団の上にポケモンが現れたのだ。すぐにその状況を画像に収め、自分のツイッターに「高座にポケモンいる」という文とあわせてあげてみたところ、またたくまに拡散されていき最終的なリツイート数は2577件となった。
そのツイートの5分ほど前に私は自分の独演会の告知もツイートしていたのだが、なによりも拡散してほしい告知のリツイート件数は……
5件
5件て!!!
近所のゴミ捨て場の画像をアップしても10件ぐらいはリツイートされたのに、独演会の告知がリツイート5件て!!!!!!!
これもある種の炎上だ。
とてつもないむなしさを感じた私はポケモントレーナーを卒業した。
しかし、私はポケモンGOによりさらに大きなむなしさに襲われることになる。11投目。えいっ!
以前もこちらに書かせていただいたが、私には稽古をするために毎日のように通っている公園がある。
「お湯が沸いてるかもしれないから見ておいで」
「なんです?」
「だから、湯がチンチンいってないか見てきておくれよ」
「え?旦那様、私のチンチンが見たいんですか?」
「なんでそうなる。そうじゃなくて、湯がチンチン」
「ほら、チンチン」
「いや、違う、チンチン」
「チンチン」
「チンチン!」
「チーンチン!!」(古典落語「元犬」より)
なんてことを公園のベンチに座って一人でやっている。5年以上も。毎日。
その結果、私はその公園で「おなじみのやばいヤツ」というポジションを確立することができたのだが、現在、その立場が揺らいでいるのだ。他でもないポケモントレーナーたちのせいで!
その公園はポケモンGOで遊ぶのに重要なポイントであるポケモンジムに設定されているため、夜になると仕事帰りと見られる人が男女問わずに集まるようになってしまったのだ。
たくさんの大人が公園のいたる所で立ち止まり黙々とスマホをいじっている。
そして時折、ベンチに座って「チンチン」と叫んでいる私を横目で見て
「うわー、本物のモンスターいるわー!」
という顔をしているのだ。
しかし、公園通い1年目のころはそんな視線を毎日浴びていたので耐性はついている。
問題なのは、お巡りさんから職務質問をされる回数が圧倒的に増えてしまったことだ。
これまでは夜中に大声で奇声を発していても職務質問をされる頻度は2、3カ月に1度くらいだった。
それがどうだろう。ポケモンGOが配信されてからのこの2カ月間で私は7回も職務質問されているのだ。
ポケモントレーナーたちに通報されている!
あくまでもこれは私の想像だが、そうそう的外れでもないだろう。だってこのペースは異常だし、私でも公園で「チンチン」を連呼してる大人がいたら通報するから。
ただ、今回、私が言いたいことは2つある。
1つは、ポケモントレーナーのみなさまへ。
ゲームをしているときに怪しいヤツを見つけたら積極的に通報しましょう。あなたの行動が犯罪を未然に防ぐことへとつながります。
2つめは、私に職務質問をするお巡りさんへ。
いいかげん、慣れてくれ! 覚えておくれ! 申し送りをしてくれ! 「あの公園にはやばいヤツがいるけど無害だ」と!
もちろん、毎回、お巡りさんには素直に従って質問に答えているが、財布の中身を見られるのが恥ずかしくてたまらないのだ。
私は衝動買いしてしまうことが多いので普段から財布の中にお金をあまり入れないようにしている。
そのせいで実際にあった忘れられないできごととしては、数週間前。
職務質問の際に「仕事は落語家です」と答え、財布の中には数百円しか入っていなかった。それを見たお巡りさんからのひとこと。
「大変なんですねー」
泣きそうになった。すべての落語家に申し訳が立たない。
あんなむなしさを感じたくないため、現在、私は常に全財産を財布の中にいれて公園に通うようになっている(全財産が財布に収まるのも問題だけど)。
公園で私を見かけてもカツアゲだけはしないでください。
(次回9月25日は立川吉笑さんの予定です)
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