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不動産投資、民泊に期待高まる 賃貸より高利回り狙う

2016/9/10

和室や柱などで質感を高め、採算向上につなげるケースも(東京都大田区が民泊第1号として認定した旅行サイト運営会社、とまれるの物件)

 個人の不動産投資が活況だ。中でも、マンションや住宅などの投資物件に国内外の観光客らを有料で泊める「民泊」への関心は高い。高い収益が期待できるうえ、相続税などの節税メリットも受けやすいからだ。一方、政府・自治体はガイドラインを設けており、民泊ならではの高いコストやノウハウの難しさも潜む。

 「日本にいながら多様な文化に触れられるのが魅力」。東京都内の主婦、佐藤良子さん(仮名、30代)は、顔をほころばせる。民泊仲介サイトの米Airbnb(エアビーアンドビー)を通じて、自宅の空き部屋3室のうち1室を貸し出す。欧米、アジアの外国人観光客の利用が多く、1カ月のうち平均20日ほど稼働しているという。

 収益力も高い。佐藤さんは、ほぼ残りの2室を通常の賃貸に出しているが、家賃は月8万円ほど。観光のピークシーズンには「民泊で使ってもらう方が倍以上の収入になることもある」という。施設の稼働率と単価の上昇が相まって、比較的安定した不動産運用商品という民泊の「もう一つの顔」が浮かび上がる。

■相続税節税にも

 民泊に活路を見いだすのは佐藤さんにとどまらない。日本政府観光局によると、今年1~7月の訪日外国人は累計で1400万人を超え、14年通年の実績を上回った。中国人観光客らの「爆買い」は一巡したとは言え、滞在型の旅行需要は伸びる一方だ。国内の宿泊施設不足は外国人にとって深刻な問題であり、同時に国内の不動産オーナーにとってはビジネスチャンスになっている。運用利回りが10%を超えるケースも少なくないという。

 民泊情報サイト運営のオックスコンサルティング(東京・品川)によると、新宿区で2~3人で利用可能な部屋(1K中心)を民泊で「運用」した場合、1カ月の平均収入は約34万円。近隣の平均家賃が1Kで9万円程度なのに比べ、有利さは際立つ。

 オフィスビルや賃貸住宅は東京都心ほど運用収益が高くなる傾向があるが、民泊では台東区なども人気が高い。浅草や東京スカイツリーなどの観光名所に近く、利便性の高さが受けている。京都市内では都心より高い地域もある。

 節税対策としても注目されている。相続税制では現預金を直接相続するよりも不動産の方が有利な点が多い。「貸付事業用宅地」「特定事業用宅地」は、一定の基準を満たせば課税価格が下がる。一方、東京都内ではアパートの空室率が約3割に達する。「賃料を下げてまで賃貸契約を取るくらいなら民泊で」という潜在的なニーズは多い。

 しかし、国・自治体のガイドラインには留意が必要だ。民泊は大きく分けて(1)一般の個人が自宅の一室などに旅行者を泊める「ホームステイ型」(2)収益を主な目的にマンション、アパートなどの部屋を用意して客を泊める「ビジネス型」――の2つがある。ホームステイ型は休眠資産の有効活用と外国人との交流が主な目的だが、(2)の実態は限りなくホテル・旅館に近い。

 民泊サイトに登録されている物件の中には、旅館業法の許可を受けていないところもあるという。法律上は「グレー」な存在で、近隣住民やマンション管理組合の反対で休止に追い込まれる場合もある。民泊運営サイト、百戦錬磨(仙台市)の橋野宜恭取締役は「リスクをかかえたまま物件を民泊で運用するのは、持続的なリターンにつながらない」と警鐘を鳴らす。

 個人が民泊に新規参入する具体策としては(1)旅館業法上の簡易宿所として許可を取る(2)国家戦略特区に指定された自治体の条例に従って許可をもらう――くらいに限られる。東京都大田区、大阪府では特区で民泊が認められている。

■ハードル高く

 実際の運営に目を向けると、2つのルールの違いは少なくない。旅館業法では宿泊日数の制限はないが、特区条例では同じ旅行者を6泊7日以上宿泊させる必要がある。今後、2泊3日まで緩和される可能性がある。大田区で民泊物件を運営するアンビションの前田洋総務課長は「日数制限が緩和されれば、部屋の稼働率や宿泊料が上げやすくなる。投資にもなじみやすい」という。

 それでも実際の運営には設備投資が不可欠だ。旅館業法、特区ともに物件には消火器などの消防設備を義務付けている。自治体によってはフロントの設置も必要になるなど、運営のハードルはさらに高くなる。

 政府は民泊解禁に向け、法案を検討している。この「民泊新法」では住居専用地域での営業が認められる見込み。一方、営業日数は最長180日までとし、宿泊人数にも制限を課す方向で議論が進んでいる。

 国・自治体の制度改正で民泊の裾野が広がれば、民泊も利用者に選別される時代に入る。運用収益も一層、差が付く可能性がある。

 オックスコンサルティングの原康雄代表取締役は「民泊に最適な物件は40m2以上。部屋当たりの収益が大きく、固定費もカバーしやすい」と話す。固定費は物件の取得・改修から広告宣伝、日々の清掃までさまざま。個人が担うには荷が重く、専門業者に委託するケースも少なくない。

 民泊支援サービス、スクイーズ(東京・港)の舘林真一社長は「東京で募集から雑務までフルカバーで請け負うと、代行手数料は宿泊収入の20~25%が相場」と話す。幅広いコストを差し引くと、賃貸の方が確実な収益を出す場合もある。(押切智義)

[日本経済新聞朝刊2016年9月7日付]

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