すごい「ギネス食材」 価格・栄養価・硬さ……
ギネスブックに載る食材。価格や栄養価、硬さなど際立つ特長は様々だ。ギネス掲載によって知名度が向上、評価が上がり売り上げ増加につながっているケースもある。すごい「ギネス食材」たちを紹介する。
「世界最高米」1キロあたり1万1304円
精米機器の製造や米穀の販売を手掛ける東洋ライス(東京・中央)は7月、ネット販売した「世界最高米」が最も高額なコメとしてギネス世界記録に認定された。1キログラムあたりの単価は1万1304円と、スーパー店頭にならぶ通常のコメとは桁違い。同社の雑賀慶二社長は「売れるだろうかと心配した」が、ふたを開けると販売期間の5日間を待たず、準備した30箱(約25キロ)が売り切れた。予想外の人気に、7月下旬から1カ月間追加で300箱を売り出したがこちらも完売した。同社はもともと、玄米からヌカ層を取り除き、その下の栄養価が高い「亜糊粉層」を残す独自の精米技術を確立。食味の良さや健康効果を売り物にした「金芽米」を2006年から販売していた。この技術を、国際的なコメのコンクールで金賞を受賞した6種類のコメに活用した。個人だけでなく料亭からも引き合いがある。海外でも販売する計画だ。
「高く売れるコメ必要」
個人所得が伸び悩み消費者の低価格志向は依然として根強い。そんな中で"超"高級米をあえて市場投入した動機は何か。雑賀社長は「離農者が増え、このままでは水田がどんどん減ってしまう。生産者にしっかりコメを作ってもらうには高く売れるコメが必要だ」という思いがきっかけと説明する。高く売る対象として海外の富裕層に着目、「認知度を高めるにはギネスを取ればいい」との考えが今回の新商品開発につながった。「最高米」には、原料に選ばれたコメの農家の名前も記したことで生産者からは「励みになった」と喜びの声も寄せられたという。雑賀社長は「コメのバリエーションが広がれば輸出につながる。来年も16年産米を使った最高米を作り、農家を元気づけたい」と意欲をみせる。
アボカド「最も栄養価の高い果物」
ギネスブックに「最も栄養価の高い果実」と登録されたのはアボカド。「森のバター」の異名を取るほど脂肪分を多く含み、その多くは血中コレステロールの調節を助ける効果があるとされる不飽和脂肪酸だ。ビタミンB2やビタミンE、食物繊維も豊富に含まれている。
国内流通の大半が輸入品で、今年の輸入量は過去最高になる勢いだ。貿易統計によると、1~7月のアボカド輸入量は4.4万トンと前年同時期と比べ3割増。過去最高だった13年を上回るペースだ。サラダの具材として定着し、ファストフードのメニューに加わることも増えてきた。為替の円高傾向で輸入価格が2割弱安くなっており、都内スーパーの店頭価格も1個100~130円が中心と、前年同時期と比べ1割ほど安くなっている。
原産地は中南米で、今もメキシコが最大産地だ。生産者団体のメキシコ産アボカド生産輸出協会は、17~19日に東京・お台場で開かれるイベントでアボカドを使ったスムージーを提供する。実は米国向けの輸出が日本向けを上回るペースで伸びており「メキシコの産地価格は上昇傾向」(青果物輸入商社のローヤル=京都市)。メキシコ移民の多い米国南部で人気になっているという。
9月下旬ごろから年明けにかけてはニュージーランド(NZ)産も店頭に並ぶ。今季は生育に適した天候が続き「日本への輸出量が過去最高となる見通し」(NZの輸出業者でつくるアバンザリミテッド)という。
キュウリはアボカドと反対に、ギネスブックに「最も栄養価の低い果実」として登録されてしまったことがある。キュウリの水分含有率は約95%にのぼり野菜のなかでトップクラス。なんと牛乳より高い数値だ。
「キュウリビズ」で夏を乗り切る
東北6県のJA全農本部は、この点を逆手に取ったキャンペーン「キュウリビズ」を08年から続けている。東京都中央卸売市場で東北産のキュウリは8月に約9割のシェアを持つ。「クールビズ」にひっかけ、水分の多いキュウリで夏を乗り切ろうというわけだ。今年は7月に東京・大田市場で試食会を開いたほか、消費者向けに電車の中づり広告を展開した。
キュウリを栄養満点にするとっておきの方法がある。漬物にすることだ。ぬか漬けキット「ヌカマルシェ」を販売するキビィズ(東京・江東)の担当者は、「キュウリは味がしみやすくぬか漬けに最適。ビタミンを豊富に摂取できる」と話す。
かつお節「最も硬い食材」
かつお節は「最も硬い食材」としてギネス登録した。かつお節に向くカツオは脂肪分が少ない。かつお節を製造する「にんべん」の研究開発部、荻野目望さんは「脂肪分が多いと、かつお節にしたときに粉状になってしまう。うまみも弱い」と話す。
かつお節の主な製造工程はこうだ。セ氏100度に達しない温度で煮る。60分以上かけて煮ることで生臭さがないかつお節ができる。次はナラやクヌギなど広葉樹をくべていぶす。いぶす前は水分が65~66%あるが、いぶした後は23~25%まで下がる。
さらにカビを付けて乾燥を進め、水分を15%まで下げる。カビが「かつお節の内部から水分を引き出す重要な役割を果たす」(にんべんの荻野目さん)。カビは脂肪を分解して酸化による劣化を防ぎ、かつお節特有の香りも作り出す。日本鰹節協会(東京・中央)の船木良浩さんは「脂肪を分解しているため、だしをとったときの濁りが少ない」と話す。
いぶす工法が考案されたのは江戸時代の前期とされる。現在の高知県や和歌山県からこの技術が伝わり、静岡県や鹿児島県でも作られるようになった。国内の生産量は現在3万トン程度。静岡県と鹿児島県で、生産量の9割を占めるという。
完成までに半年間
完成までにかかる時間はおよそ半年。手間がかかった分、うまみが凝縮したかつお節ができあがり、日本料理の「だし」をとるのに欠かせない食材となる。日本鰹節協会の船木さんは「フランス料理のだし『フォン』は材料を時間をかけて煮込む。日本料理のようにあまり時間をかけないのは珍しい」と話す。かつお節に凝縮されたうまみが一気に広がることも時短を可能にしている一因だろう。
BSE(牛海綿状脳症)発生以降、世界的に魚を食べる傾向が強まり、カツオの缶詰需要も増えた。かつお節の生産者には原料のカツオを仕入れる苦労も多い。13年に和食が「ユネスコ無形文化遺産」に登録された。和食を支える食材として世界からの注目は高まっている。
(商品部 松下太郎、斎藤公也、龍元秀明)
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