
8月末に2600人ほどの日本人がアフリカ・ケニアの首都ナイロビに集まった。安倍首相をはじめ、政府、企業、NGO(非政府組織)・NPO(非営利組織)関係者が遠いアフリカまで足を運んだ理由は、アフリカ開発会議(TICAD)の開催だ。同会議のアフリカでの開催は初めてのことだ。
1993年から開催されているTICADは、アフリカ54カ国から大勢の首脳が参加する日本政府のイニシアチブで開催される会議である。日本で開催された前回2013年のTICADまでは5年ごとに行われ、アフリカへの「援助から投資へ」という方針が打ち出された。今後は3年ごと、アフリカでも開催したいという希望に日本が官民連携で応えたのだ。
日本人のなかには「なぜ、わざわざ土地勘がない未開拓なアフリカへ行く必要があるのか。近隣経済圏であるアジアで十分であろう」とアフリカへの関心がない人も多いだろう。
確かに文化圏が日本と近いアジアでは人口増による経済成長が期待されるので日本企業には最重要な市場である。しかしながら、今後のアジアは結構速いピッチで高齢化する。国別の差異はあるものの、全体としてアジアの人口は2050年に向けてピークアウトし、その後は減少する。
一方、国連によると、50年までの世界の人口増の半分はアフリカである。国連はまた、50年時点で世界人口の25%をアフリカが占めると予測している。長期で最も人口が右肩上がりに増えると予測される経済圏はアフリカというわけだ。
アフリカ開発銀行によると、既に3割程度が「中産階級」だ。もちろん先進国と比べると生活水準は低い「中産」である。ただ、アフリカが先進国に資源を搾取し続けられた過去の歴史から、消費者市場が成り立つ経済社会へと自立していく未来が見えてくる。
米シンクタンクのピュー研究所によると、6割のアフリカ人が携帯電話を持っており、最も人口が多いナイジェリアでは3割がスマートフォンを保有している。情報技術(IT)の発展による知識の普及、「テクノロジージャンプ」でアフリカは飛躍するだろう。例えば、金融とITを融合したフィンテックは既に金融インフラが整っていて、規制や既存勢力が存在している日本のような先進国より、アフリカでの普及率が高くなると期待できる。
もちろん課題も山積している。依然として資源の輸出が外貨を稼ぐ手段となっているが、その外貨は食料輸入に使われる。アフリカは広大な大地に恵まれているが、農産技術などが遅れているからだ。安全な食料が適切な価格で入手できないのであれば、人口が増えるわけはなく、むしろ社会的な不安定要素を生んでしまう。
また、雇用が乏しいなかで若者が増えることは社会にとって危険な状況になり得る。彼らのフラストレーションが非社会的な勢力の増大の引き金となるからだ。
ただ、アフリカが大きな可能性を秘めた大陸であることに間違いない。世界がアフリカに注目して進出するのは当然だ。政府間の援助関係だけではなく、民間企業や市民レベルでの投資や協力関係が重要なステージに入ってこよう。
今回のTICADでは日本は今後3年間、アフリカに対し官民合わせて3兆円規模の投資を行うことを表明した。無論、発電所などハードインフラ整備の投資はアフリカには必要なことだ。しかしながら、日本とアフリカの距離感を縮めるには「個」に光を当てることも極めて重要である。
例えば、アフリカで起業に挑戦している若手の日本人。彼らは自ら日本におけるコンフォートゾーン(安住の場所)から飛び出し、仕事に対する慣習や価値観が異なるアフリカ人とともに働き、学び合いながらお互いを高めている精鋭だ。日本が世界と繁栄するために極めて重要なロールモデルを示してくれる存在である。
彼らはマクロ経済の数値に全く表れることがない小さな存在かもしれない。しかし、彼らのサクセスストーリーを応援することは日本の未来をつくることにほかならない。遠い日本で生活する我々でもできることがあるはずだ。
この思いで、経済同友会のアフリカ委員会の有志らが私的活動として「アフリカ起業支援コンソーシアム」を今春に立ち上げた。企業会員の会費を財源として、アフリカで起業に励んでいるチャレンジャーたちを支援するプログラムを実施中だ。筆者も運営にかかわっている。
まだ応募受け付け中だが、8月末までに11人の1次候補者が選ばれた。コンソーシアムの運営委員会は彼らに「アントレAFRICA日本」(http://entre-africa.jp)という専用サイトへの投稿アクセス権限を与えている。このサイトにコンテンツを常時上げることが、選定条件のひとつとなっているのが本支援プログラムの特徴だ。
彼らの活躍分野は農業、流通、物流、飲食、デザインなど様々だ。一人ひとりのストーリーを通じて、日本で生活している我々でもアフリカでの活動を知ることができる。つまり、インターネットの力によって、アフリカと日本との距離感を縮める試みだ。
9月15日まで1次候補の応募を受け付け、10月初旬に最終候補を選定、そして10月末に最終支援者を決定する予定になっている。まだ定めていないが、少なくとも3人は最終支援の対象になる見通しだ。
小さく生んで大きく育てたいというコンソーシアムの設立趣旨に賛同してくださった日本信号、丸紅、住友化学、日本たばこ産業、キユーピー、そして個人2人にご入会いただいた。これから会員数が増えれば増えるほど、アフリカで起業に挑戦する若手を支援できる仕組みになっている。
先月27日、ナイロビでのTICADの開催中に、東京でコンソーシアムのキックオフセミナーを設けた。台風接近による不安定な天候にもかかわらず、約150人の人々の来場で盛況な会場となった。TICAD開催中のアフリカからのネット中継で臨場感も高まった。
アフリカには世界の未来がある。アフリカには日本人の夢もあるのだ。