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ビジネスジェットに普及の兆し 東京五輪で商機到来 国際線発着回数、4年連続で増加

2016/9/29 日経産業新聞

双日は機体の販売やチャーター仲介を伸ばしている

 企業や個人が所有するビジネス航空機が普及する兆しをみせている。国際線の発着回数は4年連続で増えた。半面、安全面などの規制はまだ厳しく、利用者や機体数は海外より圧倒的に少ない。「訪日外国人が増える2020年の東京五輪・パラリンピックが海外に追いつく最後のチャンス」と打開策を探る企業も出てきた。

 「これほど便利だとは思わなかった。また使いたい」。7月、ビジネス機のチャーター(借り切り)を手配している双日の営業担当者にこんな声が届いた。相手は東証1部上場の大企業だ。この会社は昨年秋、会長ら経営陣6人が東南アジアで開かれた経済フォーラムに参加するため、初めてビジネス機を借りた。

■私的な空間に魅力

 プライベート空間を持てるのがビジネス機の最大の利点だ。通常の飛行機では一般客も一緒に乗っているため、会議や打ち合わせをするのは難しい。ビジネス機には関係者しかいないので周りを気にせずに話ができる。

 新興国には定期便が少なく、乗り換えや待ち合わせなどで時間がかかってしまう場合もある。ビジネスジェット機は目的地に直接向かうので行き来がしやすい。出入国手続きも専用ターミナルで行うので、一般客と一緒に並ぶ必要もない。

 料金は1機あたり総額約1500万円。「6人の往復飛行機代と比べて極端に高くはない」という感想が双日に届いた。

 国土交通省によると、2015年のビジネス機の国際線の発着回数は4121回となり、14年を25.4%上回った。4年連続の増加だ。背景には国交省が09年ごろから進めている普及策がある。海外の要人がビジネス機で日本を訪れやすくして企業などの交流を活発にするのが狙いだ。

 羽田空港では10年、昼間時間帯の国際線の発着を認めた。利用増加で希望者の約2割が乗り入れできない状況だったため、今年4月には発着枠を従来の1日8回から16回に増やした。運航前に毎回行う国交省への運航許可の申請期限は出発3日前までだったが、11年に商用などの緊急時には24時間前までに変更した。ビジネス機の専用ターミナルも成田空港が12年、羽田も14年に整備した。

 ビジネス機販売の担い手は商社だ。ビジネス機を企業や個人に売った後、所有者が使っていない時に第三者にチャーター機として貸し出す事業を手掛けている。

ビジネス機はくつろぎやすい内装も特徴だ 写真提供:丸紅エアロスペース

 双日が04年から現在まで販売したビジネス機の累計は17機。4機をチャーター機として貸し出している。稼働時間は機種によって異なるが、15年は年300~700時間で、14年より平均で約1割高まった。丸紅子会社の丸紅エアロスペース(東京・千代田)でも「機体販売などの引き合いが好調だ」(松岡千惠・ユニット長代理)。伊藤忠商事子会社の日本エアロスペース(東京・港)は7月、ブラジルのエンブラエルのビジネス機の輸入代理店となった。

 普及の兆しを見せているとはいえ、海外との差はまだ大きい。米ニューヨークのビジネス専用空港のティータボロ空港は11年の着陸回数が約10万回、ロンドンのファンボロー空港が2万回強、パリのルブルジェ空港が約6万回だ。一方、羽田空港は15年で約1500回にとどまる。

 ビジネス機(政府専用など公用機含む)の保有数は15年3月時点で米国が約1万3千機、欧州やアジアなどの主要国が100機~800機。日本は85機と極端に少ない。

 なぜこれほどの差が生まれたのか。日本ビジネス航空協会(東京・千代田)などによると、日本の航空行政は定期便を優先し、空港や法規制を整備してきた歴史がある。ぜいたくだとの批判を気にして利用を手控える企業も多かった。

 ビジネス機の普及の遅れは「国際会議の開催場所として日本の都市が選ばれにくくなる」(商社担当者)という問題を起こしている。ビジネスのしやすさという側面で香港やシンガポールなどに劣っているという印象を海外に与えれば、日本企業の国際競争力の低下につながりかねない。

■厳しい安全基準

 ビジネス機の本格普及への課題としてあげられるのが規制緩和だ。

 飛行機の安全証明を取るための「耐空検査」は日本の場合、1年に1回受ける必要があり、整備などに要する約1カ月間は機体を飛ばせない。メーカー規定の点検をすれば済む米国と比べコストが高い。

 安全規定はビジネス機の運航会社も、日本航空など定期便の会社と同じ内容を課される。例えば着陸する空港の天候などを調べる運航管理者を置く必要があり、運航管理業務をパイロットが兼務できる米国に比べてやはりコストが重くなる。

 コスト削減のため、商社からビジネス機を購入する日本企業や個人は機体を米国籍にしている。ただし、国内線を自由に飛ばせるのは日本籍のみ。このためトヨタ自動車系列の朝日航洋(東京・江東)などチャーター便運航の国内3社は機体を日本籍にしている。

 朝日航洋の1時間あたりの利用料金は80万~100万円。4千~5千ドルとみられる米国、6千ドル程度の香港・シンガポールと比べて割高という。

 日本ビジネス航空協会はさらなる規制緩和を国交省に要望しており、同省は今年9月から規制見直しの議論を始める。ただ昨年には東京都調布市で小型プロペラ機が墜落し、住民らが死傷する事故も起きた。安全確保への懸念から規制緩和がうまく進むかは未知数だ。

 企業側は規制緩和を待つだけでなく、事業拡大へと動く。朝日航洋はビジネス機の検索サイト「アビノード」に登録し、海外客の誘致に力を入れる。昨年から富士山や北海道などを3泊4日で回るツアーを中国系の旅行会社と共に営業を始めた。双日も「日本のみならず、アジア各国で営業を強化していく」(桜井洋平担当課長)方針だ。

 東京五輪・パラリンピックでは海外から多くのビジネス機が日本に押し寄せ、認知度も高まる。「日本のビジネス機が世界に負けたまま終わるのか。それとも産業として盛り上がるのか。五輪前が最後のチャンスだ」。朝日航洋の下嶋努・東日本航空支社担当部長は話す。

(渡辺伸)

[日経産業新聞2016年9月5日付]

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