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「健康経営」という新しい投資の視点(藤野英人) レオス・キャピタルワークス社長兼最高投資責任者

2016/9/6

「『健康経営』という新しい投資の視点が注目されている。社員が心身ともに健康であれば安定的な経営ができるので、業績の乱高下が少ないといった考え方だ」

「健康経営」という言葉をご存じでしょうか。最近は新聞や雑誌などでも取り上げられています。健康経営とは、従業員などの健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践することです。

経済産業省が東京証券取引所と共同で、健康経営に関する優良企業の表彰も行っており、私も優良企業を選定するための基準を検討する会議に参加しています。

企業が社員の健康にお金をかけることは「コスト」なのでしょうか、「投資」なのでしょうか。社員は会社にとても大切な存在なのに、いわゆる財務諸表には資産として表現されません。貸借対照表に社員はどこにもいませんし、損益計算書では人件費などのコストとして表れてきます。

しかし、ビジネスをやっていれば誰でも知っています。

会社は社員の頑張りで成り立っているし、優秀な社員がたくさんいる会社は業績も良いし、世の中の状況の変動に対応できます。一方で、社員のやる気がなくなったり、病気がちになったりすれば、業績も振るわなくなるし、いずれは破綻をしてしまうかもしれません。

さらに最近はブラック企業といわれる、社員を酷使して心と体の健康をむしばんでいく企業が問題になっています。一般的にブラックと呼ばれる企業は社員を消耗品として考えているので、社員の健康に対する配慮が著しく欠如している可能性があります。

特にサービス業や飲食業などの第3次産業に属している会社に多く見られます。日本は傾向的に第3次産業の従事者が増えており、その中には長時間労働や社員の心のケアを十分に考えていない会社も増加しています。

健康経営という概念が注目されたのは、ブラック企業問題がクローズアップされてきたことが社会的背景としてあります。少子化が進んでいることにより、新卒の採用が難しくなってきており、会社での働き方が問題になってきています。

私は従業員の健康に関する支出はコストであると同時に、投資の要素が強いと考えています。社員が心身ともに生き生き働ける会社は士気も高く、生産性が高いという研究結果もあります。

そりゃそうですよね。長時間労働が常態化し、社員が疲れ切り、心に病を抱える人が増え続ける会社をどう思いますか。聞くまでもないです。こうした会社は投資対象としてどうでしょうか。ビジネスは冷徹なもうけの世界でもありますが、社員が傷ついていく会社は、短期的に収益を稼ぐことがあっても長期に稼ぐことは難しいでしょう。長期投資家としては投資対象にはならないです。

ではどうやって健康経営の銘柄を見極めたらいいのでしょう。実際のところ、これは本当に難しい。健康経営に関する優良企業の表彰事業の話を経産省および専門家から頂いた3年前、最初に思ったのは、やりがいがあるけれどもかなり厄介だなということでした。

評価するだけに客観性が必要です。しかも健康経営銘柄として世に出す以上、投資銘柄としての要件も備えていなければいけません。具体的な調査方法についてはここでは触れません。新しい試みなので試行錯誤もありますが、要するに健康経営に熱心な会社であれば、社員が心身ともに健康で安定的な経営ができるはずなので、業績の乱高下が少なく結果的に株価の変動率も小さいはずだという考え方です。健康経営を意識している経営者が、口だけでなく、実際にそれを明文化して、計画を立てて行動をしていることを評価しようということです。

それでは健康経営銘柄に投資すれば必ずもうかるのかというと、正直まだわかりません。東証株価指数(TOPIX)を上回る成果が出るのが望ましいのですが(実際には現在のところそのような結果も計測されてはいますが)、はっきりとした結論を得るのはまだ先のことになりそうです。実際に選んだ銘柄の投資成果の検証は、今後の動向を追いかけていく必要があるので、おそらくあと2~3年はかかると思います。

私も関わっている以上、健康経営銘柄の研究をしていきたいと思います。何より、すべての日本の会社が社員の心身の健康を第一にした経営方針になれば、我が国が幸せになりますよね。

もちろん健康=幸せとはなりませんが、健康は個人の幸せの基盤になるものだと思います。おそらくこれからメディアなどで健康経営という言葉に触れる機会が増えるでしょう。ぜひ読者の皆さんもこの健康経営という言葉に注目してください。

プロのポートフォリオは運用に精通したプロが独自の視点で個人投資家に語りかけるコラムです。原則火曜日掲載で、レオス・キャピタルワークス社長兼最高投資責任者(CIO)の藤野英人氏と楽天証券経済研究所所長兼チーフ・ストラテジストの窪田真之氏が交代で執筆します。
藤野 英人(ふじの・ひでと) レオス・キャピタルワークス社長兼最高投資責任者(CIO)。1966年生まれ。早稲田大学法学部卒。90年野村投資顧問(現野村アセットマネジメント)に入社。96年ジャーディンフレミング投資顧問(現JPモルガン・アセット・マネジメント)に入社。「JF中小型オープン」は1年間の上昇率219%を記録。驚異的なパフォーマンスを上げ、「カリスマファンドマネジャー」と呼ばれた。2000年ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメントに入社。03年レオス・キャピタルワークス創業。CIOに就任。09年取締役、15年10月社長就任。明治大学非常勤講師なども務める。著書に「投資家が『お金』よりも大切にしていること」(星海社)など多数。

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