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中村俊裕さん

中村俊裕さん

世界最大の群島国家インドネシア。人口2億4000万人のアジアの新興国として台頭するが、離島の農村部には電気や上下水道が整備されているところはまだほとんどない。この国をベースに地球規模で貧困地域の支援活動に取り組んでいるのがNPO(非営利組織)「コペルニク」最高経営責任者(CEO)の中村俊裕さんだ。京都大学卒、英名門大の大学院を修了後、マッキンゼーから国連へ。華麗なる経歴のエリートはなぜ熱帯の島で貧困支援のリーダーになったのか。

巨大組織は小回りがきかない

「巨大組織は小回りがきかないし、物事を決めるのに時間がかかりますから」。中村さんは屈託のない表情でそう笑う。2012年まで国連開発計画(UNDP)のメンバーとしてインドネシアや東ティモール、西アフリカのシエラレオネなどで災害復興策や平和構築事業などに従事、現地政府の閣僚クラスを相手に現場で活躍した。「国連は報酬もいいし、休暇も十分にあった」という。しかし、従来と変わらない国連の援助方式に疑問がわいた。柔軟性やスピードに欠けているように思えた。

2000年初頭、IT(情報技術)が勃興するなか、グローバル・ギビングやキヴァなどインターネットを活用した革新的なサービスを展開するNPOが次々誕生した。グローバル・ギビングは貧困や環境の問題などに取り組む寄付サイトを核にした組織。キヴァはネットを活用し、小口融資などマイクロファイナンスを実施する米国発のNPOだ。中村さんは「地殻変動が起きている。新たなテクノジーを利用すれば、自らの手でより迅速に効果的な貧困支援に取り組めるのではと考えた」という。

支援の手が貧困層に届く『ラストマイル』に壁がある。国連や政府など巨大組織ではうまい具合に届きづらいという。国連から中央政府、州、自治体と調整する間に時間だけがすぎてゆく。自らがNPOを発足し、企業などの開発者、資金を寄付する支援者の3者をインターネットで結び付けることで、「ラストマイルを克服して、現地で継続利用が可能なシンプルな技術を必要としている人に素早く安価に届けよう」と決意した。

支援貧困層へ大手企業とも協力

バリ島を核にインドネシア、そしてアジアの貧困地域で支援の輪を広げる=PIXTA

バリ島を核にインドネシア、そしてアジアの貧困地域で支援の輪を広げる=PIXTA

2009年、中村さんはNPOの設立準備を開始し、12年には国連を後にした。コペルニクの本部はニューヨークに置くが、計4つの組織を設立。日本を企業との窓口とし、実際の現地本部はインドネシアのバリ島ウブドに構えた。貧困層の多いフローレス島、スンバ島など東ヌサ・トゥンガラ州の離島群の玄関口がバリ島だからだ。

貧困の島の農村部には電気や上下水道はほとんど整備されていない。電気の代わりに、灯油をともすのだが、そのコストは月間800円から1000円以上もかかる。地元民の月収の2割程度になることもあり、負担は重い。そこで中村さんは島の女性を組織化し、2000~3000円程度のソーラーライトの販売に乗り出した。「油の値段は年々上昇している。ソーラーを買えば、半年でペイする」。今や現地の販売スタッフは400~500人に膨らんだという。同様に浄水器や熱効率の高い調理用コンロなどの販売も支援している。汚染された水で腹痛や感染症を起こす島民が少なくないからだ。

一方でパナソニックや三菱電機など日本の電機大手とも組む。パナソニックのソーラーライトの販売促進策を考え、三菱電機とは漁村のニーズに合った冷蔵庫を試作した。将来、有望なマーケットになる新興国の市場開拓を手助けする。古巣の国連とも連携する。インドネシアでのソーラーライトの事業が認められ、それを応用して国連がミャンマーなどで実施している。主産業である農業支援も始めた。フローレス島には農業加工センターを設けた。

しかし、貧困地帯の支援策は決してスムーズにゆくわけではない。中村さんは「1つのモノを島から島へ移動させていくだけでも大変ですよ」と話す。インターネットを活用して情報を共有するのは容易だが、貧困地域のインフラはあまりにも脆弱だ。

小粒でもピリッと辛い存在に

国連職員として中村さんは、東ティモールなど紛争国や被災地を回ったが、国連の豪華な専用船がホテル代わりとなったり、現地で一番の高級ホテルが優先的に割り当てられた。しかし、NPOにはそんな特典はない。衛生面で問題のある現地の食事をともにし、健康面でもリスクを抱えなくてはいけない。蚊を媒介とするデング、マラリアは極めて危険な感染症だ。しかし、中村さんは「のんきな性格なのであまり気にしていない」と笑う。

京大卒業後に英国に留学、高年収のマッキンゼーのコンサルタントを経て憧れの国連職員となった中村さん。「国連を辞めてすぐのころは巨大なNPOをつくらねばと思ったこともあった。でも、やりたいことをすぐに実行できるスピードとニーズに即応できる小回りの良さが何よりも大事。僕らは小粒でもピリッと辛い存在でいい。僕らのやり方をどんどんまねてもらって構わない。様々な組織や人と連携し、より効果的な貧困支援が実現するなら本望です」とにこやかに語った。

中村俊裕氏(なかむら・としひろ)
1997年京都大学法学部卒業。英ロンドン経済政治学院で比較政治学修士号取得。国連研究機関、マッキンゼー東京支社のマネジメントコンサルタントを経て、国連開発計画(UNDP)で、東ティモールやシエラレオネなどで途上国の開発支援業務に従事。2009年、国連在職中に米国でNPOコペルニクを設立。12年には世界経済会議(ダボス会議)のヤング・グローバル・リーダーに選出された。

(代慶達也)

「キャリアコラム」は随時掲載です。

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