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企業業績に底打ち感 株価にも好影響期待

2016/9/4

 企業業績の先行きに、明るい兆しが見えてきた。このほどまとまった4~6月期決算は大幅減益と一見、厳しい状況だが、円高が止まれば、通期では増益に転じる可能性もある。今期の企業業績は第1四半期で底を打ったとの見方が多く、7~9月期以降、株価にも徐々に好影響が出てくるだろう。

 3月期決算企業の第1四半期(4~6月期)は、全体の経常利益が17%減益と、3四半期連続の減益だった(図A)。17年3月期通期でも、今のところは0.5%減益と、5年ぶりの減益見込み。4~6月の平均為替レート(対ドル)が前年同期に比べて13円ほど円高方向に振れ、輸出企業を中心に採算が悪化した。

■予想外の「健闘」

 ところが市場の評価は意外と楽観的だ。「30%超の減益も覚悟していたので、17%ならむしろ健闘している印象」(大和証券投資戦略部の高橋和宏担当部長)。実際に4~6月期決算を分析してみると、予想外にいい数値もある。

 その一つが、各社がそれぞれ公表した4~9月期(上半期)の経常利益の予想額に対して、4~6月期の実績額がどれくらいの水準に達したかを示す「進捗率」だ。企業全体で55%と、過去3年間の平均(47%)を上回る。エーザイや三井金属のように、最初の3カ月で半年分の予想利益を上回った企業もある(表B)。

 上半期の利益予想を公表していない会社の中でも、武田薬品工業やアドバンテスト、ブラザー工業は、市場予想に対する進捗率で見ると100%を超えている。トヨタ自動車やホンダ、三菱商事も進捗率は70~80%台と高い。

 利益予想を出した期初時点は、世界的に景気の先行きが暗く、各社慎重な予想を立てていた。結果として思っていたより減益幅が小さく、第1四半期の高い進捗率につながった。

 もう1つ理由として考えられるのが、企業の円高に対する適応力が強まったことだ。1円の円高でどれほど経常利益が目減りするかを示す円高感応度が改善している。大和証券が主要200社について調べたところ、今年6月末時点の円高感応度は0.49%と、アベノミクス相場前の2012年3月の0.85%から改善している。

 日本経済新聞社の分析では、主要輸出企業20社は、円高が年間で2兆6000億円の営業減益要因になるとしている。このうち1兆円程度は販売数量の増加などの自助努力で相殺し、20社の営業利益の減少幅は1兆6000億円強にとどまる見通しだ。

 コスト削減や得意分野・収益分野への集中を進めた結果、経営体質が強化されている。三菱UFJモルガン・スタンレー証券によると、東証1部の3月期決算企業の売上高経常利益率は足元の4~6月期に7.3%で、前期と前々期の8四半期平均(6.9%)を上回っている。

 売り上げが伸びなくても利益が出る体制の会社が増えている。17年3月期通期は1.6%の減収予想だ。三菱UFJモルガンの芳賀沼千里チーフストラテジストは「1995年度、99年度、2002年度などは減収増益決算だった。今期も減収予想だが、最終的に経常増益に転じる可能性はある」と予測する。

 日本電産、信越化学工業など、円高の逆風をはねのけて4~6月期に増益を維持した企業もある。日電産はこれまでのスマートフォン向け部品の売り上げが伸び悩むと見るや、自動車向けを増やすなど機動的な経営が奏功している。

 利益率の高い製品に経営資源を集中する戦略も目立つ。明治製菓と明治乳業が経営統合した明治ホールディングスは、4~6月期としての経常利益が過去最高となった。スーパーなどの店頭でも値引きされない高機能ヨーグルトの製造、販売に注力した成果だ。

■自社株買い増加

 トヨタ自動車のように多くの企業が今後の利益予想の前提となる為替レートを円高方向に修正。1ドル=100円とする企業も目立つ。それでも上半期や通期の利益予想を大幅に引き下げた企業は少なかった。

 「円相場の7~9月期の期中平均は1ドル=102円程度になる」と大和の高橋氏はみる。今後、1ドル=95円を突破するような大幅な円高にならない限り、企業業績の一段の悪化は心配しなくてもよさそうだ。

 反対に17年1~3月期は、16年同時期の発射台が27%減益と低かった分、「70%程度の大幅増益になってもおかしくない」(高橋氏)との見方もある。芳賀沼氏も「円相場が1ドル=105円まで戻れば、通期で5%増益もありうる」とみている。

 ここ数年、企業による自社株買いが増えている(図C)。今年もトヨタ、ソフトバンクグループがそれぞれ5000億円を上限とする自社株買いを決めた。市場全体では7月末までの自社株買い設定枠は合計2兆3000億円。このまま推移すれば、前期1年間の合計実績5兆3000億円を上回る可能性は高い。

 自社株買いと配当の合計が純利益に占める割合である総還元性向は50%を超えた。それでも欧米企業に比べるとまだ低い。手元の現預金は100兆円を超え、自社株買い、配当とも一段の上積みはあるだろう。

 企業の潤沢な手元資金、マイナス金利などの状況を考えると、今後も自社株買いは増える見通し。自己資本利益率(ROE)の向上を通じて、株式相場へ好影響を与えそうだ。(編集委員 鈴木亮)

[日本経済新聞朝刊2016年8月31日付]

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