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実は日本は「AI先進国」になれる 元グーグル米国本社副社長兼日本法人社長 前名誉会長 村上憲郎氏

2016/9/10

村上氏

人工知能(AI)分野やIoT(モノのインターネット)分野で事業拡大に乗り出す企業の動きが世界的に活発になっている。これらの分野で、日本は大きな可能性を秘めていると主張するのが、元グーグル米国本社副社長兼日本法人社長、前名誉会長を務めた村上憲郎氏だ。かつてAI研究に携わり、IoTへの関わりも深い村上氏は、現在でもAIベンチャー企業のご意見番として活躍中だ。AIやIoTにおける日本の可能性を村上氏に聞いた。

――AI分野では米IBMの「ワトソン」や米グーグルの「アルファ碁」に代表されるように米国の動向への注目度が高く、IoT分野では産業版を例に挙げるとドイツが提唱する「インダストリー4.0」や米ゼネラル・エレクトリック(GE)が主導する「インダストリアルインターネット」の波が日本に押し寄せています。AIやIoTの分野で、日本は世界でどういう立ち位置にあるのですか。 

まず言えるのは、AI分野とIoT分野、いずれも日本が欧米に後れを取っていないことです。AI分野は今、第3次ブームを迎えています。1950~60年代の第1次ブーム、そして80年代の第2次ブームに比べ、AIを実用できる段階にあるのが第3次ブームの大きな違いです。第3次ブームで鍵を握っているのが「機械学習」、特に昨今大きなブレークスルーをもたらしている「深層学習(ディープラーニング)」といった分析技術です。これらの技術は高等数学の塊であり、高等数学で構成された数式を半導体チップでひたすら計算して分析結果を出しています。

高等数学が分かるのであれば、第3次ブームのAI分野で活躍できるといえます。幸いなことに、日本では高等数学を取り扱える研究者が育つ環境が欧米よりも充実しており、高等数学に精通する研究者は欧米よりも多いくらいです。

(注)村上氏によると、「高等数学を取り扱える研究者」とは、素粒子物理学で博士号を取得したようなクラスの人材をいいます。

しかし、研究者の中には博士号を取得したものの大学や研究機関などでの研究ポジションに恵まれず、進学予備校の講師などを兼ねながら生活している人たちもいます。こうした人材をAI分野で活用できる可能性が高いと、私は考えます。

AI分野で活躍している研究者は現在、世界全体で数千人しかいないと言われ、世界的に人材獲得競争の真っただ中にあります。有望な研究者を生み出せる状況にあることは、日本にとって有利といえるでしょう。

――つまり、AI分野で活躍できる“素養のある”人材が豊富な日本は、第3次ブームの中で世界的に先行できる力があるということですね。実際、日本ではAI分野のベンチャー企業が次々に誕生しています。しかも、20代や30代の若手研究者が第1線で活躍しています。こうしたベンチャー企業の事業内容を見ると、AI技術を使って利用者の課題を解決する具体的なサービスを示しており、提案力の高さをアピールしています。

繰り返しになりますが、AI分野の第3次ブームが過去と違うのは、実用できる段階にあるということです。ただし、「実用できる」といっても実際に使ってもらえなければ、市場は広がりません。そのため、AIを様々な用途で使ってもらえるように、AI機能の利用を手助けするツールの開発競争が盛んになっています。日本のAIベンチャーもツールの開発に力を入れており、存在感を示す企業も出てきました。AIがあたかも、表計算ソフトの「Excel」のように誰でも簡単に使えるようになる時代がやがて到来するでしょう。

――IoT分野についても、日本は欧米に後れを取っていないと聞きますが。

IoTは、様々な物体がインターネットにつなげるというものです。それにより、物体に組み込まれたセンサーが検知する状況、例えば光や温度、圧力、動作などの情報(データ)をインターネットを通じてクラウドやサーバーに収集し、AIを使ってビッグデータ分析するといったことが可能になります。クラウドやビッグデータ分析といったところに注目しがちですが、ここで重要なのはインターネットにつながった端末側が検知する光や温度、圧力、動作といった実世界の“アナログ”情報を“デジタル”情報に高い精度で変換したり、逆にデジタル情報をアナログ情報に変換したりする部分です。前者はA-D変換、後者はD-A変換といわれ、いずれも日本には技術の蓄積があります。

ディープラーニングなど、AIは処理するデータ量が増えれば増えるほど賢くなり、より正確性の高い分析結果を導き出せるようになります。それには、実世界のアナログ情報を緻密にデジタル情報に変換することが欠かせません。

IoT分野では今後、端末側に向けた技術開発競争が激しくなると考えています。中でも、端末側におけるコンピューティング能力を高めて、より多くのデータを処理できるようになっていくでしょう。それには、高い処理能力を誇る半導体チップを端末に載せる必要があります。

IoT市場の拡大にしたがって、インターネットにつながった端末数は大きく増加していくでしょう。端末が検知した様々な情報をそのまま収集するのでは、インターネット回線がパンクしてしまいます。端末側でデータを処理しクラウド側でのビッグデータ解析に必要最小限のデータ量に減らすことが求められるでしょう。AI分析などクラウド側で担っていた処理を端末側で実行するということも起こります。さらにIoT機器を狙うサイバー攻撃の被害を最小限に抑えるために、端末側でセキュリティー対策を採る必要性が高まっていくはずです。それには、端末側のコンピューティング能力を高めることが不可欠です。 IoTは、「Internet of Things」を略したものです。いずれ、InternetがIntelligence(知性)に置き換わり、「Intelligence of Things」(モノの知性化)となるでしょう。

――ソフトバンクグループは、英半導体設計大手のアーム・ホールディングスを買収します。孫正義社長はアーム買収の発表記者会見において、アーム買収の背景にはIoT分野におけるアームの潜在能力の高さがあったことを明らかにしました。

孫氏はIoT分野の実体や今後を冷静に見極め、「半導体チップを制する者はIoTを制する」という結論に至ったのでしょう。IoTで覇権を握るにはプラットフォームを押さえねばなりません。IoT分野におけるプラットフォームの根幹を突き詰めて考えるとコンピューティングを担う部分となり、そこはまさに半導体チップの担当です。IoT分野で必要とされる半導体チップは、今後ますますコンピューティング能力増強が求められます。ARM買収で、ソフトバンクはうまいところを押さえましたね。

村上憲郎氏(むらかみ・のりお)
1947年大分県佐伯市生まれ。70年京都大工学部卒。日立電子、日本ディジタル・イクイップメント(DEC)をへて、米インフォミックス、ノーザンテレコムの日本法人社長などを歴任。2003年から08年までグーグル米本社副社長兼日本法人社長、11年まで名誉会長を務める。現在、村上憲郎事務所代表

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