東京五輪を機にビジネスリーダーの転職市場は冬に?人材紹介会社・コンコードの渡辺秀和社長に聞く(1)

公認会計士・心理カウンセラー 藤田耕司

公認会計士・心理カウンセラー 藤田耕司
コンコードエグゼクティブグループの渡辺社長
コンコードエグゼクティブグループの渡辺社長

2020年の東京五輪・パラリンピック後の「post2020」はどんな時代になるのか。人工知能(AI)をはじめとする科学技術の進歩が人間の雇用を脅かす。そんな時代が迫りつつある今、転職市場はどうなるのか。市況の変化を読み解き、キャリア形成に動く好機を逃さないために、コンサルティング会社やファンド、外資系企業への転職に強みを持つ人材紹介会社、コンコードエグゼクティブグループ(東京・千代田)の渡辺秀和社長にpost2020を見据えた転職市場の動向について聞いた。(聞き手は公認会計士・心理カウンセラー 藤田耕司)

藤田 今の市況をどう見ていますか。

渡辺 ビジネスリーダーの転職市場は08年のリーマン・ショック前までは活況でした。しかし、リーマン・ショック後、市況は悪化し、冬の時代を迎えます。その後、09年6月ごろに底を打ち、そこから回復に向かいました。13年ごろにはリーマン・ショック前と同じくらいまで戻り、14年以降は現在も未曽有(みぞう)の活況です。

藤田 ということは、今は転職のチャンスといえますね。ここまで市況が活発になった原因は何でしょうか。

渡辺 グローバル競争が激化し、多くの日本企業が変革を加速させる必要に迫られている中で、ここ数年は企業の業績が比較的よく、先行投資を行いやすいことが大きな要因でしょう。現代では、大企業だけではなく中堅・中小企業も生き残りのために海外進出を考えなければいけなくなっています。M&A(合併・買収)による業容の拡大やインターネットビジネスなどの新規事業へ取り組む必要も出てきています。さらにデジタルマーケティングやAIへの対応など次々と新しい重いテーマが出てきています。このような新しいテーマに対応するのは、既存の社員だけではとても無理という状況が広がっています。そこで企業は各分野で経験豊富な即戦力人材を中途で採用しようとしています。

景気失速の可能性を踏まえ熟慮を

藤田 4年後の東京五輪までこの状況は続くのでしょうか。

渡辺 東京五輪前後で、景気が失速するともいわれていますが、そうなるのであれば、転職市場も全体としては悪化する可能性が高いでしょう。もちろん実際には景気が失速しないかもしれませんが、その可能性も踏まえてキャリアについて慎重に考えておいた方がよいと思います。

藤田 仮に五輪前後で景気が失速するとした場合、戦略的にキャリアを考える上では具体的にどういった動きが重要になると思いますか。

渡辺 例えば、五輪直前の19年から23年まで市況が悪くなるとしましょう。16年時点で相談者が30歳であれば、再び市況がよくなるころには37~38歳になります。このような年齢となると、未経験の職種へキャリアチェンジできる可能性は極めて低くなります。キャリア戦略上の大きな制約を受ける前に、自らが目指すキャリアへ早めに舵(かじ)を切っておいた方がよいと思います。しかも、16年の転職市場は未曽有の活況となっています。まさに今はチャンスの時期といえるでしょう。

「企業は経験豊富な即戦力人材を中途で採用しようとしている」と指摘する渡辺社長(右)

藤田 コンコードエグゼクティブグループは転職市場でどんな強みがありますか。

渡辺 人材紹介会社として、主にビジネスリーダーのキャリア支援に強いという特徴があります。相談者の多くは日系の大手企業で活躍している人たちです。年齢層は20代の第二新卒から50代のエグゼクティブまで実に幅広く、職種も経営企画、マーケティング、情報システム、法人営業、個人営業、経理財務、人事、秘書など多岐にわたります。

藤田 相談者の転職先はどのような企業が多いのでしょうか。

渡辺 コンサルティング会社、投資銀行、(未上場企業に投資する)プライベート・エクイティ・ファンド、外資系企業、ベンチャー企業の幹部への転職が多いです。

藤田 それは一般的には、かなり狭き門の転職先ですね。そういった難関企業に相談者が内定を獲得できるように支援するノウハウがあるのですか。

渡辺 当社のメンバーは長期的な視野で相談者を粘り強く支援していますし、短期的に損得を判断しません。例えば、相談者が当社経由で内定を獲得した場合でも、その話を無理に勧めることはありません。むしろ、他社経由でも、より良い内定の話であれば、そちらを勧めています。

1~2年かけて「狭き門」を突破

藤田 それでは人材紹介会社としては、自社の売り上げにならないですよね。

渡辺 はい。しかし、ここがキャリアコンサルタントの勝負の分かれ目です。目の前の売り上げが欲しくて無理に相談者を転職させようとするのか、相談者の立場から本当に勧められる転職先が見つかるまで粘り強く支援できるのか。当社は後者のタイプの支援をするように社内研修をしています。上司からメンバーへのアドバイスでも、それが徹底されています。メンバーに短期的な成果を求めたり、ノルマを課したりはしていません。場合によっては1~2年にわたって当社のメンバーが相談者に伴走させてもらうこともあります。こうしたスタンスで相談者と関わることが狭き門への転職を決めるためにはどうしても必要になります。

藤田 転職に向けた活動が長期になる場合もあるのですね。その場合、転職市場の状況がどう変化するのかも見極める必要がありそうです。

渡辺 ビジネスリーダーのキャリアチェンジは転職市場の好・不況に大きく影響を受けます。実は、同じ企業でも市況によって受かりやすさが全く異なります。人気の有名企業も好況時にはそのハードルが下がりますし、不況時には、あまり人気がない企業でも入るのが難しくなります。そのため市況の良い時に転職を検討し、市況が悪い時には無理に動かずじっと待つのが基本的な考え方となります。

藤田 著書の「ビジネスエリートへのキャリア戦略」(ダイヤモンド社)で、「キャリア戦略」という考え方を提唱していますね。次回はこのキャリア戦略について話を伺います。

わたなべ・ひでかず 一橋大商卒。三和総合研究所(現三菱UFJリサーチ&コンサルティング)戦略コンサル部門を経て、人材紹介会社のムービン・ストラテジック・キャリア(東京・中央)で5年連続ナンバーワンキャリアコンサルタントとして活躍。2008年にコンコードエグゼクティブグループを設立。ビズリーチ(東京・渋谷)が主催する「日本ヘッドハンター大賞2010」のコンサルティング部門で初代MVPを受賞。1000人超の相談者をコンサル業界やファンド、事業会社の幹部に転身させてきた。著書に「ビジネスエリートへのキャリア戦略」(ダイヤモンド社)がある。
ふじた・こうじ 公認会計士、税理士、心理カウンセラー。早大商卒。監査法人トーマツを経て日本経営心理士協会、FSG税理士事務所、FSGマネジメントを設立。経営コンサルティングと心理学を融合した経営心理学の普及活動を行い、企業の経営顧問、経営者のメンターを務める。主な著書に「リーダーのための経営心理学」(日本経済新聞出版社)がある。

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