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生き残りの要 仕事場で「繊細な人」が必要なワケ

日経ウーマンオンライン

2016/8/31

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アメリカで注目が集まっている“ハピネス研究”を知っていますか? この分野では、「働く人の精神がどのように仕事に影響するか」についての研究が盛んに行われ、それが実践の場でも取り入れられています。これは仕事で感情を出すことをタブーとしがちな日本とはずいぶん違う考え方です。翻訳・通訳者の相磯展子さんが、「ハピネス研究」をはじめとする海外の仕事観を紹介しながら、日本の仕事の常識に疑問をぶつけます。

いわゆる繊細な人は仕事場では不利な立場に立たされます。あなたもその一人ではないでしょうか? そして、自分の繊細さを弱みだと考え、なんとか改善しようとしていませんか?

今回の記事はそんなあなた、もしくは繊細な人についてもっと知りたいと考えているあなたのためのものです。単なる「欠点」だと考えられがちなこの特性が、研究の領域でどう捉えられているかをご紹介します。新たな視点を得ることで、自分の繊細さを乗り越えるのではなく、それを生かすきっかけになればと思います。昨日の記事「繊細なのはダメなこと? 強くなる努力は必要なのか」では、繊細な人のための「自分を守るための3つのステップ」をご紹介しましたが、ぜひそれと合わせて読んでみてください。

■「繊細さ」は生き残りの戦略

Elaine Aron(エレイン・アーロン)博士は、90年代の頭に世間一般では「繊細」と称される特性についての研究をはじめました。彼女は1996年にこの特性を「ハイリー・センシティブ・パーソン(Highly Sensitive Person、以下HSP)」と名付け、現在に至るまでその研究を続けてきました。Aron博士によると、実に人口の20%がHSPに当てはまります。また、それは生まれつきの特性で、人間に限らずコバエ、鳥、魚、イヌ、ネコ、馬、霊長類まで、実に100種類以上の動物にも観察できることから、生き残りの戦略の一つと考えられています。

では、HSPとはどういった特性のことなのでしょうか? シンプルに言うと、普通の人より周囲の状況に敏感な人のことです。光、臭い、音などに敏感だったり、仕事が多いと動揺しやすかったり、一人の時間が必要なタイプの人はこれに当てはまります。また子供の頃に、親や先生に「繊細」「人見知り」と言われた記憶がある人もHSPの可能性高いと言われています。Aron博士は、HSPの特性を「DOES」に対応する4つのポイントにまとめています。

・情報の処理の仕方が、普通の人より複雑(Depth of processing)
・刺激過多になりやすい(Overstimulation)
・感情的に反応しやすく、共感しやすい(Empathy and emotional responsiveness)
・普通の人が気づかないような些細なことに気づく(sensitivity to subtleties)

■「繊細な人=内気、神経質」は単なる偏見

Aronいわく、HSPの人は「内気」「感情を表さない」「こわがり」「神経質」と言われがちですが、これらはすべて後天的に習得された特性です。実はHSPの30%は外交的であることが分かっています。HSPは周囲のネガティブな反応によって、上記の習性を身につけてしまうことはありますが、それは本来の特性とは別のものです。つまり、HSPに対する「内気」「神経質」といったネガティブなイメージは単なる偏見に過ぎないのです。

■HSPは環境次第で優れた能力を発揮する

HSPは単に欠点を抱えた人なのでしょうか? どんな特性もそうであるように、HSPにはメリットも、デメリットもあります。HSPの場合は、良くも悪くも環境に影響を受けやすいという点が挙げられます。「ハイ・センシティビティー」(強い感受性)についてのトーク[注]で、Aron博士はいくつかの研究成果を引き合い出しています。今回はその中の2つを取り上げたいと思います。

Stephen Suomi(スティーブン・スオミ)博士が実施したアカゲザルの実験は、特に興味深い発見につながっています。Suomi博士はアカゲザルの群れをストレスに過敏な「内気(uptight)なサル」と「どっしり構えた(laid-back)サル」との2つに区別しました。そして、生まれたばかりのサルの子を母親から離し、代理の優れた母親(highly-skilled mothers) 、もしくは普通の母親(ordinary mothers)に育てさせたのです。その結果、優れた代理の母親に育てられた内気なサルは、後に群れのリーダー格に成長しました。

Aron博士は、「このようにHSPは極めて有利な特性なのである。その理由から非常に敏感であることは喜びである」とも述べています。

実は同じような結果が人間の子供でも見つかっています。人間に異なる感受性の度合いがあることを意味する「感受性差異(differential susceptibility )」の概念を提唱したJay Belsky(ジェイ・ベルスキー)博士とMichale Pluess(マイケル・プルエス)博士は、いわゆる感受性が強く、ネガティブで、扱いにくいと思われる子供は、良い環境の中では周囲よりも優れた能力を発揮することを発見しました。

■繊細な人は、環境変化への対応が得意

常に周囲の状況を観察しているHSPは、実は環境変化に対応することに長けています。これは目まぐるしく変化する社会では必要不可欠なスキルでもあります。アーロン博士は、仕事の場面でのHSPについて次のように述べています。

[引用] HSPは一般的に注意深く、誠実、仕事の質にこだわり、細かいことが得意で、直感的な洞察力を持ち、才能があり、クライアントのニーズをよく考え、仕事場の雰囲気を和ませる。端的に言うと彼らは理想の従業員なのだ。どんな組織もこのタイプの人が必要である。
(Elaine Aron『The Highly Sensitive Person』)

また、HSPの従業員は本来、健全な仕事環境の中では優れた才能を発揮するのです。

[引用] (HSPに見られる)強い感受性、高度な認知能力は、劣悪な環境では傷つきやすいということではなく、より正確には環境に対する感度、適応性を意味する(Biological Sensitivity to Context, Ellis et al 2008;, Vulnerability of Plasticity Genes?, Belsky & Pluess 2009)。つまり、不健全な仕事環境の影響をいち早く受けるのは繊細な従業員だが、逆に健全な環境では彼らがもっとも力を発揮する。健全な仕事環境を整備する努力を怠らず、従業員にとってポジティブな制度などを導入する組織は、とても敏感な従業員からもっとも大きなリターンが返ってくる。
(HRZone「Highly Sensitive People in the workplace - from shame to fame」)

またHSPは仕事場のバロメーターとして、問題をいち早く感知します。つまり、彼らに合わせた仕事環境の整備は、他の従業員にとっても働きやすい場所なはずです。

[引用] すべての従業員が遅かれ早かれ影響を受けるが、特に感受性が強く、情報の処理能力に長けている人の方が先にものごとの影響を受けやすい。これがなぜ重要かと言うと、繊細な人の状態が、仕事環境の良いバロメーターになること意味するからだ。つまり、他の従業員が悪い影響を受ける前に、彼らはリーダーに仕事場を改善するための貴重な情報を提供しているのである。
(HRZone「Highly Sensitive People in the workplace - from shame to fame」)

*  *  *

いかがでしたか? これだけでもあなたの「繊細さ」の見方がずいぶん変わったのではないでしょうか?

残念ながら、こうした繊細な人の魅力は、仕事場ではほとんど理解されていません。繊細さは欠点である、とする社会通念をそのままうのみにするのではなく、自身についての理解を深めていくことが、状況を変えていくための第一歩だと思います。

「己を知る」ということが、繊細な人にとっては非常に大事なことなのです。自分の特性に合った環境を探す、もしくは自ら自分に合った環境、仕事を作り出していく力が必要です。

繊細な人も、そうでない人も、今回の記事で「繊細さ」というものがより客観的に見られたのではないでしょうか。あなたの仕事での前進を後押しするきっかけ、もしくは繊細な人とうまく付き合っていくヒントになればと思います。

相磯展子(あいそ・のぶこ)
翻訳・通訳者。アート専門の翻訳、通訳、プロジェクトの企画運営などを行うArt Translators Collective副代表。ネイティブレベルの英語力を活かし、書き手・話者の視点に寄り添う翻訳・通訳に定評がある。美術館、財団、雑誌などの出版物の翻訳、ウェブメディア記事の翻訳・執筆のほか、イベントやシンポジウム等の通訳や海外とのコレスポンデンスなども行う。

[nikkei WOMAN Online 2016年8月4日付記事を再構成]

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