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「親なき後問題」 親はお金を子名義にしていけない 弁護士 遠藤英嗣

2016/9/2

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 障害のある子どもや自分では財産管理ができない子どもを、親の死後どのように支援していくのかという「親なき後問題」。これは親が生前に解決しておかなくてはいけない大事な問題なのですが、現実には大変難しいのです。

 「親なき後問題」には支援者である「親」と支援を受ける「子」がいるわけですが、今日では親が高齢化し「親自身の支援」も必要になるケースが増えています。自ら支援が必要であると気付いたときには、手遅れということさえもあります。しかし多くの場合、「自分はどうなってもいい」「子どもさえ幸せになれればいい」という考えで、自分の金融資産を子ども名義に移す人が少なくありません。

 今回は、子ども名義にした金銭に関する問題を取り上げます。

■子ども名義にしたお金は「捨て金」

 今年7月と8月、親なき後家族信託に絞ったセミナーで講師をしました。いずれも障害がある方の親御さんなど親族の人が受講生で、セミナー終了後に個別相談なども行いました。

 セミナーの中で私は、「親の金を子ども名義の口座に移すことだけはやめられた方がよい。特に相続人のいないお子さんのお金は、家族にとって捨て金になる恐れもある」と説明しました。

 なぜかというと、子どもに名義を移してしまうと、親御さんがこの金を使おうと思っても手が出せなくなりますし、しかも一人っ子の場合、特別縁故者の例外があるとはいえ、残余財産はほぼすべて国庫に帰属してしまうからです。

 まず親御さんが死亡しますと、財産を適正管理するために、多くの場合、お子さんには成年後見人が選任されます。親が残したお金は成年後見人によってすべて管理され、さらに後見制度支援信託により信託銀行に預託されることもあります。信託銀行に信託された金銭は、本人に特別な事情がない限り使えなくなるため、ほとんどの金融資産が残ってしまうことになります。

 お子さん自身は重い障害があり、意思表示もままならないため、いま置かれている立場に対して不満を訴え、クオリテイーの高い生活やよりレベルの高い介護などを要求することは考えにくいといえます。また、本人が多額な金銭を持っていたとしても、これが使われるのは、重い病気をして高額療養費を支払うときなどに限られると思います。

 こうして、ご本人の財産(預金等)はほとんど残ってしまい、他に相続人がいない場合は国庫に帰属するのです。

■宙に浮いたお金

 親の生前に子どもの名義にしたお金は法律的に見ると、親から子どもへの贈与です。贈与は契約なので、差し上げる人ともらう人が合意しないと贈与契約は成立しません。

 しかし、子どもは「もらいます」とは言えない知的障害などがあるため、子どもの名前を借りた「名義預金」となり、税法上は親御さん本人のもので、親本人が死亡した場合はその遺産として扱われます。預金通帳や印鑑の管理、預金の預け入れなどを親御さんが行っていると、「名義預金」と判断される可能性が高くなります。

 ところが、本人たちはこの預金を相続財産であるとは認識していないため、親が死亡しても、相続税の申告書にはこの名義預金は記載されない例が少なくないのです。その結果、相続財産の記載漏れとなり、相続税の追徴・延滞税の対象となってしまうのです。

 しかし、預金先の金融機関から見ると、この預金は名義人本人、つまり子どもの預金となるため、これを払い戻すには子ども本人、またはその代理人でないとできません。子どもは障害があり払い戻し手続きなどはできませんので、法定代理人である成年後見人が選任されることになります。

 このように手続きを踏んだとしても、いったん名義を変更したお金はもう、親は使えません。預金の払い戻しができたとしても本人名義のものは本人しか利用できないからです。親がこれを使うとすると成年後見人相手に裁判を提起するほかありませんが、後見人から「預金された金銭はもらいます」(贈与契約の承諾)といわれたらそれに従うしかありません。

 障害がある人には、重度ですと毎月7万円余りの障害者年金が給付されます。また、重い障害がある人はほとんどの人が施設に入所していますが、入所費用には多くは補助があり、無料だという例も多いのです。そのため障害者年金が手付かずの状態で残り、二十数年間で2000万円ぐらいになるといわれています。

 このお金は障害者の親の会が立ち上げたNPO法人などが管理している場合が多く、本人が親よりも早く亡くなると親が相続することになります。しかしながら多くのケースでは親が先に死亡しているので、本人の兄弟が相続することになります。兄弟がいない場合は、多くは国庫に帰属することになります。もちろん、特別縁故者に一部または全部給付されることもあるのですが、全ての財産が特別縁故者に給付されるのは例外中の例外のようです。

■家族信託ができること

 本当に障害を持つ子どもを助けたいのであれば、「親なき後支援信託(遺言代用型信託)」を選ぶべきです。

 遺言代用型信託というのは親御さんと信託を引き受けてくれる受託者との契約です。例えば、親が信頼できるおいなどの親族に財産を信託譲渡し、親自身を自己の生存中の受益者(生活費等の給付を受ける人)とし、障害がある子どもを「死亡後受益者」とします。

 死亡後の受益者とすることによって、親の考えどおり親の死亡後、子どもに対する様々な支援や手配などを信託によって達成できるわけです。

 私は障害がある子どもを持つ親から相談を受けたときには、家族信託の「後継ぎ遺贈」の話をすることにしています。

 後継ぎ遺贈とは親のSさんがその財産の権利(受益権)をまず、障害がある子どもBさんに取得させ(なお信託契約によってはまずは自分が受益権を取得し、Sさんが死亡後、子どものBさんに取得させるケースもある)、Bさんが死亡した後はBさんの世話をした親族Tさんや団体などに承継させて財産を残す方法です。

 民法ではSさんの財産(所有権)を子どものBさんに相続させると、「Sさんの意思」でBさんの死後、Bさんの世話をしたTさんに財産(所有権)を承継取得させることはできませんが、この仕組みを使えば、子どもの死亡後の残余財産は、2人を助けた親族などに残すことができます。信託を活用した後継ぎ遺贈という特別の機能で、2代、3代と受益者を連続させて財産を残せます。

 家族信託は親も子どもも助ける仕組みであり、しかも残った財産を確実に世話になった人や団体に残せる仕組みでもあるのです。

遠藤英嗣(えんどう・えいし) 1971年法務省検事に就任。高松地方検察庁検事正などを歴任し、2004年に退官。05年公証人となり、15年に退官。公証人として作成した遺言公正証書は二千数百件に及ぶ。15年に公証人を退官し弁護士登録。日本成年後見法学会常務理事を務めるほか、野村資産承継研究所研究理事として税務の専門家と連携して、資産の管理・検証などを研究する。主な著書に「増補 新しい家族信託」(日本加除出版)、「高齢者を支える市民・家族による『新しい地域後見人制度』」(同)などがある。

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