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エシカル消費 普及に壁 理念と品質 両立カギ

2016/9/4

「トゥル-ベリー プラス ヴィーガニー」は有機栽培原料の飲料や途上国支援の工芸品を販売(東京都港区)

 社会貢献につながる「エシカル(倫理的)商品」が増えている。一方で反応はいまひとつだ。途上国支援や震災の復興支援などで脚光を浴びたエシカル消費の再起動には何が必要か。

 7月、東京・表参道にエシカル商品の店「トゥルーベリー プラス ヴィーガニー」がオープンした。無農薬・無化学肥料のリンゴやニンジンを使ったジュースや、途上国の伝統技術による衣類や雑貨を売る。飲料をトゥルーベリー(東京・港)、衣類・雑貨をヴィーガニー(同)が提供する共同店舗で、エシカル消費を様々に楽しめる。

■途上国を後押し

 来店した会社員の高橋江理さん(34)は800円の無農薬のグリーンスムージーを飲み、インド人女性の手刺しゅうによるポーチを4212円で買った。ポーチをつくった女性らは所得の低い家庭で暮らす。購入によって雇用を支え、刺しゅうの技術が次代に残る。高橋さんは「応援したい気持ちとデザインの両方で決めた。かわいくてオシャレなので会社でも使える」と話す。

 エシカルに取り組む企業は増えている。宝飾品を扱うハスナ(東京・港)は鉱山の労働環境の基準を満たすゴールドを使ったブライダルリングなどを販売する。売上高は3年前の約2割増のペースで推移している。シチズンホールディングスは環境への負荷が少なく日本の伝統工芸も取り入れたエシカル時計を、9月中旬から4万2千~18万円(税抜き)で売り出す。

 化学肥料を使わない有機栽培原料とリサイクルを組み合わせるのは、大手スーパーのイオンだ。売れ残った食品を回収し、堆肥に加工して野菜を作る。6月、兵庫県三木市の農場からキャベツやダイコンを本格的に出荷した。同社の有機野菜・果物の販売量は前年比約2倍に増えている。

 エシカル消費とは、有機栽培など環境に配慮した食品や途上国の不当労働などが行われていないフェアトレード(公正な貿易)製品などの購入を通じ、社会貢献に寄与する取り組みだ。1989年の英専門誌「エシカルコンシューマー」の創刊を機に認識が広がった。例えばフェアトレードの認証を受けた製品は125カ国以上で流通する。国連は15年に、持続可能な生産と消費の枠組み作りを新たな目標に掲げるなど、世界でエシカルの関心が再び高まってきた。

 日本でも消費者庁が昨年、研究会を立ち上げ普及を後押しする。近年は五輪を開催する都市で、地域を挙げて途上国の自立を促す「フェアトレードタウン」の認証を受ける例が相次ぐ。20年五輪を開く東京都など国内も認証の取得に期待が強い。

■認知度まだ低く

 企業や自治体、政府の動きは活発な半面、肝心の消費者の反応は鈍い。東日本大震災を機に被災地の産品を買う応援消費が増えるなど、いったん普及に向けた機運が高まったが現状は伸び悩んでいる。

 普及を促す団体からフェアトレードの認証を受けた製品の市場は、1位の英国が約2千億円、2位のドイツは900億円を超すが、日本は15年にようやく100億円に達した。消費者の意識も低く、エシカルを知っている人は10%台前半と横ばいが続く。

 エシカル商品は高価なものが目立つ。食品スーパーの有機食品は非有機食品に比べ2~3割、割高なことが多い。英国やドイツではコスト高を企業努力で吸収し、売値を抑えているといわれる。消費者の関心を呼ぶには値段に気配りしつつ、食品なら味の良さ、衣類・雑貨なら肌触りやデザインの良さを両立させることが不可欠となる。

 「持続可能な社会づくりが求められる中、企業のエシカル事業が低調になることはない」(大和総研の河口真理子・主席研究員)との指摘は多い。エシカルは商品を選ぶ上で重要な要素となりうるが、日本での普及には乗り越えるべき課題が山積している。

 ◇   ◇

■世界で広がるフェアトレードタウン、日本は3都市のみ

 エシカル(倫理的)消費の代表例であるフェアトレード。不当労働や児童労働を認めない生産による消費のことだが、この考え方に基づいた街づくりが世界的に広がっている。地域の企業だけでなく、自治体の公共調達にもフェアトレードが浸透し、各自治体は「フェアトレードタウン」を相次ぎ宣言している。しかし、日本では熊本市など一部に限られており、認知度が高まっていないのが現状だ。

 NPO法人フェアトレード・ラベル・ジャパン(東京・中央)によると、フェアトレードタウン認証を取得した自治体は世界30カ国・1700以上に達する。ロンドン、パリ、ローマなど各国の首都も認証を得ている。

 世界初のフェアトレードタウンは、2000年に宣言した英国のガースタンだ。これを皮切りに欧州をはじめ世界各国に広がった。フェアトレードタウンとなるには、各国の認証団体の認証を得る必要がある。日本では一般社団法人日本フェアトレード・フォーラム(東京・新宿)に申請し、認証を得る。その基準は、地域にフェアトレードタウン運動の推進組織が設置されているほか、2品目以上のフェアトレード商品を扱う店舗が人口1万人あたり1店舗以上(人口3万人未満の自治体は2店舗以上)あることなど6つの基準だ。

 日本で最初のフェアトレードタウンは、11年の熊本市。次いで15年の名古屋市、今年7月には神奈川県逗子市が認証を得た。今のところ、この3都市のみだ。札幌市や宇都宮市などフェアトレードタウン運動をしている都市はあるが、その数は少ない。首都である東京都でも表だった運動はみられない。

 最近は「五輪開催都市=フェアトレードタウン」が通例になりつつある。12年夏季五輪のロンドンはかねて認証を得ており、リオデジャネイロは16年夏季五輪の開催中に認証を得た。ロンドン五輪ではコーヒーや紅茶、チョコレート、砂糖、ワインなどがフェアトレード認証の商品だった。日本オリンピック委員会(JOC)は持続可能性に配慮した五輪運営を目指しているが、一過性ではなく、東京都もフェアトレードタウンを目指すべきだという声が出ている。五輪都市・東京都が認証を取得すれば、全国的にフェアトレードタウン運動が広がっていく可能性がある。

エシカル協会は「フェアトレード・コンシェルジュ講座」でフェアトレード普及の担い手を育成している(東京都品川区)

 ただ、フェアトレードタウンになるには、まず市民や企業の間にフェアトレードの考え方が浸透する必要がある。フェアトレードの普及を巡って、一般社団法人エシカル協会(東京・品川)は「フェアトレード・コンシェルジュ講座」を定期的に開催している。全8回のうち最低6回の受講で、フェアトレードの普及を担うコンシェルジュの認定証を渡す。10年にスタートし、これまでに約1000人が受講、300人近いコンシェルジュが誕生している。ほかにも普及拡大のための市民向け講座を開く団体は増えている。こうした動きがどこまで実を結ぶのか、注目される。

 ◇   ◇

■「やらない企業ダサい」「セレブ向けでは」 賛同目立つが価格に難色

 ツイッターではエシカル消費に賛同する意見が目立った。「安くて便利より、エシカルなことが当たり前のことになればいい。キレイごとと言われようが、やらない企業はもっとダサいと思いますよ」「国内でのフェアトレードというか、エシカルな消費の運動ってしっかりやれないかな」との声があった。

 一方、「エシカルとかフェアトレード。でも高くて買えなくね?って普通の人はなる」「セレブしか買えないのかな」と価格の高さを指摘する書き込みもあった。また「エシカル?って初めて聞いた」などと認知度の低さを示すつぶやきも見られた。調査はNTTコムオンラインの協力を得た。

(福士譲)

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