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まだ続く? 投信業界の不思議な慣行(窪田真之) 楽天証券経済研究所所長兼チーフ・ストラテジスト

2016/8/30

「日本の投資信託の販売には不思議な慣行がある。米国とは逆に『古いファンドはほとんど売れず、新しいファンドばかり売れる』ことだ」

日本の投資信託の販売には不思議な慣行があります。「古いファンドはほとんど売れず、新しいファンドばかり売れる」ということです。米国では新しく出たばかりのファンドは運用実績がないので信用されません。最低でも3年、望ましくは5年以上の良好な運用実績がないと売れません。日本とは逆です。

なぜ、そうなるのでしょう? それは古いファンドから新しいファンドに乗り換えてもらうことで販売手数料を稼ごうという業界の問題であると同時に、投信を購入する個人投資家の問題でもあります。過去の運用実績を見ないで、販売会社が勧める新しいファンドばかり買うからです。大切なお金を預けるのに、そんな他人任せの姿勢でいいのでしょうか?

私は2013年まで25年間、日本株ファンドマネジャーをやっていました。1999年からは投資信託の運用を担当しました。99年に投信運用をスタートしたときは、希望に満ちあふれていました。

当時、私は次のように考えました。「日本では古いファンドは運用実績の良いファンドでも売れない。でも、これから日本も変わる。米国のように、過去の運用実績を見て、いいファンドが選好される時代になるはずだ」

私はそのとき、ロングランファンドとして有名な米国の「マゼランファンド」のように長期で好成績を上げ、運用残高を増やしていくファンドマネジャーになることを目標としました。

その後、2014年1月まで13年半にわたり、私はそのファンドの運用を担当しました。苦労もありましたが、担当した期間はベンチマーク(基準となる指標)であるTOPIX(東証株価指数)を大きく上回るパフォーマンスを上げることができました。

ところが、日本の投信の販売慣行は変わりませんでした。私のファンドが証券会社の店頭で積極的に販売されたのは、最初の1年だけでした。後は、ファンドに新規の資金はほとんど入ってきませんでした。

近年になり、ようやく長い期間に運用実績のあるファンドを見直して販売する動きも出ていますが、販売の主流がなお新しいファンドという実態は変わっていません。

そればかりか、近年は日本独自の不思議な慣行が新たに加わりました。投資家に分配金を毎月支払う「毎月分配型ファンド」ばかりがよく売れるという奇妙な現象です。分配金を抑えて長期で資産形成を図るファンドは人気がありません。利益が出ても出なくても、とにかく毎月の見かけ上の分配金の利回りを高くするファンドに人気が集まります。

毎月分配型ファンドには販売手数料が高く、信託報酬(運用管理手数料)の高いものがたくさんあります。販売会社が利益のために手数料の高いファンドを売りたがるのはわかりますが、個人投資家がなぜ手数料が高い毎月分配型ファンドばかり買うのかは理解に苦しみます。

有力な説明は分配金利回りを、総合利回りと勘違いしているという説です。毎月分配型の投信には見かけ上の年利回りが、5~10%に達するものもあります。低金利時代に、一見、有利なファンドに見えます。

ただし、一見高利回りのファンドは必ずしも利益からだけ分配金を支払っているのではありません。分配金を支払うための十分な利益が上がっていないときは、元本を分配金として払い戻すことができる仕組みになっています。つまり、利益が出ても出なくても一定の金額を「分配金」として配分し続けているわけです。

利益も出ていないのに元本払戻金ばかり出している、人気の高分配利回りファンドには、基準価格が6000円や7000円、あるいは5000円以下まで下がっているものが多数あります。日本の公募投信の基準価格は1万円からスタートしているわけですから、何割も下がっているわけです。

日本の個人投資家はほとんどが、過去の運用実績をチェックせずにファンドを買っています。分配金の中身や、ファンドの手数料すら確認せずに、投信を購入している人が多いのです。

販売現場では「このファンドは分配金利回りが高くていいですよ!」が最もシンプルで心に響くセールストークになっているそうです。自分の大切なお金を手数料や分配金の仕組み、運用の中身をきちんと理解しないで、投資するのはいかがなものでしょう。

日本になかなか、20年、30年と運用を継続し、好成績を上げながら資産規模を拡大していくファンドが現れません。それは販売する側の問題ではありますが、投信業界の不思議な慣行を疑問にせず、販売会社の言うがままにファンドを買う、個人投資家の体質によるものでもあります。

しかしながら、こうした日本の特異な投信販売慣行は「次の10年で変わる」と私は考えます。長期間で好成績を上げている良いファンドが売れずに、手数料の高い毎月分配型ファンドばかりが売れるという非合理な慣習がいつまでもまかり通るはずはないと思います。本格的な資産運用時代を迎える今後10年を考えると、さすがに日本も米国のようになっていくと信じています。

特異な慣行を変えるにはまず個人投資家が賢くならなければなりません。個人投資家が長期で好成績を上げているファンドを選好するようになれば、販売会社も新しいファンドばかり売ることはできなくなるでしょう。長期で勝つファンドというのは地味で必ずしも派手さはありません。個人投資家の皆さんはこうしたファンドを探してみてはいかがでしょうか。

プロのポートフォリオは運用に精通したプロが独自の視点で個人投資家に語りかけるコラムです。原則火曜日掲載で、楽天証券経済研究所所長兼チーフ・ストラテジストの窪田真之氏とレオス・キャピタルワークス社長兼最高投資責任者(CIO)の藤野英人氏が交代で執筆します。
窪田 真之(くぼた・まさゆき) 楽天証券経済研究所所長兼チーフ・ストラテジスト。1961年生まれ。84年慶応義塾大学経済学部卒業後、住友銀行(現三井住友銀行)入行。87年住銀バンカース投資顧問(当時)に出向、日本株ファンドマネジャー兼アナリスト。90年住友銀行証券部海外業務開発プロジェクトチームに異動、91年ニューヨーク駐在。92年住銀投資顧問(当時)日本株ファンドマネジャー、99年大和住銀投信投資顧問日本株シニア・ファンドマネジャー、2014年2月楽天証券経済研究所チーフ・ストラテジスト。15年7月から所長兼務。大和住銀投信投資顧問では日本株の運用歴25年のファンドマネジャーとして活躍した。99年の運用開始から13年まで担当した「大和住銀日本バリュー株ファンド」(愛称「黒潮」)は長期に安定した成績で知られる。金融庁企業会計審議会の会計部会臨時委員も務める。著書に「投資脳を鍛える!株の実戦トレーニング」(日本経済新聞出版社)、「クイズ 会計がわかる70題」(中央経済社)など多数。

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