見え透いた言い訳に英語で対応するには?
デイビッド・セイン(21)
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NK商事のお抱えコンサルタントのリチャードの怪しさは、どんどん広がってきています。まり子部長にも社長にも知れるところになれば、いよいよ事態は大きく動きそうな予感です。
リチャードのその場逃れの言い訳もそろそろ種が尽きそうです。
リチャードの言い訳に対応する部長と社長。
あなたは見え透いた言い訳 a flimsy excuseに対応することできますか?
イラスト Dセイン
Mariko: Richard, we need to talk. You can't put off your report any longer.
Richard: I know, but the problems here are much more complicated than I thought.
Mariko: At the risk of being rude, that sounds like an excuse. You're a professional consultant, and you need to start acting like one.
Richard: No, I'm not making excuses.
Mariko: You've got to come clean. If you're not up to this job, just say it.
Richard: Well, the company hasn't been that cooperative.
Mariko: Now, that's not true at all. You can't blame anyone but yourself.
Richard: I know, but...but...but...
Mariko: Let me give you some advice. Ready or not, just give us what you have tomorrow.
Richard: Well, I'm pretty busy tomorrow.
Mariko: That's just another excuse.
【対訳】
まり子: リチャード、ちょっと話をしましょう。報告書はこれ以上延ばせないわよ。
リチャード: 分かっています。でもここでの問題は、思っていた以上に複雑すぎて。
まり子: 失礼を覚悟で言わせてもらうけど、それは単なる言い訳にしか聞こえないわ。あなたはプロのコンサルタントでしょ。そのように振る舞い始める必要があるはずね。
リチャード: 違います。言い訳をしているのではありません。
まり子: 正直にならなくっちゃね。もし、この仕事が無理なら、そう言ってちょうだい。
リチャード: その、会社がそれほど協力的ではなくて……
まり子: それは全くの真実ではないでしょう。責めるべきは自分よ、他の誰でもないわね。
リチャード: 分かっています、でも、でも……
まり子: 少しアドバイスしておくわね。準備できていようがいまいが、明日あなたのあるものをちょうだい。
リチャード: ええと、その……明日はとっても忙しくて。
まり子: また言い訳ね。
解説)
▼ put off: 先延ばしにする/延期する
* Don't put off till tomorrow what you can do today. 「今日できることを明日に延ばすな」
▼ much more complicated than I thought: 私が思っていた以上に遥かに複雑である
▼ at the risk of being rude: 失礼を覚悟で/承知のうえで
*at the risk of…: ~を覚悟で/犠牲にして
▼ come clean: 泥を吐く/本当のことを言う
▼ be up to this job: この仕事を遂行できる/この仕事に耐えられる
▼ You can't blame anyone but yourself.: 「自分自身以外の誰をも責めることはできない」すなわち「責めるべきは自分であり、他の人ではない」ということ。
▼ ready or not: 準備できてようが、できていまいが
Tanaka: Richard, do you have a minute?
Richard: Sorry, I'm on my way out. Can we talk later?
Tanaka: No, we can't. I don't want any more ifs, ands or buts. Just tell me what's going on.
Richard: I need more time to investigate the situation here.
Tanaka: That's a pathetic excuse. You've had lots of time.
Richard: Don't get me wrong. I'm not making excuses. I...
Tanaka: I've had it up to here with your excuses. You need to take responsibility.
Richard: Give me a break! I've been doing the best I can.
Tanaka: You've been busy making excuses. I'm at the end of my patience.
Richard: Okay, I'll give you my report tomorrow.
Tanaka: Good. Don't let me down again. This is your last chance.
【対訳】
社長: リチャード、ちょっといいかね?
リチャード: すみません。今ちょっと出るところなんですが、後でお話しできませんか?
社長: いや無理だ。「もし」も「そして」も「でも」も、もういらない。ただ今どうなっているかを話してくれたまえ。
リチャード: ここでの状況を調査するにはもう少し時間が必要なんです。
社長: 下手な言い訳だな。君はもうずいぶん多くの時間を使ってしまった。
リチャード: 悪く取らないでください。言い訳をしているんではないんです。私は……
社長: もう君の言い訳にはうんざりだ。君には責任を取る必要がある。
リチャード: ちょっと待ってくださいよ。私はベストを尽くしています。
社長: 君は言い訳ばかりだね。堪忍袋の緒が切れそうだ。
リチャード: 分かりました。明日報告書を出します。
社長: 分かった。二度とがっかりさせないでくれよ。これは君のラストチャンスだ。
解説)
▼ Do you have a minute?: 「1分あるかな?」すなわち「ちょっといいかな?/ちょっといいですか?」
▼ I'm on my way out.: 今出るところなんです。
* be on one's way to…: ~へいくところ
▼ I don't want any more ifs, ands or buts.: 「もし」も「そして」も「でも」ももういらない。
* if, and, but もすべていいわけをする場面で使われる言葉です。ここですべての接続詞にs がついていることに注目しましょう。ここでは「名詞」扱いとなっています。
▼ pathetic excuse: 下手な言い訳
*pathetic: みじめな、哀れを誘う
▼ I've had it up to here with your excuses.: 君のいいわけにはもううんざりだ
*I've had it up to here with…: ~に「うんざりする/我慢できない」ものを入れて、「~にはもう我慢できない、もううんざりだ」の意味になります。
▼ I'm at the end of my patience.: 「私は忍耐の最後にいる」すなわち「堪忍袋の緒が切れそうだ/我慢の限界だ」の意味になります。
*I'm at the end of my rope.: 「私の命綱の端っこにいる、もうこれ以上進めない」すなわち「もうどうにもならない/万策尽きた」の意味。
▼ Don't let me down.: がっかりさせないでくれよ。
* let…down: ~をがっかりさせる/信頼を裏切る
セインのビジネスひと口メモ
自分が思っていた通りに事が運ばないと、なぜそうなったのか理由を説明したくなるのは人間としてはごく自然なことです。しかしアメリカなどの国では、理由を説明するのに終始すると、言い訳ととられかねません。そしてその言い訳を「嘘」と感じる人もいます。そうなれば、言い訳をしている人に対する評価は弱い人。例えば、遅刻したとします。もし、遅刻したことを謝罪し、言い訳をいっさいしなければ、それは逆に、その人の力強さを感じさせることになります。もし、理由の説明を始めれば、何か薄っぺらい、あるいは下手な言い訳と取られることになりかねません。日本では、言い訳をする、それがたとえ嘘であっても、謝罪と共に説明することがベストと思われているようです。しかし、それはアメリカではベストとは言えません。
だからと言って、アメリカであっても、人に迷惑をかけながら、謝罪さえできないのであれば、他の人の好意や信頼を勝ち取ることができないことは言うまでもありません。
Do your best!
:D セイン
米国出身。累計売り上げ部数350万部の著作を刊行してきた英語本のベストセラー著者。英会話学校経営、翻訳、英語書籍・教材制作などを行うクリエーター集団「エートゥーゼット」(www.smartenglish.co.jp)の代表を務める。日本で26年以上の豊富な英語教授経験を持ち、これまでに教えた日本人は数万人にのぼる。日本人に合った日本人のための英語マスター術を多数開発している。
東京・文京区のエートゥーゼット英語学校の校長を務めるとともに、英会話教育メソッド「デイビッド・セイン英語ジム」(http://www.david-thayne.com)の監修も行っている。主な著書に、「チームリーダーの英語表現」(日本経済新聞出版社)、「ネイティブが教える英語の語法とライティング」(研究社)などがある。