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転ばぬ先の不動産学

相続税対策でアパート建築 3つのワナに注意 不動産コンサルタント 田中歩

2016/8/31

アパート建築は相続対策上、とても有利であることが知られています。例えば、相続税上の評価額が5000万円の更地を所有している場合を考えてみましょう。

仮に、この土地に賃貸アパートを建築して賃貸すれば、相続税上の評価額は約4000万円程度まで下がります。アパート建築費が4000万円だった場合、この4000万円を借入金でまかなったとすると、土地建物に関する相続税上の合計評価額は約2000万円(土地評価額4000万円+建物評価額2000万円-借入金4000万円)となり、更地のままのときよりも、相続税上の評価額が3000万円下がります。

このように、賃貸アパートを建築することは土地の評価が下がること、建物は時価よりも低い評価がなされること、借入金は相続財産から引き算できることから、相続対策としてとてもポピュラーなのです。

■家賃保証があっても安心できず

2015年1月から相続税法が改正され、基礎控除が従来の6割に圧縮されました。基礎控除とは相続財産から引き算できる金額のことで、従来は「5000万円+1000万円×法定相続人の数」でしたが、現在は「3000万円+600万円×法定相続人の数」となり、相続税がかかる人が増加する要因となっています。

この点に加え、超低金利の追い風でアパートを建築する人が増えています。結果、新築アパートであるにもかかわらず、15年6月以降、空室率が急増しています(グラフ)。今後はこれまで以上に家賃の下落リスクは高まると思ったほうがよいでしょう。

さらに、今後の人口減少の影響も考えておくべきです。東京都によると東京都区部でも20年をピークに人口が減少に転じる見込みです。

「30年間、業者が家賃保証をしてくれるから大丈夫」という話も聞かれますが、家賃保証は一般に2年ごとの更新となっており、さらに貸主と借り主(保証する側)が合意することが更新の条件となっていることが多いのです。

家賃相場が大きく下がれば、借り主は従前の家賃水準を支払うことに合意するはずはなく、結果として家賃保証を終了するか、保証家賃水準を下げるかの選択を迫られるわけです。

アパートを借入金で建築する場合は、毎月、元本と金利を返済することになります。元利均等返済とは元本と金利の合計が一定額のまま完済まで続く返済方法のことです。返済当初は元本返済が進んでいませんので、返済額のほとんどが金利となります。返済が進んでくると、元本部分の割合が大きくなり、金利が少なくなっていくという仕組みです。

このとき注意したいのが、金利支払いが減少すると逆に現金収支が悪化するということです。金利は賃貸事業における所得税などの税金を計算する際、賃料収入から引き算できるので、金利が大きいときは所得税が少なくなります。一方で、返済が進んでくると金利が少なくなるため、所得から控除できる金額が減り、税金が多くなってきます。しかも、元本部分の割合も大きくなってくるため、現金収支が悪化するのです。

■減価償却費は変化

減価償却費とは建物や設備の購入金額を資産として計上した上で、その金額を資産の耐用年数にわたって毎年費用として収入から控除できるものです。

簡単にいうと、とある設備の価格が150万円だった場合、その耐用年数が15年であれば、15年間にわたって毎年10万円ずつ費用として賃料収入から引き算できます。その分、賃貸事業における所得税などの税金が安くなるということになります。

通常、減価償却をする場合、建物と設備に分けて償却をします。この場合、例えば建物が鉄筋コンクリート造なら建物の耐用年数は47年、設備の耐用年数は一般に15年ですから、16年目以降の減価償却費は大きく減少します。

建物が2800万円、設備が1200万円だったとすると、建物の減価償却費は毎年約60万円、設備は約80万円となり、15年目までは毎年約140万円を賃料収入から引き算できます。しかし、16年目からは設備の減価償却がないため、建物の減価償却費約60万円しか引き算できません。その分、所得税などの税額が増加しますので、現金収支は悪くなります。

以上のように、賃貸アパート事業を考える場合、15年経過したころには、

(1)家賃がかなり下がっている可能性がある
(2)金利支払いの減少に伴い、現金収支が悪化する
(3)減価償却費が減少し、現金収支が悪化する

という状況になると考えておく必要があるわけです。

実際に、賃貸経営の中には16年目以降の現金収支が赤字となってしまった事例が多々あります。また、計画段階のプロジェクトについて筆者が相談を受けると、16年目以降の現金収支が赤字であるだけでなく、35年間の現金収支の累計もマイナスとなる計画も散見されます。

賃貸経営は上記のポイントを踏まえながら、無理な借り入れになっていないか、無駄に建築コストをかけていないかなどをチェックしつつ、長期的な収支をシミュレーションしておくことが大切なのです。

3つのポイントの他にも、建物の経年劣化に伴い修繕費が上昇してくる可能性も加味する必要があります。日銀による国債の買い取りが困難になるのではないか、マイナス金利幅の増大は金融機関の経営を悪化させ、経済に悪影響を及ぼすのではないかとささやかれる中、15年後、20年後も現在のような超低金利であり続けるとはいいきれないことも念頭に置く必要があると思います。

賃貸アパート建築は事業経営です。事業経営には様々なリスクが潜んでいます。相続税対策という側面だけでなく、賃貸事業における様々なリスクを理解し、これらを極小化し長期的に安定した経営ができるよう、しっかり検討する必要があります。不安がある場合は、不動産に強い税理士やファイナンシャルプランナーなどの専門家に相談するのもよいでしょう。

田中歩(たなか・あゆみ) 1991年三菱信託銀行(現・三菱UFJ信託銀行)入行。企業不動産・相続不動産コンサルティングなどを切り口に不動産売買・活用・ファイナンスなどの業務に17年間従事。その後独立し、ライフシミュレーション付き住宅購入サポート、ホームインスペクション付き住宅売買コンサルティング仲介など、ユーザー目線のサービスを提供。2014年11月から「さくら事務所(http://sakurajimusyo.com/)」執行役員として、総合不動産コンサルティング事業の企画運営を担う。9月22日、不動産コンサルタントの長嶋修&田中歩が東京不動産市場の“今”と“これから”を徹底解説するセミナーを開催します。不動産の購入・売却を検討されている方はぜひご参加ください。詳細はこちらへ http://www.sakurajimusyo.com/160922

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