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チェリスト堤剛さん 軽井沢で入魂のバッハ

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チェリストの堤剛さん(74)がバッハの「無伴奏チェロ組曲第1~6番」の全曲演奏に取り組んでいる。8月15日には軽井沢大賀ホール(長野県軽井沢町)で全曲公演を開いた。同ホールはソニー元名誉会長の故・大賀典雄氏が私財を投じて建設し、先日亡くなったピアニストの中村紘子さんが開館当初から公演を重ねたことでも知られる。両氏と親交が深かった堤さんに、バッハ演奏の極意や2人の思い出などについて聞いた。

■ちょうど1年前、2015年の同じ8月15日、軽井沢大賀ホールで中村紘子さんが演奏会を開いた。チャイコフスキーやラフマニノフ、ムソルグスキーら中村さんが得意としたロシアの作曲家のピアノ曲を華麗に披露し、花のあるステージを繰り広げた。「もうやけっぱち」と楽屋で話したアンコールのショパン「英雄ポロネーズ」は、病身を押しての壮絶な名演だったことが今では分かる。あれから1年。中村さんの幼なじみで桐朋学園の同窓、生涯の友であり共演者だった堤さんが、J.S.バッハの「無伴奏チェロ組曲第1~6番」全曲を演奏した。チェリストのバイブルといわれる作品で、各組曲は6つとも6曲から成り計36曲。全曲の演奏時間は約2時間40分に及ぶ。

――バッハの「無伴奏チェロ組曲第1~6番」は堤さんにとってどんな意味を持つ作品か。

「(チェリストで桐朋学園で教えた)斎藤秀雄先生に小学3年の頃から教えてもらった。当時の楽譜を見ると、先生がいっぱい書き込んだので音符が読めないほど。バッハの偉大さや素晴らしさから和声進行まで懇切丁寧に全部教えてくれた。斎藤先生には足かけ10年教わったが、その間に(『無伴奏チェロ組曲』の勉強は)3周した。1周目は手ほどき、2周目で少し弾けるようになった。3周目は音楽会にかけられるレベルに達した。その後、米インディアナ大学に留学し、今度は(20世紀の巨匠チェリストである)ヤノシュ・シュタルケル先生に師事した。シュタルケル先生も非常にバッハが得意で、『無伴奏チェロ組曲』は5回ほどレコーディングしていたので、本当に細かく教えてくれた。私の肉であり血であると言っていい作品だ」

――「第1~6番」を番号順ではなく1、5、2、6、4、3番という独自の曲順で演奏した理由は。

「もう随分前になるが、1991年に水戸芸術館(水戸市)で初めて組曲全6作品を通しで演奏した。その時は『第1番』から『第6番』まで番号順に弾いた。出だしは良かったが、最後の方になるとだんだん曲が大掛かりになるし、私自身もくたびれてくる。客からもやはり最後はずいぶん厳しかったと言われたので、最近は曲のコントラストも考慮し、番号順ではなく演奏している。きょうも最後は『組曲第3番ハ長調』を弾いた。私が聴いたバッハの最初のレコードは、(スペイン出身の20世紀最大のチェリストである)パブロ・カザルスの弾く『第3番』だった。その頃からずっと『第3番』が自分の中に生きている。『第6番』で終わっても華やかでいいが、やはり私は『第3番』で締めたい」

■堤さんは2004~13年に桐朋学園大学学長を務めた。現職はサントリーホール館長。サントリー元会長の故・佐治敬三氏は義父。サントリー芸術財団代表理事も兼務するなど多忙だ。それでも本人はチェリストこそ本職だと今も変わらず自負している。そこには斎藤秀雄氏からの教えが生きている。大賀ホールでのこの日の公演は、堤さんによるひとりきりの「サイトウ・キネン・フェスティバル軽井沢」と呼べる面もある。シュタルケル氏に師事し、1963年のブダペストでの「パブロ・カザルス・チェロ・コンクール」で1位になった。斎藤秀雄、シュタルケル、カザルスの3氏からチェリストとして影響を受けている。9月11日にも札幌市の札幌コンサートホールKitaraでバッハの「無伴奏チェロ組曲」を全曲演奏する。

――バッハの「無伴奏チェロ組曲」を弾く醍醐味と極意は何か。

「やはり大先生たちが言ったことに尽きる。一人は斎藤秀雄先生。バッハは『無伴奏チェロ組曲』を通じてこう言いたかった、というものをあなたも表現すべきだと教えられた。それで、いかにバッハの組曲の中に自分を生かして表現するかを考えるようになった。もう一人はパブロ・カザルス先生で、96歳で亡くなる前日まで毎日、バッハのこの組曲を弾いていた。バッハを毎日弾いて飽きないかと聞かれても、先生は『とんでもない。弾くごとに新しい発見があり、自分の生きる証しだ』と答えた。私も今回、全曲を演奏したが、突き詰めるほどに新しい発見がある。前よりもっと難しくなっていく気もしている」

――演奏スタイルにどんな変化があるか。

「最初は斎藤先生に手取り足取り教えてもらった。そのうちにカザルス先生が『バッハというのは偉人扱いされているが、楽譜を見ると、彼がいかに人間だったかが分かる。バッハの人間性を表現するのが自分の役目だ』と言ったことに影響された。さらにはシュタルケル先生に師事したら、先生は自分にも厳しい人だったが、一音一音細かいところまで気をつけて弾かなければいけないと指導された。最近は(バッハが活躍した当時の)バロック的奏法をできるだけ取り入れようとしている。私はこれまで全曲を3回レコーディングしたが、毎回変化した。また録音の機会があれば、さらに違うバッハになると思う。バロック奏法そのものではないが、バロック精神を生かした演奏が私の方向性だ」

――演奏中に何度もにっこりした。ダンスの要素が強い「無伴奏チェロ組曲」は気持ちが弾むか。

「バッハには宗教曲が多いが、『無伴奏バイオリンのためのパルティータ』などダンス音楽の要素が強い作品も多い。お客さんが踊っているという感触をつかめた時には、自分の頬も緩む。バッハの作品はリズムの要素が強い。ダンスのリズムに乗ると楽しくなる」

■7月26日に亡くなった中村紘子さんとは「子供のための音楽教室」からの幼なじみ。この教室はのちに桐朋学園大学へと発展した。中村さんはソニーの社長・会長を務めた大賀典雄氏と親交が深く、軽井沢大賀ホールには2005年の開館当初から出演した。堤さんにとって大賀ホールは恩人たちとの再会の場でもある。

――大賀ホールで演奏する意義は。

「ここで弾くのは今回が3回目。音響を超えた音世界がある。特に『無伴奏チェロ組曲』は和声進行が大事。低音を響かせてその上に和声を作るアプローチをしているが、お客さんの感想によると、低音がまわりから起こって包まれるようだという。バッハには当時、ボーゼという豪商の隣人がいて、私はボーゼのサロンだった独ライプチヒ市の小ホールで演奏したことがある。チェロはバイオリンに比べても重音を出すのが難しいが、その時初めて(低音や重音が)豊かに響くのを聴いて驚いた。バッハはこんな音を聴いていたんだと。私が大賀ホールを好むのは、そのサロンでの響きを再現できるからだ」

――大賀典雄氏との思い出は。

「大賀さんがCBS・ソニーレコードの経営者だった頃からお世話になった。私たち夫婦の仲人でもある。亡くなって大変残念だったが、いつも見守って励ましてもらっている。きょうも(ホール内の星のような五角形の天窓を見上げて、大賀さんから)『堤、ちゃんとやっているか』と言われている気がして、身を引き締めて弾いていた。いつもその辺にいるような気がしている」

――中村紘子さんについて思い出すことは。

「人間としても芸術家としても素晴らしかった。ピアニストとしては抜群だった。ああいう人はなかなか出ないんじゃないか。中村さんはいろんな活動をしたが、ピアノの音楽を全国津々浦々まで広めたのはすごい功績だ。(桐朋学園での)学年は私より2つ下だったが、私はいつもお姉様的にいろいろと教えてもらった。2015年5月、千葉市の千葉県文化会館で最後に共演し、ショパンの『チェロソナタ』を(チェロとピアノの)2人で弾いた。そのときも教えてもらうことが多かった。大賀ホールでもやはりショパンの『チェロソナタ』を一緒に演奏した。子供の頃からずっと一緒だったので、親しい仲間を亡くしてしまったという気がしている」

――チェリストとして今後の抱負は。

「現代音楽を柱の一つにしていきたい。チェロにはもっと可能性があると思う。自分なりにチャレンジしたい。私は長年、米国に暮らしてインディアナ大学で教えてきた。米国の大学には定年がないのでいつまでもいられたが、桐朋学園大の学長就任の話が起きたので帰国した。その際にシュタルケル先生が、あなたは学長でも何でもやっていいが、『チェリスト堤』を忘れてはならないとおっしゃった。そして『努力を続ければ、どんな難しいことでも最後には達成される』と励ましてくれた。学長や館長などいろんな役職をやらせてもらってきたが、チェリストとしてもっと自分の人生で得たものを皆さんとシェアしたい。そういう気持ちがあれば何とか続けていける」

(映像報道部シニア・エディター 池上輝彦)

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