「闇金ウシジマくん・洗脳くん編」原作超え狙う意欲作
人の欲深さ生々しく描く
闇金融業者・ウシジマ(山田孝之)が営む「カウカウファイナンス」を訪ねてくる崖っぷちな客たちの過酷な人生を描くコミックが原作の「闇金ウシジマくん」(MBS制作、TBS系)。2010年のドラマ化以降シリーズを重ね、7月19日から第3シーズンが始まった。ドラマと連動して秋には2作続けて映画版も公開。シリーズはこれで完結する。
ドラマでは、"映像化不可能"と言われた「洗脳くん編」を「テレクラくん編」「生活保護くん編」を交えて描く。この手のエピソードはテレビドラマとしてやるかどうか、作り手にとっては悩ましい。今回は、女性を食い物にする神堂(中村倫也)が雑誌編集者・まゆみ(光宗薫)をマインドコントロールし、彼女やその家族を崩壊させてゆく。まゆみは神堂に貢ぐため、ウシジマの店を訪れる。
企画・プロデュース・監督の山口雅俊氏によると、「洗脳くん編」は以前から制作のタイミングを図っていた一編だという。「原作の中でも特にウシジマの出番が少ないため、どう存在感を示すかという点で、作品が認知されてからでないと描けないエピソード」(山口氏)
10月公開の映画『ザ・ファイナル』ではウシジマのルーツを描くが、これも「シリーズを重ね、ウシジマがどういう人物か分からないと成立しにくい。いきなり素性を描いても説得力がないですから」と言う。
「洗脳くん編」についてはこう補足する。
「最終シーズンに持ってきたのは、原作でも意欲作といわれ、物議を醸したから。そういう話を制作することに意義があると思った」
まゆみが神堂に操られ
る様は確かに生々しい。
「中村くんは他の作品を見て彼ならイケると思い、神堂役をお願いしました。光宗さんや他のキャストはオーディション。役にはめてキャストを選び、原作の面白さを超えたいと思った。実際、原作に勝ったのではないか、との自負もあります(笑)」
山口氏は本作で、テレビドラマの可能性を探ってきた。
「以前は、視聴者と同じ目線の主人公が新たな環境の中、出会いや別れを通し、挫折したり成長したりするというのが連ドラの王道だった。今、人気を集めているのは最初から"キャラ立ち"した主人公が登場して、その個性と周りの人々のやりとりを楽しめる作品だと思う。そのフォーマットに『闇金ウシジマくん』は当てはまる」
放送時間に対する変化も感じている。
「ライフスタイルが変わって、1時間の連ドラは難しくなってくるはず。ゴールデン、プライムタイムでも30分で全24話、という作品が登場してもいいと思う。『ウシジマくん』は30分。そのよき前例となるものを提示したつもり」
昨今の深夜ドラマは人気俳優が続々出演し、スタッフもそうそうたる面々が登板するようになった。山田孝之と、『ナニワ金融道』や『ランチの女王』などのヒット作を手がけてきた山口氏のコンビの本作はその象徴といえる。その山口氏、「クライマックスの8話、9話は自分が携わってきた作品の中でも絶対の自信作」と言い切る。その衝撃を心して待ちたい。
(「日経エンタテインメント!」8月号の記事を再構成。敬称略、文・田中あおい)
[日経MJ2016年8月26日付]
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