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睡眠

明るい寝室は不眠のもと、暗い朝は寝坊のもと

日経ナショナル ジオグラフィック社

2016/9/13

ナショナルジオグラフィック日本版

PIXTA

最近引っ越したのだが、それ以来、ナゼか朝起きるのが辛くなった。確かに睡眠不足ではあるがこれは年中行事のようなもので、最近になって特段ひどくなったわけではない。むしろ通勤時間も短くなって生活スケジュールは以前よりも楽なくらいだ。

しかしそこは自分の専門分野である睡眠のこと、理由はすぐに判明した。引っ越して生活を始めるまでうかつにも気づかなかったのだが、朝になっても寝室がとにかく暗いのだ。

新しい住居の周囲はとても緑豊か。木立に囲まれており日中は鳥のさえずりも聞かれる。内覧してすぐに気に入り入居することに決めた。ところが、寝室のすぐ前に枝振りがとても立派な大木が2本立っていて、これが日光を完全にブロックしてしまう。案内されたときは室内照明がついていたため「薄暗い部屋」であることは気づかなかった。といって伐採するわけにもいかないし……うーむ。

ということで、今回は我が身に降りかかった問題でもある寝室の明るさと睡眠の関係について考えてみたい。

寝室に遮光性の高い厚手のカーテンを愛用している人もおられると思う。たしかに寝室に朝日が入らないと、普段は不眠ぎみの人でも朝までぐっすり眠れることが多い。逆に、カーテンを閉め忘れると早朝に覚醒してしまうことがある。

実際、日照と覚醒時刻との間には関係がみられ、日の出が早い夏には人々は一年の中で最も早起きになる。必ずしも朝日が顔に当たり、まぶしさで目が覚めるのではない。直射日光を浴びずとも、部屋の照度が徐々に高くなるだけで自然に目が覚めやすくなるのである。

寝ているのにどうして日の出を感じることが出来るのであろうか。

(イラスト:三島由美子)

■朝起きるときにおすすめの明るさは?

それは、睡眠中(閉眼中)であってもまぶたを通じてごく弱いながら一定の光量が網膜に到達し、脳を刺激するからである。眠っているためこのような光は視覚(光が見える)として認識されるわけではないが、脳はしっかり感知している。まぶたが完全に閉まらず半眼開きのようになっている人の場合には瞳孔を直接通過してより多くの光が網膜に到達する。

「もっと光を! 冬の日照不足とうつの深い関係」の回でも詳しく紹介したが、光には「モノを見る作用(視覚作用)」以外にも、覚醒作用や抗うつ効果、交感神経刺激などさまざまな生体作用があり「非視覚性作用」と呼ばれる。

覚醒効果をもつのは、数万ルクスもある太陽光(ルクスは光の照度)や、千~二千ルクスの明るいオフィス照明のような強い光だけではない。数十ルクス程度の寝室の照明や日の出の薄明のような弱い光であっても、かつそれが睡眠中であっても、私たちにはその光を感知する能力があり、実際に脳波上も覚醒パターンに近づいていく。

面白いことに、起床時刻にいきなり強烈な強い光を浴びるのではなく、徐々に強まる自然な日の出の明るさの方が目覚め効果が強く、しかも覚醒感が良いようだ。たとえば、人工照明装置を用いて日の出を模した光条件を作ってやる治療法は冬季うつ病(日照時間が短くなる冬に限定して発症するうつ病の一種)にも効果があり、別名、「夜明け模擬法(Dawn simulation)」と呼ばれている。詳しい作用メカニズムは明らかになっていないが、太陽光の下で進化した動物である限り、自然な明るさの変化に敏感に反応しやすい神経回路が形成されていても何ら不思議ではない。

■夜におすすめの明るさは?

話題を朝日から夜間照明に移そう。

これまでの話からも分かるように、寝室の明るさは想像以上に睡眠に影響がある。一晩中寝室の照明をつけておいた方が眠りやすいと話す人もいるが、暗闇だと不安や緊張感が増すなど特別な理由がある場合は別として「しっかり暗くして寝る」方が眠りの質はよくなる。その証拠のひとつとして、次のような実験結果がある。

0.3ルクスから家庭照明に相当する300ルクスまで寝室の照度を何段階かに分けた条件下で、同じ被験者に繰り返し寝てもらい睡眠の質がどうなるか比較した結果、0.3ルクス(ほぼ暗闇)に比較して、室内照度が明るくなるほど睡眠が浅くなり、50ルクス(薄暗い部屋)程度でも睡眠の質が有意に低下することが明らかになっている。

寝室の照明をつけたまま寝ると、睡眠中にも関わらず毛布を頭から被るなどの光を遮る行動がしばしばみられ、そのたびに睡眠段階が浅くなることが多い。自分では照明をつけた方が寝やすいと思っても、それは寝つくまでの間のこと。睡眠に入ってしまえば、脳は光刺激を嫌がっているわけである。照明をつけて眠りたければタイマーなどで一定時間で自動消灯するように工夫するとよいだろう。

ここからは経験談になるが、私自身、電気を消し忘れたときは勿論のこと、小さなスタンドランプをつけているだけで、中途覚醒が増えてしまうのを実感している。どのようなタイミングで目を覚ましたか記録を付けたことがあるが、寝ついてから3、4時間後に目を覚ますことが多いようだ。

睡眠の深さの周期からすると、この時間帯はちょうど2回目のレム・ノンレムサイクルが終了し、眠りが一旦浅くなる時間帯に相当する。照明がついていなければそのまま再び睡眠が深まっただろうに、光による網膜刺激で覚醒まで押し上げられたのだと思う。

現代生活では真の暗闇を経験することは少ない。夜間はしっかりと照明を切り、そして明け方は自然光を活用できれば、私たちの眠りももう少し質が高くなるだろう。ちなみに私は仕事部屋に置いていた蛍光灯ライトスタンドを枕元において、タイマーで点灯するようにしたところ朝の目覚めは随分と楽になった。今後、日の出が遅く、暗くなる秋口から冬にかけて一層威力を発揮してくれるだろう。

最近ではDawn simulationができるように、照明の明るさや色が時刻ごとに細かく設定できる照明器具なども市販されている。ベッドが窓に近ければカーテンを開けて寝るだけでも効果があるが、女性などは防犯面などから難しいので、起床に困っているようであれば利用しても良いかもしれない。ちなみに、白熱灯では覚醒効果をもたらす青色光成分がごくわずかしか含まれていないので覚醒効果は乏しいことも知っておいて損はない。

三島和夫(みしま・かずお)
1963年、秋田県生まれ。医学博士。国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所精神生理研究部部長。日本睡眠学会理事、日本時間生物学会理事、日本生物学的精神医学会評議員、JAXAの宇宙医学研究シナリオワーキンググループ委員なども務めている。『8時間睡眠のウソ。日本人の眠り、8つの新常識』(川端裕人氏と共著、日経BP社)、『睡眠薬の適正使用・休薬ガイドライン』(編著、じほう)などの著書がある。

(日経ナショナル ジオグラフィック社)

[Webナショジオ 2016年8月4日付の記事を再構成]

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著者:三島 和夫
出版:日経ナショナルジオグラフィック社
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