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果物、国内産崖っぷち? シルバー消費頼み限界

2016/8/28

人気のキウイフルーツは売り場でも目立つ場所に(東京都葛飾区のイトーヨーカドーアリオ亀有店)

 日本の果実産業が苦境に立っている。消費の中心はシニア層で「若者の果物離れ」が加速する。新しい食べ方の提案などで需要を掘り起こしているが、決め手にはなっていない。

 イトーヨーカドーアリオ亀有店(東京・葛飾)の果物売り場では、売れ筋のキウイフルーツが目立つ位置に並ぶ。「美容と健康によい」とのイメージが定着し、日常食として購入する人が増えている。イトーヨーカ堂青果部で仕入れを担当する佐久間隼さんは「この5年ほどで人気が高まり、主力商品の一つになった。仕入れ価格が安定し、販売する側も扱いやすい」と解説する。対照的にスイカやメロンなどは苦戦が続いている。皮をむく手間がかかる果物や、核家族化や単身世帯の増加で少人数で食べきるのが難しい大型の果物などは敬遠されがちだ。

■成長株はごく一部

 キウイ販売会社、ゼスプリインターナショナルジャパン(東京・港)はスーパーなどと協力し、試食会を年間約8千回開いている。マーケティング担当の栗田麻衣子さんは「ビタミンCや食物繊維などの栄養素がバランスよく凝縮されている点や、半分に切ればスプーンですくうだけで簡単に食べられる手軽さをアピールしている」と話す。春先から年末まではニュージーランド産、冬場は国産品を取り扱い、年間を通して供給できる生産システムを確立している。

 ただ、果物全体をみると、キウイのような成長株はごく一部。果物全体の消費額は伸び悩んでいる。総務省の調査によると2015年の1世帯当たりの果物への年間支出額は前年に比べ2%増の約3万3千円で、2年連続で前年を上回ったが、10年前の水準に届かない。日本人1人当たりの果物摂取量も減少傾向にある。14年度の1日当たり摂取量は95.5グラムで、政府が健康の目安として示す目標(1日200グラム)の半分を切った。

 個人消費の動向に詳しい日本リサーチ総合研究所主任研究員の藤原裕之さんは「食の安全や品質を重視し、価格が上昇しても質を維持したいと考える人が増えてきたが、まだ一部の動き」と分析する。高級品に的を絞って売り上げを伸ばしている千疋屋総本店(東京・中央)常務の大島有志生さんは「高級な果物を求める人と、そうでない人の二極化が進んでいる」とみる。

■若者は毎日食べず

 JAグループのシンクタンク、JC総研が昨年夏に全国の男女約2100人を対象に実施したインターネット調査によると、「果物をほぼ毎日食べる」人は70歳代以上で49.2%なのに対し、20歳代以下は8.7%にとどまる。年齢層が高いほど果物を食べる回数が多い傾向が年々、顕著になっている。「シニア層頼みでは、将来が心配だ」(主任研究員の青柳靖元さん)。

 日本園芸農業協同組合連合会(日園連)の嶋田豊仁さんは「果物の生産者にとっては量の確保も大切。日本人全体の果物摂取量を増やさないと国内の果実産業が先細りになる」と警戒する。果物の国内市場のうち、国産品は約4割で、約6割は輸入品が占める。市場が拡大しているキウイやバナナは輸入品が中心で、国内の農家にとってはむしろ脅威だ。環太平洋経済連携協定(TPP)が発効すれば輸入品との競争は激しさを増す。海外で日本産の高級なイチゴやリンゴが話題になるが、規模は限られている。

 打開策の一つとして、日園連は、果物の消費が少ない社会人を対象にした啓発活動「デスクdeみかん」運動を全国のミカン産地と一体となって展開する。果物研究家らを講師とする小学生向け出前授業や、ラジオ番組を通じたPRなどにも取り組んでいる。「食事プラス果物ではなく、果物があるのが当たり前の食生活になればいい」と嶋田さん。

 中央果実協会は「20~40歳代の未婚男性」に狙いを定める。働き盛りの世代で、各種のアンケートで「果物を全く食べない」との回答も目立つ層だ。同協会需要促進部長の丸山恵史さんは「果物の消費量が多いオランダでは、学校やオフィスに各自が2個程度の果物を持って行き、午前、午後の間食として食べる習慣がある」と説明する。

■コーヒーのお供に

 未婚男性にどうすれば振り向いてもらえるか。同協会は「コーヒーや紅茶に合うフルーツスイーツを開発し、コーヒー休憩のタイミングで買ってもらえるようにする」「居酒屋でのデザートメニューに果物を加えて、アルコール摂取への罪悪感がある中で果物摂取でさっぱりするきっかけを提供する」といった対策を示している。

 千疋屋総本店の大島さんは「国内消費の減少で農家の経営が苦しくなれば、果物を作ってもらえなくなる。農家の高齢化も進んでおり、先行きが心配」と懸念する。

 中央果実協会の調査では、「今後、果物を食べる量を増やしたい」と回答する人が5年連続で4割を上回っている。潜在需要をうまく取り込めるかどうか。残された時間は少ない。

 

 ◇   ◇

■関連インタビュー■

 日本の果物市場が伸び悩む中で、高級品に的を絞って売り上げを伸ばしている千疋屋総本店(東京・中央)。創業家出身の大島有志生常務(企画・開発部長)に秘訣を聞いた。

 ――売り上げの現状は。

千疋屋総本店(東京・中央)の大島有志生常務

 ゼリーなどの加工品の伸びが著しい。一度、購入すると想像していたより値段が安く、リピーターになるお客さんが多い。この10年で商品の入れ替えを進めてきた。すべての商品を見直し、ブランドを作り直した効果が出ている。生の果物の販売も少しずつ伸びている。売り上げのうち加工品が約60%、生の果物が約20%、フルーツパーラーが約20%だ。かつては加工品よりも生の果物の方がウエートが高かった。

 空港や駅での販売に力を入れるようになり、知名度が上がってきたのではないか。銀座三越店(2014年)、松屋銀座店(同)、横浜高島屋店(15年)などに相次ぎ出店している影響も大きい。たまたま空き店舗が出るなどのチャンスを生かして出店している。

 ――どんな顧客が果物を購入しているのか。

 1990年代にバブル経済が崩壊するまでは、企業や官庁が主要な顧客だった。霞が関や大手町など官庁や企業、銀行が集まる場所の店舗では、贈答品が大いに売れた。最近、企業や官庁が経費で贈答品を購入する習慣がなくなり、個人の顧客がメーンになっている。商品の構成を変えてきたのも、個人顧客にシフトするためだ。

 ――千疋屋は高級品を取り扱っているイメージが強い。

 個人客を意識して値段を下げてきたが、当社の商品を贈答品として購入する場合の平均単価は、一般の贈答品の平均よりかなり高い。ブランド力を維持できているためだとすれば、ありがたい。

 ――日本の雇用・所得環境は厳しく、個人消費は伸び悩んでいる。そんな中で高級な果物が売れているのはなぜか。

 高級品を求める人はむしろ増えている。お金をよく使う人と、使わない人の二極化が進んでいるように思える。日本の場合、果物の多くは明治以降に入ってきたので、果物は高級品というイメージが今でも残っている。だから果物の外観も重要な要素となる。世界を見渡しても果物を贈答品にしている国は珍しいはずだ。

 ――生の果物の売れ筋は。

 夏場はモモ、冬場はミカンとイチゴが人気だ。以前は贈答品といえばメロンだったが、メロンは人気が下がっている。大きく伸びたのはマンゴー。タレントの東国原英夫氏が、宮崎県知事のときに宣伝してくれたおかげだ。この点に関しては彼の功績は大きい。当社が取り扱うのは90%以上が国産品。高品質な商品を東京・大田市場から仕入れている。例えばモモが100個あれば、商品として使えるのは60個くらい。商品の見極めが極めて重要だ。長く取引を続けている仲買人さんとは信頼関係がある。

 ――外国人観光客による「爆買い」が各地で話題だ。最近、陰りが出てきたとの見方もあるが、影響はあるか。

 昨年までは銀座のお店で2万円のサクランボや5000円のイチゴを購入してその場で食べる中国人のお客さんがいたが、今年はほとんど見かけなくなった。爆買いは目立つ現象ではあるが、もともと当社では爆買いによる売上総額はそれほど大きくなかったので、下火になっても、影響はほとんどない。当社が大切にしているのは中東産油国の固定客。年間数千万円単位で注文してくれる。

 ――果物の消費を増やすには何が必要か。

 日本には、おいしい菓子などの種類が豊富で、果物のライバルが多すぎる。若い世代にとっては「食べやすさ」も大切。バナナや種なしブドウが伸び、コンビニエンスストアで「カットリンゴ」が売れているのは、食べやすいためだ。メロンやスイカを丸ごと1個買っても食べきるのは難しい。キウイフルーツが伸びているのは販売業者がうまく宣伝しているからだろう。他の商品でも販売業者がもっと宣伝に力を入れたほうがよい。

 ――環太平洋経済連携協定(TPP)が発効すると輸入品との競争が激しくなる可能性がある。

 個別に脅威を感じる品目は今のところ見当たらないが、想像もできないような新たな果物が入ってきて人気が出る可能性はある。全体に値段が下がって日本の農家の経営が苦しくなり、果物を作ってくれなくなるのが一番、困る。日本の土地は必ずしも果物の栽培に適していない。農家の高齢化も進んでおり、先行きを心配している。

(編集委員 前田裕之)

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