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折衷型の働き方をする大成建設のルクマンさん(左)(東京・新宿の大成建設本社)

折衷型の働き方をする大成建設のルクマンさん(左)(東京・新宿の大成建設本社)

外国籍の社員が日本の職場を変えつつある。人材面のダイバーシティー(多様性)が進み、外国人の存在感が増している。バイタリティーで率先して仕事のやり方に風穴を空けたり、日本の企業文化をうまく取り入れつつ折衷型で成果を出す人もいる。外国人が持つ能力や考え方をうまく引き出すには、どう向き合えばいいのか。

「商品パッケージの裏面にある取扱説明書の文言。台湾の言葉でちゃんと訳されているか、もう一度チェックして」「分かったわ。あなたも中国語訳を点検してね」

都内にあるコンタクトレンズ製造・販売のシード本社4階の海外事業部。8月上旬、中国人の蔡莉さん(35)は、台湾出身の同僚とやや大声の日本語でやりとりしていた。部員9人のうち外国人が5人。いずれも母国語、日本語、英語を操る。

職場は3カ国語が入り乱れにぎやかだ。蔡さんと同じ国籍の鄭士玲さん(32)がそろって入社した2012年からそういう職場になった。「日本人はパソコンで電子メールばかり。会話が大事。自己主張しなくちゃ」(蔡さん)。中国人女性2人の仕事のやり方は部全体に浸透。職場に活力が生まれたという。

会話は業務に関することばかり。だれが何をしているか分かりやすく共有化されるので、日本人の海外事業本部長は労務管理をしやすくなった。その結果、昨年から週に一度の業務報告書の提出を廃止。残業がなくなり部員全員が定時退社するようになった。

国際化の時代、日本の企業で働く外国人はここ数年増加傾向。現在は15万人ほどが各地で働く。

就労観は様々だ。だが、「上司はホウレンソウ(報告・連絡・相談)を頻繁に求める。私を信用していないのか」(韓国人女性)など日本独自の習慣に戸惑う声は多い。製造業で宣伝を担当する20代のドイツ人女性は「長時間労働が当たり前で、どう子育ての時間を確保するのか」と疑問を投げかける。なかには「安全にこだわりすぎ。細かい」(工場勤務の男性)と、日本人には受け入れがたい考えを持つ人もいる。

 ◇   ◇

シードの職場改革は外国人がリードしたケース。一方、ゼネコン(総合建設会社)大手の大成建設は、外国人に日本の企業文化を理解させ、その上で外国人に能力を発揮させ職場を良くする「折衷型」をとる。

12年から4年間、東京と埼玉の計3カ所のビルや工場棟の建設現場で現場監督を務めたインドネシア人のルクマンさん(36)。現在は都内の本社設計本部で働くが、「支店の上司から『我々の理念は工期を守ること』と教えられ、その実現のため下請け業者の作業員と良好な関係を築くためのノウハウを教わった」と振り返る。

作業員は職人肌の人が多く、ルクマンさんの指示に難色を示すこともあった。そんな時には「まあまあ」と理屈抜きに平身低頭。ひとまず頭を下げる日本流をとる。一方、朝礼の前にその日の仕事の段取りをつけ、仕事をスピードアップさせた。「父親として子どもと過ごす時間を大切にしたいので、残業はしない」という母国では当然の働き方は死守したいからだ。

折衷型が理解され、あつれきは生じなかった。ルクマンさんがイスラム教の礼拝で持ち場を一時離れても、作業員からは「自分たちも一服つけ休憩を挟んでいるので気にしなくていい」と受け入れられた。

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日本の企業で、こうした外国人の活用法はまだ少数事例。「社長はダイバーシティーの重要性を強調するが、現場の管理職はどう使いこなしていいか理解していない」(都内の技術職男性)という声が多いのも現実だ。このため、まずは日本人と外国人、働く上でそれぞれの違いを理解しようとする研修が立ち上がり始めた。

帝人は今年6月、国籍の違う上司・部下の計8組を集め、初めての「異文化コミュニケーション研修」を実施。象印マホービンも7月に同趣旨の講座を開いた。昨年に続いて2回目。同社の人事担当者は、「今後は異なる文化や個性を背景とする様々な社員が存在するようになる。2回の研修は入社後3年目の日本人社員だけだったが、対象者を広げていく」と話す。外国人の就労で相乗効果を生み出すには、日本人自身が働き方を見直すことが前提となる。

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上司は目標共有が重要

 グローバル人材戦略研究所(東京・港)・小平達也所長の話

外国籍の社員をどう活用し、コミュニケーションをどう取ればいいのかという企業の相談がここ数年、増えている。

管理職の話を聞くと、業務で成果を上げているのは「日本人社員か外国人社員か」という二項対立にとらわれたり、外国人にいわゆる日本的な考え方を求め「日本人化」させることに終始したりする例も少なくない。

それぞれの文化をどう融合させるかと大上段に構えるよりも、目的を絞り込んだ方が効果的だ。自分の職場が何を目指すのかを自分の言葉で外国人に語ればいいと提案している。売り上げ目標や新製品の開発など具体的な職場の目標をしっかり共有した上で職場の価値観や業務プロセスを理解させる。共通目標の基で日本人・外国人という枠を取り払おうという発想だ。職場の上司の意識改革が今こそ必要だ。

(保田井建)

[日本経済新聞夕刊2016年8月24日付]

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