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住民手製アプリ、地域の悩み解決 保育園探し・ゴミ出し

2016/8/23

「さっぽろ保育園マップ」は認可保育園、認可外保育園、幼稚園の場所をデジタル地図の上で確認し、開園時間や対象年齢、延長保育の有無などが一覧できる

 住民手作りのアプリケーションソフト(アプリ)が全国に広がっている。環境や子育てなど身近な課題を解決するアプリを住民が開発。それをひな型に、他の地区でも“ご当地アプリ”を開発する連鎖的な動きだ。各地で直面する悩みや課題を共有しつつ、地元ならではの情報を反映させる。工夫次第で使い勝手を向上させられるのが利点だ。

 「次の資源ゴミはいつだったかな」。金沢工業大学4年生の古田智信さん(23)は、部屋に空のペットボトルが目に付くようになるとスマートフォンのアプリ「5374(ゴミ無し)・jp」を使って回収予定をチェックする。古田さんが住む金沢市では、プラスチック容器など資源ゴミの収集は月2回、ビールなど空き瓶は月1回だけしかないからだ。

■転入者にも便利

 岐阜県出身の古田さんは進学で引っ越してきた。「一人暮らしで戸惑ったのがゴミ出し。アプリのおかげで分別やスケジュールがすぐ確認できる」と話す。

 開発したのはプログラムに詳しい専門家のほか、一般の学生や主婦、自治体の職員らで作るコード・フォー・カナザワ(金沢市)。IT(情報技術)で地域の課題解決を目指す団体だ。

 市民の身近な課題は何か議論するなかで浮上してきたのが、市外からの転勤者や学生の多い金沢市ならではのゴミ問題。自治体によって分別方法や収集頻度が違い、転入者は戸惑いを感じていた。「彼らの悩みに応えるソフトを目指した」(福島健一郎代表)

 この5374、3年前に公開した金沢市版に続き、今では札幌市から沖縄県石垣市まで約90のご当地版が稼働中。コード・フォー・カナザワは土台となるプログラム(ソースコード)をネット上に公開しており、ご当地版が簡単に作れる。

 外国籍の市民が約3万人暮らす川崎市の団体「オープン川崎」は日本語版に続き、英語版5374の開発を始めた。「完成すれば中国語や韓国語版にも挑戦したい」とメンバーの小俣博司さん。地域の事情に合わせ修正できるのも、手作りならではだ。

■地図で一目瞭然

 行政サービスに対する不満や不便さが開発の契機になることもある。

 札幌市に住む久保まゆみさんが情報技術に強い友人と共に開発した「さっぽろ保育園マップ」。市内の認可保育園、認可外保育園、幼稚園の場所をデジタル地図の上で確認し、開園時間や対象年齢、延長保育の有無などが一覧できる。開発のきっかけは「私自身が欲しかったから」。

 2012年に出産して職場復帰を目指したが、保育施設探しに苦労した。保育園は厚生労働省が、幼稚園は文部科学省が、それぞれ所管しており、一つにまとめたデータは無かった。久保さんは市の保育園リストを使って探そうとしたが、東京出身で家や職場との位置関係がピンとこなかったという。

 14年に公開した「保育園マップ」も、各地にご当地版が誕生。保育園探しに悩む親に利用されている。

 その一つ、茨城県つくば市版の保育園マップは地図の上に認可保育所、認可外、幼稚園などが色違いの印で表示される。認可保育所は市のデータと連動、0~5歳の年齢別に空き施設が検索できる。「今年から一時預かり可能施設も分かるよう改良した」と開発担当の三島啓雄さん。

 市内の研究所に勤める川西あゆみさんは1年前に神戸市から転入してきた。11月末に出産を控えており、近く、市内4カ所の保育施設を下見に行く予定だ。市のホームページも見たが「施設を網羅しておらず、地図も分かりにくい。『保育園マップ』を使い、通勤ルートに近く、休業明けから預けられそうな保育施設を探し出した」と話す。

 アプリ作りが、新たな交流を生み出すこともある。

 「高齢者が病院を退院して自宅に戻っても、家の近くにどんな介護施設があるのかわからない」。静岡県湖西市の市民活動センターを運営するNPO法人・コラボりん湖西の神谷尚世さんは、市内の高齢者関連施設を網羅するマップ作りを関係者に呼びかけた。

 福祉、医療、IT関係者のほか、市からも情報や福祉、市民協働の担当課が参加。昨年5月から月1回集まり、「保育園マップ」を基に高齢者施設マップを完成させた。介護施設、デイサービスセンター、ヘルパーステーション、民間病院などが一つの地図上に載り、連絡先もわかる。9月から本格利用を始める。

 「医療、福祉、情報システムなど、これまで接点の少なかった関係者の横のつながりができた意味は大きい」と神谷さん。アプリ制作を通して新しい人のネットワークも動き出した。

■「シビックテック」の垣根低く

 市民手作りのアプリが増える背景には「シビックテック」という考え方がある。環境や福祉など地域の課題には主に自治体が対応してきたが、財政難で細やかな住民サービスをする余裕がない場合も多い。行政に頼るのではなく、住民自らがITを使って地域課題の解決に取り組もうという発想だ。米国で始まり、日本にも広がってきた。

 小学校でのプログラミング教育必修化が検討されるなど、ITが身近になり始めたのも大きい。今や中学生や高校生がスマホ用アプリを開発するのも珍しくない。高度な専門知識がない市民でも「IT利用のハードルが下がっている」(オープン川崎の小俣さん)。

 行政も様々な地域データをデジタル加工しやすい形で提供するオープンデータ化に力を入れている。使える情報が増えれば、市民が関与できる領域も広がる。シビックテックが拡大する環境が整ってきている。

(田辺省二)

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