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アートネイチャー がんになった社員を全社で支援 がん治療と仕事の両立に取り組む企業最前線(第1回)

2016/8/26

PIXTA
もし今、自分ががんにかかったら……。考えてみたことはありますか? そのとき家族は、生活は、経済面は? 仕事は続けられるのでしょうか。
社員が治療をしながら働き続けるために、企業サイドからサポートを行うケースが増えつつあります。産業カウンセラーの太田由紀子さんが最新の事例を取材しました。

日本人の2人に1人ががんにかかる可能性があり、日本人の死因トップががん。そう言われても、身近にがん罹患(りかん)者がいないとあまりピンときません。芸能人のがん闘病のニュースも、どこか他人事ではありませんか? 実は、私もそうでした。人間ドックを受けるまで、自分ががんになり、大きな手術を受け、抗がん剤治療を受けることになるなんて、夢にも思っていませんでした。しかし、がんに罹患するのは誰にでも起こりうることです。

では、がんになったら治療と仕事を両立することは可能でしょうか? また、治療後に復職はできるのでしょうか?

東京都では昨年から、がんに罹患後、治療しながら仕事が続けられたり、治療後に復職できるように優れた取り組みをしている企業の表彰を始めました。「東京都がん対策推進計画(第一次改定)」に基づく『がん患者の治療と仕事の両立への優良な取組を行う企業表彰』です。

企業を表彰するとともに、その取り組みを広く周知し、他社においても、がんをはじめとした疾病を抱える従業員に対する治療と仕事の両立への取り組みを促進することを目指したものです。今年は「優良賞(より良い取り組みを行っている企業)」として大企業部門4社、「奨励賞(今後の取り組みが期待される企業)」として大企業部門3社が表彰されました。

今年、優良賞を受賞した企業から、今回は株式会社アートネイチャーの取り組みを紹介します。

■「ピンクリボンアドバイザー」が全社で200人も

お話をお聞きしたのはアートネイチャー人事部人事グループ課長代理の黒崎健太さんです。スーツの襟にピンクリボンバッジが光る、とても爽やかな方でした。

アートネイチャー人事部人事グループ課長代理の黒崎健太氏

社員数2427人(2016年3月末現在)の健康管理はさぞ大変な仕事かと思いますが、黒崎さんは「会社の健康経営の根幹であり、最も重要なのは健康診断です」といいます。健診を受けたままにするのではなく、その結果を受けてのフォローを欠かさない。病気のリスクも話すようにして再検査も受診してもらう。社員の診断書を見て理解できるように、多岐にわたる病気の勉強も自主的にしているそうです。

アートネイチャーは2015年に、「AN健康宣言」(下の写真)を行いました。これは、従業員満足度を向上させるためには経営の中でも健康に重点を置くことが大切だとして実施されたもの。年度別に目標を設定していますが、現在は

1.生活習慣の改善
2.メンタルヘルス対策の推進
3.がんへの取り組み
4.禁煙対策の推進
5.女性の健康への取り組み

を目標にかかげ、ポスターを制作し、全社的に健康経営を推進しています。

アートネイチャーの「AN健康宣言」ポスター

注目したいのは、「3.がんへの取り組み」と「5.女性の健康への取り組み」です。がんへの取り組みとして、「がん対策推進企業アクション」賛同企業となっているほか、東京都の「スマート・ライフ・プロジェクト」に賛同、がん対策を推進しています。

また、女性の健康への取り組みでは、全社員のピンクリボンバッジ着用をはじめ、乳がんの早期発見・早期診断・早期治療の大切さをより多くの方に伝える活動を実施しています。全社を挙げてピンクリボンアドバイザー資格の取得を推進し、資格試験の費用も会社で負担しています。この資格を一般企業で200人以上が取得しているのはアートネイチャーだけ。女性が半分を占める職場で、女性の罹患率が一番高い乳がんに詳しい社員がたくさんいることがどんなに心強いことか、日々感じている女性社員も多いことでしょう。女性社員だけでなく、抗がん剤治療の副作用でウィッグ(かつら)を求める女性客のためにもアドバイザー資格を取得する必要性があると考えているそうです。

「資格取得者がいるというポスターを店頭にも張り出しています」と黒崎さん。がん罹患者が店舗に立ち寄りやすい配慮もうかがえます(下の写真)。

ピンクリボンアドバイザーが常駐していることを示す店舗のポスター

■個々の社員の状況に合わせたスムーズな復職を支援

ここで、がん罹患後、復職した成功事例を紹介します。

Aさん 40代女性、子宮頸(けい)がんに罹患。手術を受け、1カ月ほど有給休暇を使用し療養。復職は、罹患前と同じ女性向けウィッグ専門店舗。

復職にあたり、Aさんは一日立ちっぱなしの仕事で体調を壊さないか心配だったそうですが、病院から「しばらくは重いものを持たない、たまに座り無理をしない」などの注意があり、上長が健康管理をして体調は安定しているとのことです。また、産業医の配慮で遅番勤務も免除されたので、無理せず勤務に戻ることができました。今は月に一度、優先的に休みを取って検診を受け、順調な回復だそうです。

このように、病院の主治医からの情報を把握し、産業医と連携を取り、個々の社員の病気や症状に合わせたスムーズな復職を実現しています。現在もがん罹患者十数名の就労が継続されています。これまで、がん罹患後の退職事例はなく、離職率の高い理美容業界では、高い定着率といえます。

また、EAP(従業員支援プログラム)サービスとして24時間健康相談窓口を開設していますが、そこに寄せられる相談内容の大まかな傾向を把握することが、メンタルヘルスや病気の予防につながっているようです。

仕事と家庭の両立を支援するさまざまな制度を社員に普及・啓発するために、アートネイチャーオリジナルの「就労支援ハンドブック」(下の写真)が全社員に配布されています。必要な情報や制度も社内イントラネットに掲載しているので、全社員に周知されているようです。

さまざまな仕事と家庭の両立支援制度を掲載した「就労支援ハンドブック」

さらに、病気など健康上の理由だけでなく、結婚、出産などのやむを得ない理由で離職した社員の再就職も支援する「再雇用(ジョブリターン)制度」をもうけ、理美容の独自の技術を習得した社員の再雇用にも力を入れています。これは、現在働いている社員にとっても、今後のキャリアプランを描くための心強い制度のようです。

「60歳定年まで働いていただきたい」と熱く語る黒崎さん。職場での婦人科検診の受診率が約30%(厚生労働省調査)しかない日本で、アートネイチャーの婦人科検診受診率は80%! この驚きの数字も、社員思いの企業風土があるからこそと納得がいきます。

がん罹患後復職したAさんは、罹患した時に迅速に対応してもらえて安心して療養ができた、また復職した時には現場で「おかえりなさい、待っていたよ」と言われ、あまり病気に深く触れず、前と変わらず受け入れてくれる雰囲気がうれしかったそうです。

がんになっても(それ以外の理由でも)社員が働きたい場所に戻れる、働いてほしい人に戻る場所を提供できる、アットホームな社風に希望を感じさせられました。

太田由紀子(おおた・ゆきこ)
産業カウンセラー。出版社、放送局に勤務後、産業カウンセラーの資格を取得。傾聴によるカウンセリングを行う。日経Gooday「がんになった妻から夫へのお願い」、日経ビジネスオンライン「メンタルリスク最前線」など多数のコラムを執筆。

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