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未来のメダリストと投資の方程式(藤野英人) レオス・キャピタルワークス社長兼最高投資責任者

2016/8/23

「リオ五輪オープンウオータースイミングで8位入賞した平井選手との出会いは3年前だった。理性的な話しぶりの彼には絶対にチャンスがくると思った」

オープンウオータースイミングという競技をご存じでしょうか。マラソンスイミングと例えられ、海や湖など屋外で10キロメートルという長距離を泳いで競争する種目です。オリンピックの正式種目で、プロの選手たちは10キロメートルを1時間50分強という驚異のスピードで泳ぎます。

海の中を一斉に集団で泳ぎ、選手同士の強いぶつかり合いがあり、海の格闘技ともいわれています。このハードな競技で、屈強な外国人選手に交じって日本人でパイオニア的な活躍をしている選手がいます。今回のリオデジャネイロ五輪で見事8位に入賞するという快挙を成し遂げた平井康翔(やすなり)選手です。通称ヤスといわれています。

ここで読者の皆さんは「投資と何の関係があるの?」と疑問をお持ちになるかもしれません。実は関係あるのです。5月17日付のコラム「人生を豊かにする投資の方程式」で、「投資の結果=考え方×熱意×能力×時間×資金×回数×運×愛」という投資の方程式を紹介しました。ヤスさんは水泳選手でありますが、彼こそが、この投資の方程式を実践し大きな成果を得た人物なのではないかと私は考えています。

彼のここまでの人生の道のりは決して平たんではありませんでした。ヤスさんとは私が教べんを執っている明治大学で3年前に会いました。ある日、教え子の一人が「相談に乗ってください」と当時大学生のヤスさんを連れてきました。

初めて会ったときのヤスさんはやつれていました。その前の年のロンドン五輪でこの競技に日本人で初めて出場し、15位だったそうです。しかし、彼のスポンサーに内定していた会社が卒業直前で降りてしまい、競技の続行が難しくなったのです。競技を続けようにも、遠征費などがかかるし、「このままでは競技を続行できないかもしれない」と目に涙を浮かべていました。

私は水泳は門外漢です。とはいえ、オープンウオータースイミングといえば昔、トライアスロンの大会で海を1.5キロメートル泳いだことがあります。沖に向かうときにとにかく怖くて心細かったことを覚えています。方向感覚もわからなくなる、足もつかない、波もある、潮の流れもあるといった海での水泳はプールのそれとはまったく違いました。

「で、本当はどうしたいの?」と私が尋ねると、「競技を続行したい」と彼は明かしました。そして「競技を続ければメダルを取れる可能性がある」と力強くいったのです。

いわく「私はほとんど経験がない中で、日本代表になりました。経験を積めば必ずチャンスがあります」「ロンドン五輪で主要選手が軒並み引退しました。チャンスが広がりました」「男性のオープンウオーターにおける肉体のピークは30歳前後です。私はこれからピークを迎えます」

この言葉を聞いて、私は競技のことはわからないけれども、この理知的な話し方をする青年には絶対にチャンスがくるのではないかと思いました。彼には投資の方程式における「考え方」「熱意」「能力」という重要な3つを持っていたのです。

それから私は彼と一緒にスポンサーを探しました。彼に必要なのは、活動資金。それを手に入れれば「資金」「時間」「回数」を得ることができます。競技に対する「愛」は十分。あとは「運」だけです。

平井選手とレオス・キャピタルワークス本社で

ヤスさんの人柄と情熱は多くの人を動かしました。たくさん断られたけれど、ライフネット生命保険の出口治明会長の力もお借りして、現在のインターネット接続サービスの朝日ネットというスポンサーを見つけることができました。

会社には「直接的に宣伝ということを考えなくてもよいから、思い切り競技に打ち込みなさい」といわれたそうです。すばらしいスポンサーに出会うことができました。彼はオーストラリアに渡って、世界中を転戦しながら競技を続け、体をいじめ抜いて、今回のリオ五輪での8位入賞に至りました。10人以上がトップと5秒差以内でゴールになだれ込んだ大混戦で、銅メダルまでわずか2秒余りの差だったそうです。

彼は東京五輪では金メダルを取ると宣言しました。微力ながらも世界のトップレベルの競技者の助けになれたのは本当にうれしいことです。私としても素晴らしい「投資成果」を得ることができました。

投資というとお金を使って稼ぐことだと思っている人が多いでしょう。それも投資の一部ですが、私はもっと広い意味でエネルギーを投じて未来からのお返しをいただくものであると考えています。もちろん事業の成果に資金は必要ですけれども、それは必要なもののごく一部です。私はファンドマネジャーとしてたくさんの経営者に投資を行っていますが、事業の成功はお金の有無というより、むしろ情熱や理念に強く左右されることを感じています。

ヤスさんも期待に応えて見事に結果を出しました。東京五輪ではもっと大きな投資成果が得られることでしょう。

プロのポートフォリオは運用に精通したプロが独自の視点で個人投資家に語りかけるコラムです。原則火曜日掲載で、レオス・キャピタルワークス社長兼最高投資責任者(CIO)の藤野英人氏と楽天証券経済研究所所長兼チーフ・ストラテジストの窪田真之氏が交代で執筆します。
藤野 英人(ふじの・ひでと) レオス・キャピタルワークス社長兼最高投資責任者(CIO)。1966年生まれ。早稲田大学法学部卒。90年野村投資顧問(現野村アセットマネジメント)に入社。96年ジャーディンフレミング投資顧問(現JPモルガン・アセット・マネジメント)に入社。「JF中小型オープン」は1年間の上昇率219%を記録。驚異的なパフォーマンスを上げ、「カリスマファンドマネジャー」と呼ばれた。2000年ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメントに入社。03年レオス・キャピタルワークス創業。CIOに就任。09年取締役、15年10月社長就任。明治大学非常勤講師なども務める。著書に「投資家が『お金』よりも大切にしていること」(星海社)など多数。

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