目立たないけどトゲだらけ、サルオガセツユムシ
世の中、まだまだいろんな虫がいる。今回紹介するのは、コスタリカの熱帯雲霧林でときどき見かけるマルキア・ヒストリックス(Markia hystrix)というツユムシの一種。
中南米に分布している比較的大きなツユムシで、特徴はサルオガセという地衣類に似ているところ。サルオガセ(Usnea属)は、霧や雲がかかる湿度の高い森の木の幹や枝などにぶら下がるように生えていたり、モコモコとくっついていたりすることが多い。
サルオガセにそっくりのこのツユムシを、ここではサルオガセツユムシと呼ぶことにする。(サルオガセギスと呼ばれることもあるようだが、キリギリス亜科ではないのでサルオガセツユムシが適当と判断しています)
このツユムシは、灯火採集などのライトにやって来ることが多い。採集するときに気をつけないといけないのは、地衣類のサルオガセは柔らくフニャフニャしているのに対し、サルオガセツユムシのトゲトゲは硬く、鋭いこと。うかつにつかむと痛いので、そ~っと両手で包むように捕獲。
実は、ぼくはこのツユムシが実際に生活の現場にいるところをまだ見たことがない。おそらく樹上生で、着生植物やコケや地衣類がたくさん生えた木々の高いところで生活しているのだろう。
そこで今回は、夜に採集したものを翌日の昼間に撮影してみた。サルオガセが生えている木の幹にとまらせたところ、サルオガセにいい感じにまぎれている。
撮影していると、ゆっくりとサルオガセの方へ歩いて行き、頭を突っ込んで何かをし始めた。
えっ? もしかしてサルオガセを食べている?
これはぼくにとって予想外だった。以前友人から聞いた情報だろうか、ぼくの記憶にこの虫は「昼間はサルオガセの近くや地衣類などの上で隠れていて、夜になるとその周辺にある植物のふつうの葉や花なんかを食べている」とインプットされていたからだ。専門家によると、「地衣類やコケを食べるキリギリスやツユムシの仲間は非常に珍しい」という。
サルオガセに似ているのだから、サルオガセを主食としていてもおかしくはない。でもほかの植物の葉なども食べるのか? その辺りを今度出会ったときに探ってみたいと思う。
このサルオガセツユムシのように、比較的大きくて、強烈なインパクトを放つ昆虫でも、まだまだわかっていない「驚き」が隠れている。そして、知れば知るほど謎もどんどん深まっていくのだろう。
以下、サルオガセツユムシの接写写真です。ボディーデザインをどうぞお楽しみください。
1972年、大阪府生まれ。中学卒業後に米国へ渡り、大学で生物学を専攻する。1998年からコスタリカ大学でチョウやガの生態を主に研究。昆虫を見つける目のよさに定評があり、東南アジアやオーストラリア、中南米での調査も依頼される。現在は、コスタリカの大学や世界各国の研究機関から依頼を受けて、昆虫の調査やプロジェクトに携わっている。第5回「モンベル・チャレンジ・アワード」受賞。著書に『わっ! ヘンな虫 探検昆虫学者の珍虫ファイル』(徳間書店)など。本人のホームページはhttp://www.kenjinishida.net/jp/indexjp.html
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(日経ナショナル ジオグラフィック社)
[Webナショジオ 2016年7月19日付の記事を再構成]
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