成年後見制度の普及を阻む壁弁護士 遠藤英嗣

最高裁判所が2015年の成年後見制度に関する統計を発表しました。私なりにこの統計結果を分析したところ、いくつか興味深いことがわかりました。成年後見の申し立ての状況を見ると、子どもの申し立てが大きく減少しているというのがその一つです。

申し立て件数減少には歯止め?

10年以降の成年後見に関する申し立て件数を見ますと、12年までは大きく件数が伸びていましたが、13、14年と2年連続で減少しました(グラフA)。15年は3年連続の減少になるかと思われましたが、わずかに前年を上回りました。

成年後見制度は「後見制度」(「後見類型」と呼ばれる)「保佐制度」「補助制度」「任意後見制度」という4つの制度で成り立っています。後見、保佐、補助の3つは裁判所への申し立て件数ですが、任意後見については任意後見監督人の選任の数が計上されています。

4つの制度の申し立て件数を見ると、圧倒的に後見開始が多く全体の79%を占めていて、補助開始は全体の約4%にすぎません。

任意後見については、15年に全国の公証役場で作成された任意後見契約の件数は約1万件で、これらが法務局に登記されています。15年分を含め、数万件の任意後見が登記されていると考えられますが、任意後見開始の申し立ては816件に過ぎませんでした。ただ、前年より10%増えているので、正しい方向に向かっているといえます。

首長申し立てが増加

15年の申し立て件数は3万4782件で、申立人と本人の関係を見ると子どもが最も多く1万445件でした。次は、これまでの兄弟等を抜き、市町村長申し立て(5993件)。驚くべきことに、本人申し立てが3917件と上位を占めています。

申立人の推移を見ると、子どもの件数は12年1万2383件、14年1万968件でしたので、15年は減少しています。市町村長申し立てと本人申し立てが大きく増加している一方で、子どもの申し立てが減少しているという事実は驚くべきことです。

特に、ここ数年、本人による後見の申し立てが大きく増加していますが、これはさまざまな団体等が本人申し立てを支援し、申し立て手続きの書類の作成などを手伝っていることによるものだといわれています。さらに、本人以外の身近な家族(子、配偶者、親)などが後見申し立てに対して消極的であることも一因のようです。

誰が成年後見人などに選ばれたのかを見ると、圧倒的に多いのは司法書士と弁護士です。特に、弁護士が前年より15%近く伸びています。

一方、身上監護の事務に強いといわれる社会福祉士の選任数は、ここ4年間ずっと3000件台。地域後見を担う「市民後見人」は昨年、224人で前年より11件しか伸びませんでした。

親族後見人は3割を切る

親族後見人は近年、減少傾向にあり、昨年は29.9%と3割を切りました。親族後見人による不正事件が後を絶たないことを受け、裁判所が適任者に絞って選任しているため、親族後見人が事実上制限される結果になっているようです。

しかし、家族に身上監護の事務を担ってもらいたいと願っている本人は少なくないでしょう。そのためには、身上監護は親族、主な財産管理は専門職後見人とする複数後見の道が広がることも必要だといえます。

本人が申し立てるというケースについて考えてみます。

Aさんは3年前にアルツハイマー型認知症が発症していることが判明したものの、知的障害を持つ子どものBさんがいたことから、自宅で共同生活をしていました。しかし症状が進行し、共に後見開始の申し立てが必要になりました。本来、市長が申し立てすべきなのですが、申し立ての費用は申立人負担であるため、市の支出を抑えたいという理由で、市長は申し立てしませんでした。

そこで、市の福祉に携わるソーシャルワーカーの人たちが中心になり、Bさんについては親族申し立て、Aさんについては本人申し立ての書類を作成し、Aさんが署名して裁判所に提出しました。

このとき、Aさんの認知症は夜間の徘徊(はいかい)がみられ、日常生活に支障をきたすような行動を取るなどの症状が出るまでに進行していました。誰の目から見ても、総合的判断能力の障害は重篤で、医師の診断書も「後見相当」となっていました。

Aさんのように、認知症が進んだ人の申し立てを有効として後見開始の審判をしている裁判所もあると聞きますが、やはり、このようなケースでは市長の申し立てを選ぶべきだと思います。

しかし、この首長申し立てに消極的な市町村は少なくありません。15年の統計を見ても、ある県(人口約103万人)では年間の件数がわずか12件です。この県の南北に位置する県(人口は、約113万人と約132万人)では共に80件を超える申し立てがあります。福祉行政にかかわる立場にある人の正しい選択を望みます。

目的は本人の預金の払い戻し

最後に、成年後見制度は何のために利用されているのか、その理由を見てみましょう。

申し立ての理由の多くは、本人預貯金の払い戻しや解約で、昨年は2万8874件に達していました。次が、介護保険契約の利用、身上監護のためなどとなっています(グラフB)。

申し立て全体の80%以上が本人の預金等の払い戻しや解約です。認知症の人はおおよそ500万人といわれていますが、15年における成年後見制度の利用者はわずか19万人です。残りの人たちの財産管理、中でも預貯金管理はどのようになっているのでしょうか。私が推奨している家族信託は、まだまだ広がっていません。

当面は、成年後見制度を利用して預貯金など財産の正しい管理と本人の最善の利益のために、この制度が利用されることが大事です。そのためにも、この4月に成立した成年後見制度利用促進法による改正論議が進み、利用しやすい、本人のための新しい制度ができ上がることに期待しています。

遠藤英嗣(えんどう・えいし) 1971年法務省検事に就任。高松地方検察庁検事正などを歴任し、2004年に退官。05年公証人となり、15年に退官。公証人として作成した遺言公正証書は二千数百件に及ぶ。15年に公証人を退官し弁護士登録。日本成年後見法学会常務理事を務めるほか、野村資産承継研究所研究理事として税務の専門家と連携して、資産の管理・検証などを研究する。主な著書に「増補 新しい家族信託」(日本加除出版)、「高齢者を支える市民・家族による『新しい地域後見人制度』」(同)などがある。
注目記事
今こそ始める学び特集