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会社にプライベートを捧げる働き方があたりまえの時代が長かったから、出世する人は長時間労働する人たち、というイメージがあります。実際に、会社にプライベートを捧げて長時間労働をしない/できない人は出世しづらくなる人事の仕組みもありましたし、今も多くの会社ではそうなっています。

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しかし、人事の仕組みは次第に改善されつつあります。たとえば、育児のための時短勤務をしている人も通常勤務の人と同じように評価をする、という会社も増えています(「共働き時代における企業の人事施策アンケート」労政時報3914号)。働く時間は減っていますが、その分を生産性で取り戻すことができれば、今まで以上の評価を得ることも可能になっているのです。

ということは、自分の時間を捧げつくさなくても、長時間働いたのと同じだけの成果を出せば同じ評価を得られるということです。たとえば仕事のスピードをあげる≒生産性をあげることで、出世の近道を作れるのかもしれません。企業もそのような取り組みに前向きになりつつあるからなおさらです。

では生産性を改善すればすべてがうまく回りだすのでしょうか。

企業も生産性向上を求めている

生産性を高めれば、たとえ時短勤務を選んでいたり、しっかりと有給休暇を消化したりしても高い評価を獲得できる。だから企業は生産性で従業員を評価するようになるべきだ。そう考えることは当然です。

特にここ数年、従業員の長時間労働を喜ぶ会社そのものが減っています。というのも、名ばかり管理職などのサービス残業問題や、過労死、精神障害の労災認定の増加など、長時間労働を原因とした諸問題が顕在化しているからです。それらの問題は働く人たちを不幸にするだけでなく、発生と同時にすぐに人々に拡散され、企業イメージをも大きく悪化させます。

企業側にとってコスト面の問題もあります。たとえば2018年4月1日から、すべての企業で、月60時間以上の残業をした人に対しての加算割合が50%になります。資本金額が少ないとか従業員数が少ないとかの理由で免除されていた(この法律自体は2008年から施行されていました)中小企業でも、月60時間以上=1日あたり約3時間以上働いた時間に対しては、残業代が50%加算されるわけです。

できれば長時間労働があたりまえの組織から抜け出したい。そう考える企業が増加しています。だからこそ、企業側としても残業をせずに成果を出すための、生産性向上を強く全面に打ち出しています。たとえばキャノンの「働き方改革」、富士フイルムの「ワークスタイルイノベーション活動」、リクルートスタッフィングの「スマートワーク」のような取り組みが行われています。

生産性向上の基本は、短時間で同じ成果を出すこと

では、生産性を高めた働き方とはどういうものになるでしょうか。たとえばこんな働き方かもしれません。

【生産性を高めた、ある男性課長の月曜日】
早朝:月曜日の朝は通勤ラッシュの時間を外して、少し早めの6時半に出社。週初めだから、課のメンバーに早めに集まるように指示しておいた。そうして会議室でパワーブレックファスト的なミーティングで今週のスケジュールを確認する。
午前:土日にたまっているメールをざっと分類して、重要案件を手早く処理すると、午前中の集中できる時間帯に資料作成を一気に進める。メンバーたちにも自分の仕事に集中するように伝え、電話応対などは緊急のもの以外は午後に振り分けるようにした。
昼食:気になっていた作業の進捗確認を兼ねて、メンバー数名と会議室でランチ。最近は糖質制限をするメンバーも多く、外食だと誘いづらいという事情もある。
午後:他部署との打ち合わせが数件。課長同士必要最低限の人数で集まり、議論すべきポイントと意思決定すべきポイントを整理してから進めるので、どの打ち合わせも30分~1時間で終了。決定事項などは打ち合わせ中にメモ形式で作成が済んでいるので、結果を共有フォルダ―に放り込めば誰でも見ることができる。一応メンバーにはメモを見るよう伝えておく。
夕方:少し早い16時に退社。課のメンバーも全員早出だったので、早く切り上げるように指示をする。今日は出社が早い関係で子どもの朝の世話を妻に任せていたから、家で子どもの帰宅を迎える番だ。帰りがけに食品スーパーに寄って、食後のデザートに良さそうなオレンジを2つ手にした。

この例では、生産性を高めるためのいくつかのポイントを示しました。たとえば通勤ラッシュでムダな体力を使わない、スケジュールを事前に確認してから行動する、タスクの重要度に基づき作業、作業に集中するための工夫、会議の有効活用、情報共有の仕組み、そして家庭生活での役割分担などです。

これらはどれか一つだけ実施しようとしてもなかなかうまくいきません。一気呵成に部署全体で「生産性を高める!」と意識しながら総合的に変えてゆくことで、高い効果が発揮されるでしょう。

しかし、ここに示した働き方の例を見て、顔をしかめる経営者も決して少なくはありません。経営者がそう考えてしまうということは、実は生産性を高めるだけでは出世に結びつきづらい、という事実があります。

生産性を高めて「で、どうしたいの?」

生産性を高めても出世に結びつきづらい理由を理解するためには、そもそも経営者の考えを理解しなければいけません。

たとえばあなたが創業社長だとしましょう。1人で会社を立ち上げて、数年かけてようやくそれなりの規模にまで業容を拡大してきました。従業員も100名を超えました。今までは肉親だけを取締役にしていたのだけれど、一緒に頑張ってきた社員から1人、新しい取締役を選びたいと思いました。その候補が2人いたとして、あなたは次のどちらの人を取締役にひきあげるでしょうか。

 Aさん:仕事ぶりは普通より少し上。しかしいつも会社のために頑張っている。
 45才、男性で独身。仕事が大好きでいつも仕事の事ばかり考えている。社長であるあなたが指示をしなくても、24時間常に会社のことを考えていて、深夜や土日の出勤もいとわず対応してくれている。若干パワハラ気味で、部下には疎まれているけれど、社長が嫌われ役にならなくて済むのでありがたい。
 
 Bさん:仕事が早くて優秀。けれども仕事は生活のためと割り切っている。
 40才、男性で既婚。共働きで、3人の子どもあり。極めて優秀で、社内だけでなく、社外での評判も高い。気配りもしっかりしていて、必要でない限り波風を立てないが、争うべき点ではしっかりと争う。仕事には打ち込むが、同じくらい家族も大事にしていて、基本的に残業や土日出勤はしないし、有給も完全に取得する。常に効率的に作業しようとするのが、逆にしゃくにさわることがある。

社長が経営層を選ぶ基準は、多くの場合、優秀さは当然として「仲間である」ことを重視します。同じだけ優秀なら、同じ場面で喜び、悲しみ、頑張れる人を選びます。ですから、このような選択肢の場合、多くの社長はAさんを選ぶことが多いのです。

その理由を一言でいうなら、「公私一体」であること。しかも公が私に勝っていている状態です。社長にとって会社とは実の子ども同然、自分の体の一部とも感じられる存在です。だからもちろん、経営層に参画する人には、自分と同じような気持ちを求めます。逆に、「仕事は仕事。プライベートは別」と断言するタイプを経営層に参画させることはほとんどありません。

こう考えてみれば、生産性を高める目的が何か、ということが重要だということがわかります。個人としての生活満足を高めるためだけに生産性を高めていく、ということだと、多くの経営者はそのことに納得しません。

生産性を高めて、生活満足を高めて、さらにその結果として良い仕事をする。あるいは、生産性の高め方を伝えながら、自分自身はさらに上の仕事をしていく。そうすることができて初めて出世につながります。

それはつまり、生産性を高めることで公私を分離するのでなく、さらに一体化させる方向で生産性を高めるということに他なりません。

公私一体が嫌なら「公」の定義を考えてなおしてみる

会社の中での出世とは、程度の差はあれ、公私一体になることを前提とします。

従業員という、雇われている立場であれば、公私を分離していても、優秀であることや結果を出していることをもって出世する人はいます。しかし雇う側としての経営層に出世するには、公私一体は決して避けては通れない関門です

でもこう望む人も多いのではないでしょうか。

「プライベートを大事にしながら、多くの人に認められたい。お金もほしい。たくさんの人に話を聞いてほしい。いつも幸せでいたい」

公私一体での出世をすると、最初のプライベートが失われるからこの望みはかなわない。だから別のところで何とか実現する手段を探そうとする人がいます。たとえば宝くじを買うなどの方法もその一つでしょう。そうして、常にもんもんとしている人をたくさん見てきました。

このような場合に、ちょっとした考え方の切り替えで、公私一体を受け入れやすくなります。具体的な話はまた次回に。

平康 慶浩(ひらやす・よしひろ)
セレクションアンドバリエーション代表取締役、人事コンサルタント。
1969年大阪生まれ。早稲田大学大学院ファイナンス研究科MBA取得。アクセンチュア、日本総合研究所をへて、2012年よりセレクションアンドバリエーション代表取締役就任。大企業から中小企業まで130社以上の人事評価制度改革に携わる。大阪市特別参与(人事)。

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