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国内で一日に刊行される新刊書籍は約300冊。書籍の洪水の中で、「読む価値がある本」は何か。日本経済新聞出版社の若手編集者が、同世代の20代リーダーに今読んでほしい自社刊行本の「イチオシ」を紹介するコラム「若手リーダーに贈る教科書」。今回の書籍はインターネット検索最大手、米グーグルの成功の秘密を元最高経営責任者(CEO)らが公開したものだ。「ハーバード・ビジネス・レビュー誌読者が選ぶベスト経営書2015の第2位」や「ビジネス書大賞2015の準大賞」などにもランクインした人気書籍。グーグルが成長していく過程に著者たちが貢献しながら学んだ「教訓」が豊富な事例と共に語られている。

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エリック・シュミット氏(右)とジョナサン・ローゼンバーグ氏 (C)Weinberg-Clark Photography

エリック・シュミット氏(右)とジョナサン・ローゼンバーグ氏 (C)Weinberg-Clark Photography

著者のエリック・シュミット氏はグーグルの元CEOで現在は親株会社アルファベット会長。共著者のジョナサン・ローゼンバーグ氏はグーグルで製品管理全般を担当する上級副社長を務めました。両氏ともグーグルに入社する以前から経験豊富なIT(情報技術)業界のトップマネジャーでした。

しかし、彼らは入社してからすぐに、グーグルで成功するためには、ビジネスとマネジメントの方法を全て学びなおす必要があることを悟ります。グーグルは、人とは反対の行動をとりがちな2人の共同創業者の方針に沿って、「他とは違ったやり方をする」ことで有名だったからです。本書は、エリックとジョナサンが奮闘しながら学んだグーグルの経営に関する知恵を次世代のリーダーたちに伝えるために書いたものです。

激動の時代では、一人一人が起業家

 あなたもこの時代の真っ只(ただ)中にいる。まだ自分は起業家だとは思っていないかもしれないが、じつはそうなのだ。あなたには、すべてを変える可能性を秘めたアイデアがある。すでにプロトタイプがあるかもしれないし、プロダクトの最初のバージョンが完成しているかもしれない。
(はじめに――最前列で学んだこと 44ページ)

何かわからない言葉があれば、スマートフォン(スマホ)で「ググる」。道を知りたいときは地図サービス「グーグルマップ」を開く――。グーグルは私たちの日常生活と切り離せないほど身近な企業になっています。サービスとしても素晴らしいグーグルですが、福利厚生の充実ぶりにも目を見張るものがあります。無料でおいしい食事がとれるカフェテリア、パーソナルトレーナーの常駐するジム、ありとあらゆる種類の飲み物やスナックなどなど。一見、グーグルの企業文化が贅沢(ぜいたく)なのだと思ってしまいますが、実はこれには理由があります。1960年代以来のシリコンバレーの伝統が「従業員の猛烈な働きぶりにプラスアルファの待遇で報いる」というものだからです。

また、グーグルの福利厚生についての考え方は、米スタンフォード大学の学生寮で誕生したという生い立ちを色濃く反映したものでもあります。創業者のラリー・ペイジとセルゲイ・ブリンの両氏は学生が世界トップレベルの施設を利用でき、しかも1日の大半を死ぬほど本気で勉強していたスタンフォード大のような環境の企業をつくろうとしました。

 知力こそ、変化対応能力の最も有効な指標である。
 ただ、知力だけでも足りない。とびきり優秀な人でも、変化のジェットコースターを目の当たりにすると、もっと安全なメリーゴーラウンドを選ぼうとするケースはやまほどある。心臓が飛び出しそうな体験、つまり過酷な現実に直面するのを避けようとするのだ。ヘンリー・フォードは「人は学習を辞めたとき老いる。二〇歳の老人もいれば、八〇歳の若者もいる。学びつづける者は若さを失わない。人生で何よりすばらしいのは、自分の心の若さを保つことだ」と言った。グーグルが採用したいのは、ジェットコースターを選ぶタイプ、つまり学習を続ける人々だ。彼ら"ラーニング・アニマル"は大きな変化に立ち向かい、それを楽しむ力を持っている。

(人物――採用は一番大切な仕事 147ページ)

「スマート・クリエイティブ」になるためには

彼らは自分たちの求める「最高の人材」がこうした一流の環境を求めることを知っていました。本書ではグーグルが求める最高の人材のことを「スマート・クリエイティブ」という言葉で表しています。基本的要件としては、ビジネスセンス、専門知識、クリエイティブなエネルギー、自分で手を動かして遂行しようとする姿勢を持っている人材のことです。

「スマート・クリエイティブ」が抜群の働きをするようになったら、桁外れの報酬も必要です。しかし、そこに至るまでには報酬以外でも、魅力的な仕事内容、優秀な同僚、刺激的な企業文化や価値観などで彼らを組織にひきつけることが可能であることをグーグルは知っているのです。

こうした最高の環境を与えられながらも、もっと青い芝を求めて去ろうとする人材も中には出てきます。ずばぬけて優秀な人ほど、自ら起業をするために退社を考えることが多くなるものの、「特に若手は短期的思考になりがち」と著者は指摘します。その上で、障害に突き当たったとしても、学生時代のように「新学期を迎えるたびに成績がリセットされ、まっさらなノートとともに再スタートを切れた日々を懐かしむ」のではなく、長い目でキャリアを考えてみよう、とアドバイスします。

「情熱を持てるもの」を見つけるために

 私たちの誇る元同僚、シェリル・サンドバーグの言葉を引用しよう。「自分の情熱と仕事を結びつけることができるのは、究極の贅沢です。そして間違いなく幸せにつながる道でもあります」。まさにそのとおりだ。仕事に「惚(ほ)れ込んで」おらず、単に「好き」というぐらいでは、能力を最大限発揮し、成功をつかむことはできないだろう。言い古された言葉だが、真実である。情熱と仕事を結びつけることは贅沢だという指摘も的を射ている。お金がかかるという意味ではなく、なかなか手に入らないものなのだ。たいていの人は自分の情熱が何かわからないか(中略)、わかっていても手が届かない(後略)。
(人物――採用は一番大切な仕事 197ページ)

全てを捨ててやり直すこともできなくはありません。しかし、それよりももっと堅実なやり方もあります。「社会に出る時点では、情熱どうこうより、単に仕事があるだけで満足かもしれない。そしてキャリアを積んでいくうちに、そこが思っていたような刺激的な舞台ではないことに気付くのだ」と著者は述べます。さらに「『生まれ変わったら就きたい仕事』に近く、それでいて現在のキャリアパスからでも手の届く『五年後の理想の仕事』を考え、ゴールに設定してみよう」と説きます。世界中の優秀な人材を集め、次々と進化し続けるグーグルの葛藤の軌跡を学ぶことは、チームを率いる立場になった人や、革新し続ける企業で働きたい人にも役立つはずです。

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◆担当編集者からひとこと 金東洋
 「型破りな発想」で「非連続な変化」を起こす「天才集団」――。それがグーグルです。本書は加速度的に変化する世界で「劇的なイノベーション」を起こしつづけるためのノウハウを教えてくれます。
 序文はグーグルの共同創業者で現在は親会社アルファベットCEOのラリー・ペイジ氏が執筆。グーグルの全面協力の下で書かれた本書は、企業文化、戦略、人材採用、意思決定、コミュニケーション、イノベーションの起こし方といったマネジメントのど真ん中の内容を扱っています。
 これからベンチャー企業を興そうと考えている方、企業内で新事業を立ち上げようと考えている方、インターネット企業に猛追されている既存企業の方、高校生・大学生から経営を担うトップ層まで、絶対にお勧めできる「21世紀型企業の教科書」です。

(雨宮百子)

「若手リーダーに贈る教科書」は原則隔週土曜日に掲載します。

How Google Works (ハウ・グーグル・ワークス) ―私たちの働き方とマネジメント

著者 : エリック・シュミット, ジョナサン・ローゼンバーグ, アラン・イーグル
出版 : 日本経済新聞出版社
価格 : 1,944円 (税込み)

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