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上昇する金価格 今後の相場を左右する材料は

2016/8/17 日本経済新聞 朝刊

 金投資への関心が高まっている。世界経済の不透明感から国際価格が上がり、機関投資家だけでなく個人の購入も増えている。これから投資を考える人が気になるのは、このトレンドがいつまで続くかだろう。過去の例を参考に金ブームの「賞味期限」を探った。

 8月10日、東京・銀座にある田中貴金属グループの貴金属店「GINZA TANAKA」を神奈川県の男性(67)が訪れた。10万円を払って買ったのは、20グラムの金地金。初めての金投資という。「中国の将来に不安を覚えた。金は株と違って紙くずになるリスクはないからね」と話す。

 田中貴金属工業が1~6月に売った金地金量は前年同期に比べ30%増えた。高齢者が多いが、少額投資の若い人も目につくという。加藤英一郎貴金属リテール部長は「最近は昔よりも購入者の関心がグローバル化している」と語る。

 金はニューヨーク先物市場の価格が国際指標だ。ニューヨーク先物は昨年12月の1トロイオンス1000ドル台半ばを底に上がり始めた。英国が国民投票で欧州連合(EU)離脱を決めた6月24日には、15年1月以来となる1300ドル台に跳ね上がり、今も高値が続く。

■有事が引き金

 金相場の急上昇は過去にもある。いずれも「有事」が引き金となった(グラフA)。11年8月の米国債格下げを受け、金融市場が荒れた同9月には史上最高値の1923.7ドルをつけた。金は配当や金利を生まないが、価値はゼロにならないため「安全資産」として買われやすい。

 マーケットアナリストの豊島逸夫氏は「有事の金買いは総じて一過性に終わる」と指摘する。利益確定を狙う投機筋が、それまでの買い注文を手じまい売りで決済するためだ。2003年のイラク戦争では、むしろ開戦と同時に下がった。「有事とみて買った個人投資家は、投機筋の売り浴びせではしごを外された」(豊島氏)という。

 ところが今回は売りが目立たない。それを裏づけるのが米商品先物取引委員会(CFTC)がまとめる投機筋の買い建玉(未決済残高)だ。5月3日に重量換算で1000トンを超え、今も上回り続ける(グラフB)。ICBCスタンダードバンクの池水雄一東京支店長は「1000トンは買われ過ぎとされる水準。これだけ長く続いたことはない」と驚きを隠さない。

 相場の動きを詳しくたどると、有事だけでは語れない背景が見えてくる。昨年12月16日、米連邦準備理事会(FRB)は9年半ぶりの利上げに踏み切った。利上げは金利のつかない金にとってマイナス材料となる。17日のニューヨーク先物はセオリー通りに30ドル近く下げたが、翌18日には早くも上昇に転じた。

 FRBは緩和的な政策からの出口を探るが、景気回復に確信を持てず、追加利上げに踏み切れない。その迷いを市場は感じとっている。金融・貴金属アナリストの亀井幸一郎氏は「米国の超低金利が続くとの見方が、息の長い金買いにつながっている」と指摘する。

 もう一つの節目は日銀がマイナス金利政策の導入を決めた今年1月29日だ。週明けの2月1日から金はするすると上昇、上げ幅は9営業日で約130ドルに達した。亀井氏は「日銀の政策が手詰まりになっているとの印象が、市場の不安をかき立てた」と分析する。

 池水氏は「日米に欧州を加えた金融当局が緩和的な政策で足並みをそろえ、投資家は備えとして金を買っておきたい気持ちを強めている。材料によっては年内に1400ドルを超える可能性もある」と予想する。

 この上昇局面に影響しそうな材料は何か。一つは米国の追加利上げだ。基本的にドルと金の価格は逆に動く。利上げはドルの魅力を高めるため、金は売られやすい(表C)。

 11月には米大統領選がある。ドナルド・トランプ氏が勝てば金融政策への不安から金が急騰する可能性もあるが、言動が読めない人物だけに見通しが立たない。加藤氏は「投機筋は投開票までに、積み上がった買い建玉をいったん手じまうのではないか」とみる。

■中銀も積極購入

 ただ1300ドルを大きく下回るとの見方は少ない。理由の一つが中国やインドによる金買いだ。景気減速で勢いは鈍ったが、中国人やインド人は宝飾品として金を好む。豊島氏は「相場が下がったら買う押し目買いに徹する」と両国の買いの特徴を説明する。

 見逃せないのが中央銀行の金買いだ。金の調査機関、ワールド・ゴールド・カウンシルによると、8月上旬時点で世界の公的機関が持つ金は3万2800トンと5年前に比べ6%近く増えた。中国、ロシアといった新興国が、自国通貨の信認を守るため外貨準備として金を積み上げている。

 トムソン・ロイターによると、人類がこれまでに掘り出した金の量は18万トン余り。五輪の公式プール4杯分に満たない。古代から金はその希少性ゆえに「守り」の資産とみなされてきた。将来への不安を背景に、投機筋から中銀まで金を求める状況は、まさに金投資の本質を示している。

 もちろん市場性のある商品だけに、短期的なリスクは避けられない。日本の投資家は、円に換算した時の価格の変動も頭に入れる必要がある。豊島氏は「有事の急騰につられず、平時にコツコツためるのが正しい金投資」と助言する。(海野太郎)

[日本経済新聞朝刊2016年8月17日付]

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