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三大疾病への備え、保険の保障範囲広がる

2016/8/20

 日本人の死因上位を占めるがん、脳卒中、急性心筋梗塞の「三大疾病」。生命保険各社は三大疾病に備える商品をそろえているが、最近は保障の範囲や保険金が出る条件のばらつきが大きくなってきた。加入を検討するなら保険料だけでなく、どんな場合に保険金が出るのかよく確認しておこう。

 「万が一のことがあっても、この子の教育資金が出せるようにしたい」。神奈川県の会社員、Aさん(42)は5月、長男(3)のためにオリックス生命保険の特定疾病保障保険「ウィズ」に加入した。Aさんが死亡した場合や、がんと診断されたり急性心筋梗塞で手術したりすると、1千万円の保険金が出る。

 同保険は5月の発売。オリックス生命はこれまでも三大疾病の保険を扱ってきたが、急性心筋梗塞で手術しても保険金が出ない場合があった。60日以上、労働が制限されることが支払いの条件だったためだ。脳卒中も60日経過後にまひなど後遺症が残っていることが条件で、早期に快復すると保険金は出なかった。

■条件にばらつき

 三大疾病の保険は急性心筋梗塞、脳卒中での保険金の支払いにこうした厳しい制約がある例が多く、保険契約の書類をよく見れば明記もされている。しかし必ずしも十分に理解されておらず、早期快復した契約者や家族から生保各社に「どうして保険金が出ないのか」とのクレームが寄せられやすいという。このため一部の生保は支払い条件を分かりやすい「入院」「手術」などに変更してきた。

 そもそも三大疾病の定義も商品によって異なる。悪性新生物(がん)、急性心筋梗塞、脳卒中とするのが一般的だが、例えばメットライフ生命保険の医療保険「フレキシィ」は急性心筋梗塞を「心疾患」、脳卒中を「脳血管疾患」に広げている。例えば心臓の血管が狭くなって血液が不足する「狭心症」、脳卒中につながる「脳動脈瘤(りゅう)」なども三大疾病と認められて特約の保険金が出る。

 定義を広げることで、どのくらいの影響があるのだろうか。同社がフレキシィを発売した2014年9月から16年3月までに支払った三大疾病特約の一時金を集計したところ、心疾患のうち急性心筋梗塞は35%にとどまり、狭心症や不整脈などが65%を占めた。三大疾病の特約には一時金だけでなく、その後の保険料免除がある。その分だけ保険料が高くなるが、契約者のメリットは少なくないようだ。

■時間かけ比較を

 30~40歳代までの現役世代であれば、医療保険ではなく、住宅ローンの団体信用生命保険(団信)に三大疾病の特約を付ける選択肢がある。団信は住宅ローンを借りている人が亡くなったり、かなり重い障害を負ったりした場合、その時点で残っているローンを保険会社が肩代わりして返済する保険だ。がんと診断された場合や急性心筋梗塞、脳卒中で所定の状態になった場合も保障する特約がある。

 保険料はローン金利に上乗せされる。三大疾病の場合はおおむね0.3%で、七大疾病などに保障を広げた特約もある。ただしそれぞれの金融機関の営業戦略に左右される面も大きく、ローン金利を高めに設定する一方で、団信のがん特約の保険料の上乗せをしない銀行もある。

 ローン金利の引き下げ競争が限界に近づく中で、金融機関は三大疾病などの保障を付けた団信の商品開発でしのぎを削っている。三菱東京UFJ銀行は4月、急性心筋梗塞、脳卒中で入院すればローン残債がゼロになる団信を扱い始めた。りそな銀行は三大疾病に限らず病気やケガで所定の状態になった場合にローン残債がゼロになる「団信革命」を扱っている。「ローンの借り換えで契約する人が多い」(コンシューマービジネス部)という。

 団信の三大疾病の特約は月数千円の負担で数千万円規模のローン返済がなくなる可能性があるが、保障はローン完済まで年々少なくなる。がんなど三大疾病リスクが高まる老後も含めて一生涯の保障がほしいなら、その他の保険と組み合わせる必要がある。

 民間保険は将来、生保各社の競争によって保険金は出やすく、保険料は下がる可能性がある。ただし既存の契約にさかのぼって反映されることはない。とりわけ急性心筋梗塞、脳卒中は保険金の支払い条件を変更する動きが相次いでいるだけに、時間をかけて比較するのも一案だろう。

 さらに三大疾病などのリスクを考える場合、公的な保障も頭に入れておこう。会社員であれば、病気やケガの療養のために休職すると、健康保険から最大1年6カ月、傷病手当金が出る。支給額はそれまでの給与の3分の2だが、税金がかからないため手取りベースでは3分の2より多くなる。初診から1年6カ月が経過した時点でも病気のため思うように働けない状態であれば、障害厚生年金が出る可能性がある。(表悟志)

■がんで障害年金 2万人以上受給
 厚生労働省の調査によると、がんで障害年金を受け取っている人は約2万1000人いる。安静が必要な重い病状の人が対象と誤解されがちだが、会社員の場合、軽い家事や事務ができる状態でも障害厚生年金の「3級」と認定される可能性がある。3級は年58万5100円の最低保証があり、約7000人のがん患者が受給している。
 どんな病気でどんな状態になると障害年金が出るかは、インターネットの日本年金機構サイトにある「障害認定基準」に明記されている。ただ医療の専門用語が多く、患者や家族が完全に読みこなすのは難しい。受給の可能性がありそうなら、主治医などに相談するといい。

[日本経済新聞朝刊2016年8月17日付]

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