5年持つスイーツも おいしい最新非常食を食べてみた
知っておきたい最新非常食2
9月1日は「防災の日」。改めて非常食の蓄えなどを確認している家庭や会社も多いだろう。せっかく見直すなら、ぜひ最新の非常食についても学んでおきたい。実は非常食、多様化が著しく進んでいるのだ。前編(「非常食の新スタイル 普段食に使え、備蓄も古くしない」)では非常食として備蓄しているものを普段から定期的に食べる「ローリングストック」を説明したが、実際、毎日の食事でも大丈夫とうたう製品が増えている。とはいえ、日常的に食べるのであればやはり味が気になる。そこで実際に最新非常食を手に入れ、その味を確かめてみた。
非常食も健康志向 アレルギー物質不使用、塩分控えめが増える
防災に関する講演会やイベントを行い、7月に「第1回・日本災害食大賞」を開催した防災安全協会事務局長の北村博さんによれば、最近の非常食は多様化が進む中でもいくつかの傾向がみられるという。
「1つめが、開けたらすぐに食べられるレトルトタイプが増えていること。温めたり水を入れたりする必要がないので、ライフラインが寸断された状況でも食べることができます。2つめは、保存期間が延びていること。3年から5年が一般的だった非常食の保存期間ですが、今後5年が標準になり、さらに延びていくことも考えられるでしょう。そして最後は、アレルギーや持病がある『災害弱者』と呼ばれる人でも安心して食べられるものが増えていること。アレルギー物質が不使用だったり、塩分を控えめにしたりしているものが目立ちました」(北村さん)
まとめると以下のようになる。
1 水や温め不要のレトルトタイプの増加
2 保存期間が長くなり、主流が3年から5年に
3 アレルギー、栄養バランスに配慮し、災害弱者が安心して食べられる
災害弱者と聞くと「自分には関係ない」と思う人もいるかもしれないが、そうとは限らない。災害発生時の救援物資では、カップ麺やレトルトカレーなどが多くなる。そうすると必然的に塩分の摂取量が多くなり、栄養も偏りがちになってしまうのだ。災害時に健康を維持するために、成分表示は気にかけておきたい。
それでは、こうした最近の傾向を取り入れた非常食はどんなものがあるのだろうか。「つくねと野菜の和風煮」「五目ご飯」、そして5年間の長期保存が可能なスイーツという3製品を実際に試食してみた。
鶏団子と6種の具材がゴロゴロ 杉田エースの「イザメシデリ」
「第1回・日本災害食大賞」の「美味しさ部門」でグランプリを獲得したのが、杉田エースの「IZAMESHI Deli(イザメシ デリ)・名古屋コーチン入りつくねと野菜の和風煮」だ。「IZAMESHI(イザメシ)」は東日本大震災を受けて、2014年に発売したブランド。「イザメシ デリ」は15年8月と11月に発売された、より手作り感にこだわったワンランク上のシリーズだ。非常食として長期保存できる一方、災害時に限らず普段の食事やキャンプなどのシーンでの使用も提案し、非常食業界で話題になった。
災害時を想定し、まずは温めずに食べてみる。味付けはあっさりしているが、白だしのまろやかな風味が感じられる。具材は一口大のつくね、たけのこ、にんじん、ごぼう、さといも、こんにゃく、しいたけの7種類。どれもかなりやわらかく、たけのこやこんにゃくの食感が楽しめる一方、ごぼうやさといもには少々物足りなさも感じた。ただ、これならかむ力の弱くなったお年寄りや子どもでも安心して食べられるだろう。
続いて温めて食べてみる。熱を加えることでさらにやわらかくなってしまうかと思ったが、ほとんど違いはない。たけのこもシャキシャキとした食感をとどめていた。
全体的にだしの風味が効いていて、塩けが少ないため喉が渇きにくいと感じた。災害時には水が手に入らないこともあるため、こうした点も日本災害食大賞で評価された点だろう。
「デザイン、ネーミングともに斬新で、味も申し分ない。イザメシは『非常食なのだから味は我慢』という、これまでの考え方を打ち破った先駆けのようなブランドだといえます」(北村さん)
イザメシシリーズには現在35種類のラインアップがある。イザメシ デリはこの「名古屋コーチン入りつくねと野菜の和風煮」を含め、「梅と生姜のサバ味噌煮」「大豆たっぷりカレーリゾット」など全8種類が発売中。杉田エース商品開発グループ・今掛里美さんによると「中でももっとも非常食らしくない、レトルトっぽさがないのが『イザメシ デリ・名古屋コーチン入りつくねと野菜の和風煮』」だそうだ。
東急ハンズ新宿店・防災グッズ売り場スタッフも「イザメシの製品は人気」という。「きれいな写真を大きく見せたデザインが好評で、多くの人が手に取っていく。和風の味付けの製品が多いので年配の人からも評判が良いです」(東急ハンズ新宿店・防災グッズ売り場スタッフ)
開けてそのまま食べられる 日本フードマテリアル「やわらか五目ご飯」
日本人の主食である「ご飯もの」の非常食にも変化が起きている。
従来は「アルファ米」と呼ばれる、一度炊いたご飯を急速乾燥させ、食べる時にお湯や水で戻すものが主流だったが、これには水が手に入らないと食べられないという難点があった。
日本フードマテリアルが2015年12月にリニューアル発売した、「そのまま美食ご飯シリーズ」の「やわらか五目ご飯」は、水やお湯を使わなくても、開けたらすぐにそのまま食べることができる。加えて特定アレルギー物質不使用である点などが評価され、日本災害食大賞の「新製品部門」で優秀賞を受賞した。
「レトルトタイプのご飯となるとおかゆが多いのですが、これはちゃんとご飯として食べられる点が魅力。また、パックが自立するため食器に移さなくても食べやすく、スプーンが入っている点も非常食として評価されました」(北村さん)
分量はちょうどお茶わんに1杯ほど。製品名の通りやわらかく炊かれていて、ご飯粒を確認することはできない。しかしおかゆのように水っぽくはなく、米の粘りけがあってもちもちしていた。味付けは薄味かと思いきやはっきりとしている。お弁当のおかずは冷めてもおいしく食べられるよう味が濃いというが、それと同じで冬場の気温が低い時期にそのまま食べても満足できそうだ。もっちりと弾力のあるご飯は満足感があり、具材も大きめで素材の味がしっかり残っていた。
五目ご飯以外にも、わかめご飯などバリエーションは4種類。備蓄としてはもちろん、開けてパックのまま食べることもできるので、多忙や体調不良で料理が面倒な日にも活用したい。
変わらぬ味とパッケージデザインに評価 井村屋の「えいようかん」
これまで2つは主食を紹介したが、非常食にはスイーツもある。
最後に紹介するのは、和菓子を多く製造している井村屋の「えいようかん」。2011年にリニューアル発売され、手軽にカロリー補給ができる点や、5年6か月という賞味期限の長さが評価されている。
原材料は砂糖、生あん、水あめ、寒天のみ。普通のようかんと比べても遜色なく、素朴な甘さが楽しめる。
非常食にスイーツというと違和感があるかもしれないが、東急ハンズ新宿店・非常食売り場スタッフによれば、「デザートを食べると災害時のストレスが減り、気持ちがリラックスしたという人が多い」。被災した状況が長引いたり、先行きの見えない不安に襲われたりした時こそこうした甘い物が有効なのだ。
また、この「えいようかん」はパッケージにも非常時に役立つ工夫がなされている。まずは表面の「備」の文字がホログラム加工されている点。これは、手元が暗くてもカバンの中で見つけやすくするためのアイデアだ。さらに、裏面には大きく「災害用伝言ダイヤル」の利用方法が記載。チャート式による丁寧な解説なので、急な災害でパニックになっていても安心だ。その他側面に点字表記、無駄のない立方体でカバンの中に入れやすい点などが評価され、2012年にはグッドデザイン賞を受賞している。
2015年3月には、新フレーバーとして「チョコえいようかん」も登場。こちらの賞味期限は3年3か月と「えいようかん」に比べると短いが、生あんのしっとり滑らかな食感とカカオの香りが堪能できる。甘さは「えいようかん」と比べると控えめでしっかりとした苦みがあるので、甘いものが苦手な人にもおすすめ。好みに合わせて、非常袋に一つは忍ばせておきたい。
◇ ◇ ◇
今回紹介した3品はそれぞれおかず、ご飯、デザートで、ちょうど1回分の食事になる。もっと物足りなく感じるかと思ったが、野菜もしっかり取ることができ満足感があった。
おかずの「イザメシ デリ・名古屋コーチン入りつくねと野菜の和風煮」が540円、ご飯の「やわらか五目ご飯」が453円、デザートの「えいようかん」が540円で、合計1533円。外食をするのと比べて特別高いわけでもない。もしものことを考えながら、この週末はちょっと手抜きをする感覚で、昼食や夕食を非常食にしてみてはいかがだろうか。
(文 小沼理=かみゆ)
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