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あの「高揚のニッポン」を切り取った前回五輪記録映画

2016/8/18

映画「東京オリンピック」の一場面=日本オリンピック委員会提供

「『人類は四年ごとに平和の夢を見る』。この言葉をテーマに、競技を通して、人間の理想と現実をフィルムに描こうと思った」(日本経済新聞『私の履歴書』)。1965年に公開された映画『東京オリンピック』について、本作品の総監督を務めた市川崑氏は生前、作品についてこのように記した。2020年の東京五輪・パラリンピックを控え、国民全体が高揚した1964年の前回東京大会への関心が高まっている。東宝によると、同作品は2004年にDVD化され、累計1万9500枚が出荷された。13年9月に東京招致が決定した際は1カ月で1000枚を超える受注を記録するなど今なお安定的な売り上げを誇る。当時の息吹が現代に何を語りかけるのか。作品を振り返った。

公益財団法人日本オリンピック委員会(JOC)によると、本作品のシナリオは市川氏に加え、詩人の谷川俊太郎氏ら計4人が担当。「私の履歴書」によると、市川氏はスポーツに精通しておらず、記録映画の撮影経験もなかったため、「エライものを引き受けてしまった」というのが実感だったという。

撮影承諾後はスポーツ撮影に慣れるため、各競技大会を見学してテスト撮影を行った。映画のタイトルは8万通を超える応募の中から「東京オリンピック」(Tokyo Olympiad)に決定した。

映画制作に携わったスタッフ数は265人、使用したカメラは104台。撮影フィルムは9万7858メートルに達した。最終的に70時間を3時間の長さに編集している。

「全競技の全種目をまんべんなく撮影するのは物理的に不可能だし、内容的にも面白くない。それでスポーツに精通した監督部や撮影部の人たちに重点を置く種目、そうでないもの、その中間と三ランクに分けてもらい、撮影計画や人員配置などを決めていった」(「私の履歴書」)

映像の大半は競技者の姿だが、その合間に多様な時代背景を潜ませた。五輪の象徴として実際の太陽をクローズ・アップした映像や、五輪を機に変貌する東京の街の表情、アテネから始まる聖火ランナーの追跡撮影に加え、観客や会場のスタッフ、報道陣なども「参加者」ととらえ、五輪によって高揚する様子にもカメラを向けている。

1964年、記録映画「東京オリンピック」の撮影でカメラのファインダーをのぞく市川監督=日本オリンピック委員会

「スポーツ不感症」を自認する市川氏がそれぞれのシーンで訴えたのはリアリティーに潜む芸術性かもしれない。ひたすら選手たちの真剣な表情や、勝利した瞬間だけを見せるような淡々としたドキュメンタリーの手法をなぞってはいない。選手たちが試合前に見せる余裕のない姿やそれを見守る観客、淡々と会場設営を進めるスタッフの様子など、あらゆる角度から一つの瞬間を見つめる構成となっている。あたかも東京五輪全体を俯瞰(ふかん)するような仕上がりだ。記録映画にもかかわらずシナリオが用意された点も特徴的だった。

映画監督ならではの巧みな演出だったが、感情に直接訴えかけるシーンは論議を呼んだ。試写会で作品を鑑賞した河野一郎五輪担当相が「これは記録ではない」「芸術性を強調するあまり、正しく記録されていない」などと発言したために騒動に発展。「編集をやり直せ」といった批判と、「人間の魅力が見事に描かれている」という賞賛が各方面から出され、市川氏の自宅にも賛否両論の電話が相次いだという。

その後、追加編集を経て1965年3月20日に全国東宝系映画館260館で一般公開された。論争は一般市民にも広がり、市川氏は当作品について「一個の作品として正当に鑑賞されないような状態では、この映画がかわいそうだと思った」とまで振り返っている。

そんな折に女優の高峰秀子氏が河野五輪担当相との面会を勧め、市川氏は神奈川県平塚市の河野邸を訪問することにした。お互いに騒ぎの沈静化を望んでいることが分かり、事態沈静に向けて動いたところ、ようやく収まったという。

作品の最終版は上映時間2時間50分。「テレビ中継を見たのだから、わざわざ映画館まで来ないのでは」という関係者の予想を覆し、観客数が約1800万人という大ヒットを記録した。同作品は国内版よりも40分程度短い英語による海外版もあり、同年のカンヌ国際映画祭で特別招待作品として上映。審査対象でないにもかかわらず反響の大きさから特別賞を受賞している。

前回大会から50年以上の歳月を経て開催される2020年の東京五輪・パラリンピック。高度経済成長を経て豊かさや景色、選手たちの顔つきに至るまで大きな変化を遂げた日本だが、大会の裏に隠された人間たちのドラマはどの時代にも共通しているのかもしれない。本作品が鑑賞者を魅了するのは、誰もが持ちうる人間としての魅力が描かれ、そこに自己を投影することができるからだろう。次回東京大会ではどんな「平和の夢」が映像に刻まれるのか。開催まで4年を切った。

(ライター 片岡友理)

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