ペットと一緒、上質な旅 高級な宿が続々官民一体で誘客

2016/8/15

耳寄りな話題

レジーナリゾート軽井沢御影用水でくつろぐ荒木さん夫妻。ドッグラン付きの「ガーデンスーペリア」は1泊2食付きで一人3万7500円(8月上旬、定員2名の場合。時期によって価格は異なる)
レジーナリゾート軽井沢御影用水でくつろぐ荒木さん夫妻。ドッグラン付きの「ガーデンスーペリア」は1泊2食付きで一人3万7500円(8月上旬、定員2名の場合。時期によって価格は異なる)
ペットと一緒に旅行や外出を楽しむ「ペットツーリズム」が隆盛だ。高級感ある宿泊施設が関東を中心に続々オープンしている。動物にも丁寧で心のこもったサービスが、ペットと一緒にゆったりと時間を過ごしたい飼い主の心をつかんでいる。ペットに優しい街を掲げ、観光客を誘致する自治体も出てきた。

「旅も外食も基本的に犬と一緒。月1回のペースで旅行している」と話すのは、東京都で会社を経営する鈴木興祐さん(54)。7月末に長野県軽井沢町にオープンした愛犬と泊まれる高級宿「レジーナリゾート軽井沢御影用水」に2泊の予定で訪れた。妻と娘2人の4人家族だが、次女の留学を機に、妻と愛犬と「3人」で旅をする機会が増えた。軽井沢だけでなく、河口湖周辺から宮古島まで行き先は様々。

愛犬のポメラニアンを連れて「年5回は旅行に行く」のは、都内の会社員荒木望博さん(51)と順子さん(47)夫妻。「東京から車で2~3時間で行ける範囲で宿泊施設を探す」と望博さん。順子さんは「旅行の様子を撮影してブログに載せるのが楽しみ」と笑顔を見せる。

レジーナリゾートは、東京建物グループが展開する犬と泊まれる高級リゾートだ。軽井沢や伊豆、箱根など関東を中心に5軒を運営する。平均稼働率は8割程度と高く、顧客は40~50代の夫婦が中心。価格は軽井沢の場合で1泊2食付き1人3万2000円~4万3000円(8月初旬、1部屋を2人で利用した場合)。リピーターが多いのが特徴だという。

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一部の部屋をペット連れ可とする高級宿も少なくない。都内のシティホテルで初めて犬と泊まるプランを始めたヒルトン東京(東京・新宿)はスイートルームも提供する。星野リゾートの温泉旅館「界」は、昨年11月に開いた栃木県の鬼怒川の施設で初めて犬と泊まれる部屋を設けた。「30~50代の夫婦の利用が多く好調」(広報)。他に「星のや軽井沢」や「リゾナーレ八ケ岳」などにも犬連れで泊まれる部屋がある。

国内のペット数は犬と猫とで2000万頭弱。「子どもの数より多い」といわれて久しいが、この数年は頭打ちだ。特にペット連れ旅行の中心となる犬の数は991万頭(2015年、ペットフード協会調べ)で12年から減少が続く。

一方で「ペットを家族の一員と考え、一緒に旅行や外出を楽しみたいという人は確実に増えている」と東洋大学国際観光学科の東海林克彦教授。ペットにかけるお金や時間を惜しまない傾向が強まり、「ペットブームは量より質の時代に入った」と指摘する。

矢野経済研究所の調査によると、15年度のペット関連総市場規模は前年度比1.3%増の1兆4689億円の見込み。16年度は1兆4845億円程度になると予測する。

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「小谷流の里 ドギーズアイランド」のドッグプール。水深は10~20cmで、小型犬の姿も(千葉県八街市)

ペットツーリズム需要の拡大を見据えた大規模施設の開発も進む。千葉県八街市に昨年春プレオープンした「小谷流の里 ドギーズアイランド」は、ユニマットグループが手がける国内最大級のドッグリゾート。広大な敷地に宿泊施設や犬専用運動場、犬用プールやレストランが立ち並ぶ。宿泊だけでなく日帰り利用も可能。プレオープン以来、年間来場者は10万人を超えた。「今後も施設拡充を続け、17年7月の本格オープン後は年間売り上げ20億円を目指す」と早津浩之総支配人は力を込める。

人口減時代にあって厳しい競争にさらされる観光業界や自治体も、ペットツーリズムに熱い視線を注ぐ。山梨県は13年度から、ペットツーリズム推進にいち早く着手。犬連れで行ける施設情報を掲載するサイトやパンフレットを作成し、観光客を誘致する。

栃木県那須町は今年度から、町の振興計画にペットツーリズムの推進を盛り込んだ。地元の観光業者でつくるワンコネット那須協議会とともに、イベントの開催や犬連れで行ける施設を増やすための取り組みを進める。「ペットと旅行するのはいいことだという考えが地元に根付き始めた。官民でペットに優しい町づくりを進めていく」と同協議会の森村晃一会長は話す。

「ペットツーリズムを地域振興につなげるには、施設間の連携や設備の整備が必要」と東海林教授。「旗振り役として行政の役割は重要だ」と指摘する。

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新たな観光需要、マナー忘れずに

ペットツーリズムは、自然環境を学ぶ「エコツーリズム」や農村体験をする「グリーンツーリズム」などと同様、新たな観光需要を掘り起こす分野として注目される。ペット関連団体や旅行関連業者などは13年、「全国ペット・ツーリズム連絡協議会」を組織。適正な推進に向けたガイドライン作りや情報交換を行う。

ペットツーリズムを推進する意義について東洋大学の東海林克彦教授は「ペットがいるから旅行できないと思っていた人たちが動き出せば、かなりの内需振興効果が見込まれる」と指摘する。さらに、ペットとの外出で飼い主がしつけの重要性を認識し、実践するようになれば「結果として災害時の同行避難の予備的訓練になる」という。

ペットと旅をする人の裾野が広がり、マナーが悪い飼い主の影響を懸念する声もある。ガイドラインは「マナーを守り、周りの人や他のペットへ配慮を怠らないこと」と定める。飼い主にもペットにも社会性が求められている。

(女性面編集長 佐藤珠希)

[日本経済新聞夕刊2016年8月15日付]

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