前回までの記事では日本にいても外貨を持つ意義や、具体的な外貨商品についてお伝えしました。今回は外貨で投資信託を買う意味について解説します。
私たちが金融機関の窓口などで見る投資信託は実は円建てのものが多く、外貨建て投信はそれほど多くはありません。外貨建て投信とは、例えば米ドルで購入し分配金や売却時の受け取りも米ドルのまま、といった投資信託のことをいいます(円を原資にする場合は一度外貨に両替してそれで投信を買う形になる)。メリットとしては(1)米ドルなど外貨そのままで運用するため、円の為替変動はあまり考えなくてよいこと、(2)外貨建て投信のほとんどは海外で設定・運用される「外国籍投信」で、日本ではなかなか見ることのない進んだ仕組みの商品が多いこと――などが挙げられます。
私自身が実際に行った投資例を見ながら説明しましょう。私はリーマン・ショック以降、投資で勝ち続けることは難しいと思い、資産のコアとなる部分(当面は使わないけど大きな損は避けたい資金)でバランス型の投信を購入しようと考えました。将来の住宅購入資金や子供の教育資金のために安定的に増やしたいと思ったのです。教育資金は子供の海外留学なども視野に入れ、将来は米ドルで引き出す(支払う)ことも考えました。
実際にラップ型投信を買ってみる
バランス型といっても金融機関によってはマルチアセットファンドとかラップ型ファンドなど、様々な呼び方があります。どの呼び方にも明確な定義があるわけではありませんが、共通するのは株式・債券・コモディティーなど複数の資産に“バランスよく”分散投資する商品であることです。特にラップ型ファンドというのは最近多くの金融機関が積極的に販売しているもので、一般的には「金融環境に合わせて資産間の配分を柔軟に変更する」商品を指します。ほとんどの商品で「安定型」とか「成長型」といった複数のコースが準備されています。まさにいろいろなものを「包む」(=ラップ)投信です。
私は証券会社や銀行を通じて、2つのラップ型ファンドを購入しました。1つはネット証券で手数料の低い円建て(為替ヘッジなし)のファンドA、もう1つは銀行で外貨(米ドル)建てのラップ型ファンドBです。購入してから半年後(6月30日までの6カ月間)のパフォーマンスを比較したところ、Aは▲5.2%、Bは+1.4%となっていました。
背景をよく調べてみたところ、まず年初から急速に進んだ円高の影響がありました。Aの方は海外での資産運用収益がプラスであっても基準価格は円換算するので、円高(海外通貨安)の影響でマイナスになっていました。円高になるタイミングを予測して前もって換金すればよかったのですが、それを当て続けることは不可能に近いでしょう。これでは将来教育資金が米ドルで必要となった際に、必要額が確保できていない恐れもあります。
一方、Bの方は基準価格も米ドルベースで算出・表示されており、円換算はされていません。米ドルのまま運用するので、円の為替変動の影響をそれほど考慮する必要はないのです。
ホームカントリー・バイアスの影響も
またさらに調査を進めたところ、2つのファンドの分散の考え方に対する違いもあることがわかりました。ファンドAの方は国内株式にはわずか10%しか投資していなかったのに、その部分がファンド全体のマイナスに対して50%もの影響を与えていました。つまり、投資対象は分散されていたのに、リスク分散は「ホームカントリー・バイアス」の影響であまりうまく行かなかったのです。ホームカントリー・バイアスとは、投資家が情報量の少なさやリスクの高さなどの理由で海外投資に慎重になり、国内投資に偏ってしまうことです。
一方、ファンドBは運用対象の資産がグローバルに分散されているほか、リスクもうまく分散して特定の資産からの影響が大きくならないようにコントロールした結果、プラスのリターンを生み出していたようでした。こうした手法は海外の年金基金などハイエンドな投資家が取り入れている手法で、目まぐるしく勝敗が入れ替わる今の相場環境に順応している投信なのだと感心しました。
相場は生き物であり状況によってはパフォーマンスが上の説明と逆になった可能性もありますので、これだけで優劣をつけるのは行き過ぎかと思います。ただ、最初にお伝えしたように外貨建て投信は外貨のまま運用されるため円の為替変動の影響をあまり考えなくてよく、海外の進んだ手法を取り入れていることが多いといったメリットを受けやすい商品だとはいえます。
ただし注意点もあり、外貨建て投信は金融機関が商品を作る際に海外とのやりとりが多い分、手数料(信託報酬)が高めになることもあるのは知っておきましょう。
投資信託の購入を検討する際は、こうした情報を含め、外貨建て商品を含むグローバルな視点で最新の情報提供ができ、仮に期待通りの成果が得られなかった際にもその背景や今後の見通しをしっかりと説明できる金融機関を選ぶことが大切です。
次回は、外貨で運用できる保険商品を取り上げ、特徴や長所・短所をより詳しくお知らせしたいと思います。
