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メリット多い長期優良住宅、コスト増に注意

2016/8/13

 耐震性や省エネ性などが一定以上の基準を満たすと認定される「長期優良住宅」制度。2009年度に始まり、国は様々な税優遇策などで普及を支援している。最近は大規模な地震が相次ぎ、関心を持つ人が増えている。ただし上手に使うには制度の正しい理解に加え、認定を得るための費用をよくチェックすることが欠かせない。

 東京都世田谷区に一戸建てのマイホームを検討中の会社員Aさん(41)。ハウスメーカーから熱心に長期優良住宅を勧められている。「耐震性などが高く税優遇策も多いと聞いたが、認定費用などがいまひとつ分かりにくい」と話す。認定を取るかどうか迷っているという。

■低利ローン利用

 長期優良住宅は長く住み続けられる家を増やすことが目的の制度で、2015年度までに計70万戸弱が認定された。認定を得るには国が定めた耐震性や耐劣化性、省エネ性などの基準をクリアし、長期の維持保全計画を提出することなどが必要だ。通常は第三者機関による住宅性能の審査を経て、住宅がある自治体から認定を受ける。

 認定を取得する人が増えているのはマイホームが一定以上の品質を備えているというお墨付きになるからだ。通常の住宅に比べ資産価値が高く、中古市場で適正な価格が付くことへの期待感もある。

 様々な優遇策があることも見逃せない。例えば住宅ローン減税は10年間、年末のローン残高の1%を税額控除する仕組みで、通常の住宅は控除額の上限が10年累計で400万円だが、長期優良住宅は500万円と100万円多い。新築住宅の固定資産税を2分の1にする特例期間も戸建てで5年、マンションで7年と通常の住宅より2年長い。

 認定を取得すれば、住宅金融支援機構の住宅ローン「フラット35S」の適用対象にもなる。当初10年の金利が0.3%引き下げられる。地震保険料も割引対象だ。

 もっともAさんが迷うように、認定にかかるコストには注意が必要だ。費用は大きく分けて「第三者機関に払う審査料」と「基準を満たすための建材費・施工費」の2つがある。審査料は各機関で異なるが「通常は5万~6万円程度が多い」とさくら事務所(東京・渋谷)の住宅診断士、川野武士氏は指摘する。

 建材費・施工費は物件によって差が大きくなりやすい。長期優良住宅を多く手掛けるハウスメーカーの物件は、もともとの仕様が基準に達しているのが一般的。審査料以外のコストアップ要因は少ないという。一方、標準仕様が基準に満たないメーカーに頼むときは「住宅の構造、断熱性能などの見直しにより100万円程度の費用増になる可能性がある」(川野氏)。

 認定費用以外にも盲点となりかねないポイントがある。まず注意したいのは施工ミスなどの可能性だ。長期優良住宅は基本的に着工前に申請する制度なので、第三者機関が評価する耐震性や耐劣化性といった性能はあくまで設計書に基づく。施工中や完成時の第三者チェックまで義務づけられていない。

 川野氏は「施工ミスなどにも備えたいなら建設住宅性能評価を併用する手がある」と助言する。建設住宅性能評価は長期優良住宅より前の2000年に始まった制度。耐震性などを第三者機関がチェックするのは長期優良住宅と同じだが、施工中や完成段階も検査する。

■返済負担を考えて

 一般にはあまり知られていないが、両制度は併用することができる。長期優良住宅の審査をしてもらう機関に住宅性能評価も一緒に依頼できるのが普通だ。同時に依頼すると審査料などが割り引かれる例も多い。

 「税優遇に過剰に期待することは禁物だ」とファイナンシャルプランナーの久谷真理子氏は指摘する。例えば長期優良住宅は住宅ローン減税の控除額が一般の住宅より最大で100万円増えることに注目する個人は多い。

 しかし住宅ローンは通常、返済するのに伴って残高も減っていく。年末時点の残高が減れば、控除額も少なくなる。100万円分のメリットを得られるのは、借り入れ後10年間は残高が5000万円を下回らない場合だ。久谷氏が「フラット35S」を利用するケースで試算したところ、約6800万円の借り入れが必要だった(借入期間35年、融資率9割以下で8月適用の最低金利、元利均等返済、ボーナス払いなし)。

 収入にもよるが、一般的に個人の住宅ローン借り入れとして少なくない額だ。当初10年で100万円のメリットを受けたとしても、長期的に家計のローン返済負担が重くなる可能性はある。税優遇に目を奪われて過剰な借り入れをしたのでは本末転倒になりかねない。久谷氏は「必ず資金計画に照らして、自分がどの程度の控除を受けられるのか具体的に試算すべきだ」と助言している。(堀大介)

■分譲マンション・建て売りも対象
 長期優良住宅は新築の戸建て注文住宅で認定を受ける例が多いが、分譲マンションや建て売りの戸建て住宅も対象だ。あらかじめ認定を受けて分譲する事業者もいるので、認定がほしい個人はこうした物件を購入するといいだろう。
 現在はマンションで長期優良住宅認定を取得する事業者が少ない。住宅全体の認定件数は2015年度で約10万戸だったが、共同住宅は1500戸弱にとどまる。ただし将来的に中古市場で長期優良住宅が通常より高い価格で取引される例が増えれば、認定を検討する事業者が広がる可能性はある。分譲物件選びの基準の1つに、認定の有無を加えてもよさそうだ。

[日本経済新聞朝刊2016年8月10日付]

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