被災地から全国ブランド目指す 福島・熊本の挑戦

東日本大震災から5年が経過し、今年4月の熊本地震からの復旧も進みつつある。被災地の食の現場では、ブランド作りに挑んできた生産者が全国への発信を復興の足がかりにしようと努力を続けている。福島県と熊本県の生産者を訪ね、ブランド食材に込める思いを取材した。

高品質で風評被害乗り越える

山形屋商店の渡辺和夫さん

福島県相馬市で150年続くしょうゆ屋、山形屋商店は安全で高品質という食品作りの基本を忠実に守ることで風評被害を乗り越えてきた。代表の渡辺和夫さんは「世間の情けを買うようでは真の復興を果たせない。品質の良さを認められて買ってもらうことこそ、食品づくりの正攻法」と語る。2013年と14年には、地域名などを隠して評価する全国しょうゆ品評会で農林水産大臣賞を受賞した。今年もこの品評会に出品して農水大臣賞にノミネートされている。8月末には結果が出る予定で、再び首位を狙う。

東日本大震災の原発事故による風評被害で売り上げは一時、4割も落ち込んだ。パンフレットには放射性物質の検査状況を記載。秘伝の「火入れ」と呼ぶ技法も地道に紹介し、安心・安全を守りつつ味や香りも追求する両輪で「真の復興」を目指している。

こだわりでブランド強化

ミニトマト「プチぷよ」は薄皮で食べやすく甘みもある

アルス古川(福島県会津坂下町)は震災後、ミニトマトのハウス栽培にIT(情報技術)設備を導入。3年間で専用ハウスを4棟から10棟に増やした。生産する品種「プチぷよ」は、フルーツのような甘みが特徴だ。つややかに光る見た目はまるでサクランボのよう。皮が柔らかいので、口の中に残る感覚がなく子供も食べやすい。

同社の古川陽平専務は「びっくりするほど皮がデリケートなので、いまのところ長距離の輸送は難しい。その分、地元の道の駅や直売所に観光客が来て食べてもらえれば復興にも役立つ」と語る。

鶏卵生産の大野村農園(福島県相馬市)は約1年前から「相馬ミルキーエッグ」(10個入り、税込み770円)を販売している。市販のエサはほぼ使わず、自家製の野菜やビワ、魚のあら、近隣農家のコメなどを鶏に与える。口コミで人気が広がり、東京のレストランでも使われている。北海道や大阪からも注文が来るようになった。

代表の菊地将兵さんは東日本大震災直後の11年5月に相馬市へ帰郷して就農した。放射性物質の検査結果を公表してもなお風評被害に悩む野菜農家を目の当たりにした。「悔しさを乗り越えて全国から求められるブランド品を作りたい」。近くの農家に鶏ふんを肥料としてあげ、代わりにエサをもらう循環型経営で地域おこしも担う。

レトロなブランド「酪王」

「酪王」ブランドの乳製品はレトロなパッケージで人気

福島県内のJR駅構内の売店で人気を集めているのが、「酪王」ブランドの乳製品だ。県の酪農協同組合が設立した酪王乳業(郡山市)が作っている。生乳は福島県産で品質チェックに合格したものを50%以上使用。いちごオレやカフェオレがあり、300ミリリットルだとそれぞれ税込み163円。紙パックは淡いピンクや茶色の背景にレトロな字体で書いてあり、かわいい。大人でもファンが多い「いちごオレ」は、懐かしさを感じるまろやかな味わいだ。練乳が国産の「とちおとめ」の甘酸っぱさをうまく引き立てている。

原発事故の影響で、県内の酪農も被害を受けた。しばらくは牛のエサに地元の牧草を使えなくなり、北海道から運んでしのぐ日々が続いた。福島県酪農業協同組合は「酪王ブランドで盛り返して、県外から支援してくれた方々に恩返ししたい」という。

知る人ぞ知る国産炭酸水

伊勢志摩サミットでも各国首脳に出された「奥会津金町 天然炭酸の水」

13年にミャンマーのアウン・サン・スー・チー氏が来日した際、安倍晋三首相が出したのが福島県金山町の天然炭酸水だった。16年5月の伊勢志摩サミットでは「奥会津金山 天然炭酸の水」として各国首脳の卓上水として採用された。人工的に天然水に炭酸を入れて売ることは多いが、炭酸水そのものが湧き出てくるのは日本では珍しい。製造販売会社のハーベス(さいたま市)は、福島県金山町の工場で商品化している。海外の天然水に多い硬水とは違ってまろやかな軟水だ。さらに微炭酸なので、優しい刺激が味わえる。

これまで政府の復興担当政務官や自民党の農林部会長として何度も福島を訪れている小泉進次郎議員も、金山町の天然炭酸水のファンだという。今月6日に視察したときも「いつかウイスキーの入ったグラスを天然炭酸水の湧き出るところに持って行ってハイボールにしたい」と目を輝かせた。内堀雅雄福島県知事も「復興に向けて福島の食の魅力について太鼓判をもらった」と語る。

熊本地震、もうすぐ4カ月

震度7と6強の大揺れが立て続けに起こった熊本地震から、もうすぐ4カ月になる。熊本は全国3位の酪農や1位のトマトなど、畜産も野菜や果物の生産も盛んな地域だ。東日本大震災のような津波の被害がなかったため、伝わってくる震災報道は少なくなりつつある。ただ、阿蘇山に連なる山々では、青々としていた草原が土地ごと崩れ落ちた箇所も多く残る。大雨が降るたびに土砂崩れが起き、農業関係者は物流網が寸断されないか現在も不安を抱きながら生産している。

阿部牧場(熊本県阿蘇市)は、スーパーなどで売られる牛乳より4~5倍高い「ASO MILK」を作っている。地震で断水したため、当初は湧き水をトラックで運び、約240頭の牛に与える日々が続いた。現在は、自力で山の麓から天然水をひくパイプラインを整え、生産を回復させつつある。

今夏は熊本市の鶴屋百貨店で初めて、「ASO MILK」が中元ギフトの一つに採用された。賞味期限の短い牛乳は本来なら贈り物には向かない。日本航空とのタイアップなどで高級牛乳としての認知度が高まったことを百貨店側が評価し、採用に至った。ただ、道はまだ半ば。「県内の道の駅などの販売拠点が閉鎖されたままなので全体の生産量は前年より減らさざるを得ない」(阿部寛樹社長)。築いてきたブランドを守り、さらに育てようと、生産者の奮闘は続く。

(小太刀久雄)

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