コスパと質感に脱帽 ファーウェイ「MateBook」
日本では、SIMフリースマートフォン(スマホ)で徐々に知名度を上げているファーウェイが、ついにパソコン市場に参入し、「MateBook」を発売した。Androidタブレットを作っているメーカーがWindowsタブレットに参入するのはそう難しいことではないが、課題は、お世辞にも活況とは言えないパソコン市場で、売れる製品を作れるかどうかだろう。
そんなことを思いつつ、実機を見て驚いた。ものすごくいいのだ!
とにかくコストパフォーマンスが素晴らしく、実物の高級感も高い。個人的には、すぐにでも買いたいと思っているのだが、パソコンの世界では新興メーカーだからこそ、不安に感じる人もいるだろう。そこで、一つずつ検証していこう。
外観にはほとんど粗がない
スマホは、全体のたたずまいがとても重要だ。安価な部材を使ったとしても、安っぽく見せないことに各社は注力している。また、最近では低価格モデルでも金属を使って高級感を打ち出している。
MateBookでもそのノウハウが生きているのだろう。たたずまいはとてもいい。金属ボディーは6.9mmと、12型液晶のWindowsタブレットとしてはとても薄く、また、ベゼルが狭いので見た目にもスマートだ。手にしてみると非常に剛性感があり、個人的には好印象を持った。
細部でもなかなか欠点を見せない。強いて挙げるなら、本体上部のパーツだろうか。ここだけ樹脂性で、周囲の金属とは質感が違うのだ。パーツをできるだけ小さくして、目立たないように工夫しているとはいえ、周囲がダイヤモンドカットで仕上げられているだけに、そこだけ見た目が違っているのが残念だ。本当に、本体外観の欠点はそれくらいしか見当たらない。
拡張性は専用のドックがサポートする
MateBook本体には、ヘッドホン端子に加え、USB-C端子が1つあるのみだ。当然、充電時は利用できなくなるので、拡張性という点では非常に厳しい。とはいえ、なるべくワイヤレスで利用するという、この製品のコンセプトを理解していれば特に問題はないと思う。
それでも拡張性を望むなら、別売の「MateDock」を購入する方法もある。このドックは通常サイズのUSB端子(2基)にVGA、HDMI、有線LAN端子、充電専用のUSB-C端子を備えており、変換ケーブルなども付属する。拡張性が低いモデルにドックをつなぐのは昔から定番だが、注目したいのは価格で、9800円に抑えられているのはありがたい。
拡張性が低いのは製品のコンセプトであり、かつ対策もしっかりと用意されている。MateDockを購入すれば、困ることはまずないはずだ。しかも、ドックにはキーボードと同じ素材のカバーまで用意されていて、見た目にも抜かりない。
打ちやすいキーボード、ペン入力にも対応
別売の「MateBook Keyboard」キーボードはなかなか打ちやすい。タイプ感は、「Surface Pro 4」のタイプカバーといい勝負だろう。配列も良いので問題なく利用できるはずだ。タッチパッドにクリックボタンが付いていないのが残念だが、そこは妥協するべきだろう。
驚いたのが、専用の「MatePen」による手書きにも対応していること。ワコム製のスタイラスで、ペン先が細くて書きやすく、感度や書き味もいい。
ペン尻がレーザーポインターになっているのも便利だが、本体が軽すぎるのは欠点だ。手にしてみると中身が空っぽじゃないかと思えるほど軽い。ペンはある程度の重さがあったほうが使いやすいので、ここはちょっと残念だ。なお、ペンは充電式で、1度の充電で100時間使えるとのこと。
最大の懸念はサポートとヘルプか
MateBookは一番安いモデルが6万9800円からと手ごろながら、CPUはCore m3を採用している。メモリーは4GBにとどまるが、液晶は2160×1440ドットと解像度も文句なしだ。コスパを考えれば90点は付けられるだろう。
MateBookの性能面での欠点は3つ。まず、LTEに対応していないのはとても痛い。スマホメーカーが出したモデルとしては残念だ。また、microSDカードでストレージを増やせないのもいただけない。スペック表を見ると512GBストレージのモデルまで用意されているが、microSDカードが欲しくなる人も少なくないと思われる。最後の欠点は、GPSを内蔵していないこと。正確な位置情報が把握できないと、地図アプリをナビとして使えない。
ただ、実際のところ、MateBookの最大の弱点は、「ファーウェイ」というメーカーの知名度がパソコンの世界では低いことだろう。仕事の道具として使う際には、信頼性を気にする人も少なくない。その意味でファーウェイはブランド力がまだ弱いのだ。
MateBookを買うとなると、心配になるのがサポートや修理の対応だろう。パソコンの場合は、スマホよりもはるかにサポート事項が多く、ソフトウエアの対応も必要になる。メーカーにとっては非常に負荷が大きいところだけに、長年パソコンを手掛けているメーカーにはやはり安心感がある。もちろん、僕はMateBookのサポートを体験したわけではないので評価はできないが、製品選びの際に不安があるのは否めない。この点は、ファーウェイが良い製品を投入し続けて信頼を勝ち取るしかない。
同社のウェブサイトを見ても、この不安は感じてしまう。プレゼン資料から切り取って貼り付けたようなサービスのフローをユーザーに見せているのはいかがなものだろう。とてもではないがユーザーに優しいとは言い難い。
MateBookは素晴らしいモデルで、コスパに関しては既存のパソコンメーカーが焦りを覚えそうなほどだ。製品は間違いなく合格点以上を付けられる。ただし、パソコンメーカーにサポートの良さを求める方は、少し様子を見てからの購入をおすすめする。
最後に、なぜファーウェイがパソコンに参入したのかを僕なりの視点で考えるなら、売り上げが落ちているAndroidタブレットの補完ではないかと思う。パソコンに参入というより、OSの違うタブレットも手掛けた……現時点ではそんな印象だ。
1963年生まれのビジネス書作家。著書は120冊以上に上る。パソコンなどのデジタル製品にも造詣が深く、多数の連載記事も持つ。ユーザー視点の辛口評価が好評。近著に、『一流のプロから学ぶ ビジネスに効くExcelテクニック』(朝日新聞出版)がある
[日経トレンディネット 2016年7月28日付の記事を再構成]
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