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不動産リポート

必ずしも相場通りに決まらない 不動産価格の真相 不動産コンサルタント 長嶋修

2016/8/10

 不動産の価格には当然、相場というものがある。相場は過去の取引事例やその時々の市況トレンドなどを織り込みながら変動する。しかしながら株式や債券とは異なる点がある。不動産は同じものが二つとないうえ、売り主と買い主の相対取引であるため、必ずしも理論上の相場価格通りで成約するわけではないところだ。

 いうまでもなく不動産の価格は「需要と供給」の兼ね合いで決まる。新築でも中古でも、引き合い(需要)が強く、値引きしなくても売れるものはそのままの価格で流通する。中にはあまりに引き合いが多く、売値よりさらに高い価格を買い主が提示して成約することすらある。これには相場価格より安いとか、希少性があるなどケース・バイ・ケースで様々な理由がある。

 一方、値引きをしないと売れないもの、つまり需要のないものは買ってくれる人が現れるラインまで値下げをすることになる。値下げができない、もしくはしない場合はずっと市場に放置されることになるばかりか、悪い意味での「比較物件」として取り扱われる。売れ残り物件が存在することによって、本命物件が相対的により良いものであることを際立たせるわけだ。

 不動産会社などが分譲する新築住宅の場合には、少々事情が異なる。その会社が決算期を迎えている場合などは、契約や引き渡しをなんとか決算に間に合わせたいなどの理由で早期売却を目指し、利益が減少することを覚悟で値引き販売することがある。

 また、例えば景気が悪化し株式市場が不調に陥り、住宅の売れ行きが極端に落ちた場合などに、在庫を抱える体力のない会社は仕方なく、大幅に値引きをして手放すケースがある。

 1990年代後半、消費増税に山一ショックなどが重なった当時は、新築マンションや一戸建てで500万円引き、1000万円引きといった事例があちこちに見られたし、リーマン・ショック後にも現場では同様のことが起きた。

 個人が売り主の場合は、まさにケース・バイ・ケース。3000万円の中古住宅が10件売りに出されている場合、それぞれの売り主の事情や思惑は千差万別だ。

 ある売り主は「特に売り急いでいるわけではないから1円も引かない」と考えているかもしれない。またある売り主は「1カ月で売れなかったら価格を下げよう」と考えているかもしれない。「とりあえず3000万円で売りに出しているが、ある程度の値引き交渉には応じよう」と考えている売り主もいるだろう。

 もしくは、先に住み替え先のマンションを契約してしまい、今月中に売れなかったら業者買い取り価格で買い取られてしまうかもしれないといった事情を抱えているかもしれない。ちなみに、不動産業者の買い取り価格は一般的に、相場の60~70%程度だ。

 販売価格、売りに出されている価格はあくまでも「売り主のオファー(提示)価格」にすぎない。それに対して買い主は「買い付け証明書」「購入申込書」などの書面を提示し、「いくらで買いたい」と意思表示をした段階から初めて、双方の提示額が同じ土俵に乗り、交渉が始まるのだと考えよう。

 こうした書面の提示は購入の意思表示であり安易に出すものではないが、そこで初めて値引きの可否や売り主の要望などがわかるものなのだ。

長嶋修(ながしま・おさむ) 1999年、業界初の個人向け不動産コンサルティング会社「さくら事務所(http://sakurajimusyo.com/)」を設立、現会長。「第三者性を堅持した個人向け不動産コンサルタント」の第一人者。国土交通省・経済産業省などの委員を歴任し、2008年4月、ホームインスペクション(住宅診断)の普及・公認資格制度を整えるため、NPO法人日本ホームインスペクターズ協会を設立し、初代理事長に就任。『「空き家」が蝕む日本』(ポプラ新書)など、著書多数。さくら事務所では利用者数3万5000組突破を記念し、8月24日、25日に「家づくり・住宅購入」何でも相談室を開催。参加は無料。詳細はhttp://www.sakurajimusyo.com/natsuyasumiへ。

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