すご腕ファンドマネジャー、二宮金次郎(藤野英人)レオス・キャピタルワークス社長兼最高投資責任者

「銅像で有名な二宮金次郎さんは腕が確かなファンドマネジャーでもあった。彼は『五常講』というファンドで農民らに低利融資した」

最近は「ポケモンGO(ゴー)」が大はやりで、リュックを背負ったビジネスマンがスマホを操作しながら街を歩いている姿をよく見かけます。歩きスマホは危険ですのでポケモンGOを禁止するエリアも増えているようですが、その姿を見ていたらある偉人のことを思い出しました。二宮金次郎さんです。

昔は日本のあちこちの小学校に、まきを背負って本を読む少年の銅像がありました。まきを運びながら勉強にいそしんでいる姿を刻苦勉励の理想的な姿だと思われて、銅像にまでなりました。しかし、今だったら危険だから規制しろといわれてしまうかもしれません(苦笑)。

さてこの二宮金次郎さん。実は日本で最も古い偉大なファンドマネジャーだったんです。銅像が有名な割には知らない人が多いのではありませんか。

二宮金次郎こと二宮尊徳さんは江戸時代末期、農村の復興に尽力した農政家・思想家で、小田原藩の民間人です。彼は小田原藩の小農や零細下級武士が困窮している状況に「五常講」という名前のファンドを始めました。貸し付けは原則無利息でしたが完済後、農民らに余裕資金をファンドに任意に供託してもらう制度になっていて、これが実質的な利息になりました。利息は5%~10%程度であったといわれています。当時、両替商などが貸金業を行っており、その利息が10~20%程度だったことを考えると、低利の貸し付けだったようです。

利息は五常講の新たな資金とされ、次の融資に使われました。そして次第にファンドと呼んでも構わないほどの規模になったといいます。農民らはこのファンド融資により商品作物をつくったり、新たに荒地を開墾したりする新規事業に取り組むことができました。その運営に対しても支援を行ったといわれています。

刻苦勉励だけでなく、ビジネスにおける様々な工夫を施したようで、単なる金貸しではなかったのですね。さらに資金を提供する際には、その人物をよく観察して、みだりに資金を提供したわけではなかったようです。きちんとビジネスを完遂できる人かどうかという人物鑑定眼が二宮尊徳さんにはあったようです。

実際には資金を提供するときには、その周囲の人物に対して信頼できる人物かどうかインタビューをしたり、場合によっては連帯保証人を探したりしたようです。さらに、貸し付けする予定の人の家に入り、台所なども見たようです。台所が整理整頓されている人に融資し、乱雑であった人にはお金を貸さなかったと伝えられています。

つまり二宮尊徳さんは、信用できる人にお金を貸し、貸したら成功のために手を貸して、完済後は余裕資金の一部を実質上の利息としてファンドに供託させたのです。そうやって五常講の資金が増えていき、ついにはその貸付領域は関東の数百の村、小さな大名にまで及んだといいますから、ファンドマネジャーとしていかに腕が確かだったか驚きます。

当時、経済的には低成長、マイナス成長の時代でした。多くの農民や下級武士が生活に困窮している中で、二宮尊徳さんは経済的に自立することを訴え、より工夫し、収入以上に使わず、その節約したものを未来に投資をしていくということが大事であると説きました。前回紹介した本多静六さんに近い考えの方のように見えます。

ちなみに金次郎さんが背負っていたまきも当時はすぐにお金になる換金性の高い商品でした。彼は山から木を切り出し、それを運搬しながら勉強して新しいアイデアを得ていたようです。今でいうマルチタスクですね。

最後に、私の好きな彼の名言をいくつか紹介しましょう。

「道徳を忘れた経済は、罪悪である。経済を忘れた道徳は、寝言である」

これは日本の資本主義の父といわれる渋沢栄一さんの「論語と算盤」に通じた考えのように思います。

「すべての商売は、売りて喜び、買いて喜ぶようにすべし。売りて喜び買いて喜ばざるは道にあらず。貸借の道も、また貸して喜び、借りて喜ばざるは道にあらず」

彼は「分度」という考えを持っていました。それは収入に見合った生活をしろという考え方です。稼ぐ以上に使わなかったら誰でももうかります。その意味では二宮尊徳さんはファンドマネジャーでもありましたが、「分度」マネジャーでもありました。

尊徳さんは「そんとく」さんとも読め、「損得」さんにも聞こえます。「リスクとリターン」とは名前からして、なんだかファンドマネジャーらしいではないですか。

プロのポートフォリオは運用に精通したプロが独自の視点で個人投資家に語りかけるコラムです。原則火曜日掲載で、レオス・キャピタルワークス社長兼最高投資責任者(CIO)の藤野英人氏と楽天証券経済研究所所長兼チーフ・ストラテジストの窪田真之氏が交代で執筆します。
藤野 英人(ふじの・ひでと) レオス・キャピタルワークス社長兼最高投資責任者(CIO)。1966年生まれ。早稲田大学法学部卒。90年野村投資顧問(現野村アセットマネジメント)に入社。96年ジャーディンフレミング投資顧問(現JPモルガン・アセット・マネジメント)に入社。「JF中小型オープン」は1年間の上昇率219%を記録。驚異的なパフォーマンスを上げ、「カリスマファンドマネジャー」と呼ばれた。2000年ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメントに入社。03年レオス・キャピタルワークス創業。CIOに就任。09年取締役、15年10月社長就任。明治大学非常勤講師なども務める。著書に「投資家が『お金』よりも大切にしていること」(星海社)など多数。
近づくキャッシュレス社会
ビジネスパーソンの住まいと暮らし