遺産分けの優先順位と割合は? 相続放棄は家裁で

「相続トラブル」をテーマにした筧ゼミはきょうが2回目。遺産分割の際に重要な「法定相続割合」を取り上げます。民法で定めていますが、どんな分割割合で、何に注意すべきなのでしょうか。岡根知恵さんが発表します。
筧花子(かけい・はなこ、50=上)経済大学院教授。家計の経済行動や資産形成、金融リテラシーが専門。 岡根知恵(おかね・ちえ、38=中)パート主婦。将来の家計に不安を覚え、金融知識を身に付けようと大学院に。 屋久仁達夫(やくに・たつお、54)大手製造業の技術職。定年を控え年金・介護など老後資金に関心。

屋久仁 法定相続割合をテーマにした理由から教えてください。

岡根 遺言があれば、遺産分けはそれを優先します。でも相続専門の大手税理士法人レガシィが扱った相続案件でみると、亡くなった人(被相続人)の1割前後しか遺言を書いていません。結果として法定相続割合を基に配分される場合が多いので、頭に入れておくことは大事です。

 配偶者は一番優先されるのよね。

岡根 配偶者は必ず相続人になります。配偶者以外では順位が決まっていて、上の順位がいる場合は下の順位は相続人になりません。第1順位は子です。子がいる場合は第2順位の父母や第3順位の兄弟姉妹は相続しないのです。子がいなくて父母と兄弟姉妹だけの場合は第2順位の父母だけが相続し、第3順位の兄弟姉妹は相続しません。

屋久仁 相続する割合は配偶者と子なら半分ずつですね。子が3人なら1人当たりは6分の1ずつということですか。

岡根 はい。ちなみに配偶者以外との間の子、つまり非嫡出子がいる場合、以前は非嫡出子の法定相続割合は嫡出子の半分でした。しかしそれを憲法違反とする判決が2013年に最高裁であり、民法が改正されました。今では嫡出子と同じ配分です。

 もし養子がいたらどうなるのかしら?

岡根 養子も実の子と同じ扱いです。

屋久仁 でも相続できる養子の数には制限があったような気がします。

岡根 小野総合法律事務所の庄司克也弁護士は「養子の数が制限されるのは相続税の基礎控除を計算する場合で、相続人の資格に関しては養子の数の制限はない。混同している人が多い」と話しています。相続税の計算では相続財産から「3000万円+法定相続人の数×600万円」を基礎控除できます。でも控除を増やそうと養子を多くとる人がいると相続税収が減るので、控除の対象は実子がいる場合で養子は1人まで、実子がいない場合は2人までと決まっています。

屋久仁 なるほど。私も勘違いしていました。財産の相続に関しては養子が何人いても実子と同じように相続できるのですね。

 子や兄弟姉妹が被相続人より先に亡くなっていたら、誰が相続人ですか。

岡根 子や兄弟姉妹の子、つまり被相続人の孫、おい、めいが相続します。本来相続すべきだった人が亡くなっている代わりにその子が相続することを代襲相続と言います。

屋久仁 子どもの子である孫も亡くなっていれば?

岡根 ひ孫が相続します。これを再代襲と言います。ただし兄弟姉妹の子が亡くなっている場合は再代襲はありません。

 離婚した元妻や子はどうなるのかしら。

岡根 離婚した妻は法定相続人にはなりませんが、子は法定相続人です。再婚した現在の妻も当然、法定相続人です。再婚した妻に連れ子がいた場合、連れ子はそのままでは法定相続人にはなりませんが、養子縁組をすれば法定相続人になります。

屋久仁 子や父母がいない場合、配偶者のほか兄弟姉妹も4分の1の法定相続割合があるのですね。

岡根 例えば病気を抱えている奥さんが残されて今後の生活が不安でも、被相続人の兄弟姉妹が法定相続分を主張してくれば、遺言がない場合はその分を渡さざるを得ません。しかし遺言で妻に全部の財産を残すと書いておけば、その通りにできます。子がいない場合などは遺言の必要性が一層大きいと言えますね。

屋久仁 ちょっと待ってください。法定相続人には遺言でも侵せない最低限の取り分があると聞いたことがあります。

岡根 それを遺留分といいます。相続人が父母だけの場合は法定相続割合の3分の1、それ以外は多くの場合、2分の1です。ただ兄弟姉妹に遺留分は認められないので、さきほどの例では「奥さんに全部」と遺言しておけばいいのです。

 私は夫に心の底から愛されているので実際にはありえないけど、もし「配偶者に財産は一切残さない」と遺言されたら、遺留分はどうやったら取り戻せるのかしら。

岡根 相続や、遺言で他の人に遺産を渡す遺贈などがあったのを知ってから1年以内であれば、遺留分減殺請求という手続きで取り戻せます。この1年というのは、相続開始を知ってからに限らないことが重要です。庄司弁護士は「相続開始を知ってから1年を過ぎていても、遺贈などがあったことを知って1年以内なら減殺請求をできる」と話しています。ただし相続から10年が過ぎていると、新たに贈与などを知った場合でも減殺請求をすることはできません。

屋久仁 被相続人に莫大な借金があっても、やはり引き継がなくてはいけないのですか。

岡根 相続開始を知ってから3カ月以内なら、一切の財産相続を放棄する相続放棄、またはプラスの財産の範囲内で借金を引き継ぐ限定承認という手続きを取ることができます。

■相続放棄は家裁で手続き
阿部・井窪・片山法律事務所 弁護士 佐長功さん
相続では預貯金などプラスの財産だけでなく、借金などマイナスの財産も引き継ぎます。相続人全員が遺産分割協議で「長男が財産の全てと借金を引き継ぐ」と合意しても、他の相続人は銀行などからの返済要求を拒めません。借金は法定相続分に応じて分割して引き継ぐのが原則なので、これと異なった取り決めをするときは銀行の同意が必要です。銀行にとって、返済能力のない人が借金を全部相続されたら困るからです。
亡くなった人の借金が他の財産の価値を上回っている場合などは相続放棄が選択肢です。相続放棄は亡くなった人の住民票がある場所の家庭裁判所で、申述(しんじゅつ)という手続きをすることで成立します。遺産分割協議で何も相続しないと決めるだけでは相続放棄は認められません。勘違いしている人も多くいます。(聞き手は編集委員 田村正之)

[日本経済新聞朝刊2016年8月6日付]

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