夜の動物たちと夏の夜の開園
今年は8月9日から15日まで開園時間を延長して夜の動物園を行います。今では全国各地の動物園でも行っていますが、旭山動物園の夜の動物園は1987年(昭和62年)に開園20周年を記念して始まりました。当時の旭山動物園は、古い施設が多く来園者の足が遠くなる一方でしたが、道北では唯一の遊園地もあったので遊具の更新で目新しさを出し来園者の足を引き留めている状況でした。
開園20周年をきっかけに、新たな動物たちの魅力を引き出すことはできないか?そこで夜の開園でした。本来は夜も、いや夜の方が活発に活動する習性をもった動物たちは多いのでいわゆる夜行性の動物たちの本質的な魅力を引き出せるのではないか、その姿を見てもらおう、夏の夜の夕涼みにはピッタリだ!そんなノリでした。
どうせならヘイケボタルも観てもらいたい、旭川では見なくなったと言うけれど実はまだひっそりと暮らしていること、風向きが山の方に向かっている日に一斉に田んぼに農薬をまくけどその日を境にいなくなってしまうこと、たくさん伝えたくてほんの数匹のホタルを捕まえ小さなケースに入れてガイドをはじめました。
カブトムシ(北海道では外来種)採りは、夜街灯の下で捕るのが北海道では一般的ですが、カブトムシの生態やメロンやスイカの農家が多い北海道では大問題であることを伝えたくて、カブトムシ採りに明け暮れたりしました。
さぞたくさんのお客さんが押し寄せたでしょ、と思うかもしれませんがせいぜい数百人程度、雨が降ろうものなら来園者を探すのが難しい状態。園内の売店さんにも夜も開けてもらっていたのですが、あまりにも来園者が少なくて付き合ってられない!との苦情まで出るような年が続きました。夜の動物園の開催日も一定せず、迷走しました。
ただ細切れに夜間開園すると、動物たちの生活のリズムが狂ってしまうことがありました。夜行性と言っても、夜間に暗い場所で活動するように身体機能を特化させた真の夜行性動物と、日中でも活動できるけど夜間の方がより活動的になるいわゆる夜行性動物がいます。
多くは後者でたとえばカバやシカ、ライオンやトラ、オオカミなど一般的に夜行性と言われる動物たちです。自然環境の中では必然性があって夜間に好んで活動しますが、動物園の場合必然性がなくなります。
食べ物を得ること、身を守ること、エネルギーの消耗から解放されるからです。動物園の動物はどうしても人の生活のリズムに同調した生活になります。ライオンも夕方寝室に収容して餌を食べると夜はグーグー寝ます。皆さんが飼っているイヌやネコもくくりで言うと夜行性ですが、人のリズムで生活していますよね。
夜の動物園が始まるといつもの時間に寝室には入れません2、3日続くと「これもいいな!」となってきます。本来夜間でも活動できる身体機能(視力や動くものに敏感に反応する脳の機能など)が目覚め、明らかに日中とは別人のような顔つき、動きが見られるようになります。
ですが次の日からは早く寝室です。残餌が多くなったり、日中寝ている時間が長くなったりと体調に良くない影響が見られる個体もいたため、今は連続してお盆を中心に一週間連続の夜間開園としています。
夜の動物ガイドをはじめたり、動物クイズ大会を企画したり、夜間開園も視野に入れた照明や飼育環境も考慮した施設の再整備も進め、今では多くの人が訪れるようになりました。お盆に帰省する人も多い地方都市旭川です。帰省した方もたくさん来園されます。故郷を感じてもらえる旭山動物園でもありたいのです。
ちなみにヒトを含めた多くのサルの仲間は、昼間の活動に特化しています。微妙な色彩の変化も見分ける視力を持つかわりに、夜間はほぼ視力を失います。夜間安全な場所、樹上で生活するようになったからです。
夜の動物園ではサルの寝姿をのぞくことができます。チンパンジーはそれぞれ高所に麻袋や乾燥を敷き詰めベットをつくり寝ます。肘枕をして口をぽかーんと開けて寝る個体、大の字で大股を開いて寝る個体、見てはいけない姿を見てしまったような気恥ずかしさがあったりします。サルは夜は寝るのです。
ヒトは明かりを発明し、自分の好きな生活のリズムをつくり出すことができるようになりました。普段見られない物を見ることも大好きです。尋常ではない寝苦しさが続く暑い夏になった日本、夜出歩く機会の増える8月です。夜行性にならないよう生活のリズムを崩さないように過ごしたいですね。
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