人生が豊かになる旅のつくり方達人に聞いた「上手に旅する方法」(1)

作家であり、旅人であった永六輔さんが7月、天国へと旅立たれました。彼の人生を通して、モノではなく旅という経験にお金を使えば、はるかに多くの喜びと満足を得られるということ、旅がどれだけ人生を豊かにし、心の栄養となるかということを改めて考えさせられた人は多いと思います。

夏休みを利用して、楽しみにしていた旅に出かける方も多いことでしょう。限られた時間と予算の中で心豊かな旅をするのはなかなか難しいもの。人生にプライスレスな旅の体験を求めて生きる2人のフリークエント・トラベラーに「旅とは何か」、そして「上手な旅の方法」を聞きました。

旅しながら働く、生きる

高橋敦史さん(写真家・編集者)

世界を旅して、その瞬間を切り取る写真を撮影し、旅の雑誌などを手がけるフリーの編集者兼フォトグラファーの高橋敦史さん(移動編集社代表)は、20代の頃、バッグ一つで「終わりを決めない旅」に出ていた根っからの旅人。21年間で訪れた国は70カ国以上。季刊「珈琲時間」編集長を務めながら、海の上でも機内でも原稿を書き、写真を撮り、常に「動」の世界の中で仕事をしています。

高橋敦史さん。仕事で長期乗船する飛鳥2で南極の海へ

「旅の醍醐味は、その場所でかけがえのない体験をし、それを人生の栄養にしていくというところ。それが人生経験として蓄積されていきます。生きているうちにそういう旅をどれだけできるか、人生の深みというのはそこから生まれると思います」

そう話す彼のおだやかな口調からは、揺るぎのない生き方が感じられます。数多くの国を訪れ、様々な文化と国と人を知り、人と協調して生きる柔軟性を旅から学びとった証しなのかもしれません。

旅しているときは瞬間瞬間がすべて

普通にときどき旅行をする人でも、予算と折り合いをつけつつ満足できる旅にするのは難しい。フリークエント・トラベラーはどんな工夫をしているのでしょうか。

まず高橋さんは「お金を安く抑える努力をするのは、出発前まで」と強調します。「旅に出たら、その瞬間瞬間を楽しむべし。旅先でお金にきゅうきゅうとしている人は、旅そのものを楽しめていないですよね」

例えば別に大きな金額ではなく、あと数ドルそこで払えば価値あるものが見られる、ということも旅先ではあります。それなのに「残りの旅の予算を考えてケチってしまうとか、もったいないなと感じます。旅はその瞬間がすべてだからです」。

バックパッカー時代は、ラオスで1泊1ドルという激安宿に泊まったことも。「シャワー棟の屋上に蚊帳が吊ってあるだけだったけど(笑)、屋根があるだけありがたかった」。その一方で、豪華客船にオフィシャルフォトグラファーとして長期乗船するなど、優雅な旅も体験。プライベートでは金額だけにこだわらず、満足度の高い旅になるように、求めるものに優先順位をつけて手配するそうです。

「安いモノには必ず理由があります。それが受け入れられるかどうか、そこを見極めるのです。その安さは表面的な場合もありますから、理由がどこにあるかをチェックします。例えば食事なしのツアーが一見安くても、朝食代が高いリゾートホテルの宿泊であれば結果的に高くつく。3泊4日の安いツアーでも、出発時刻が深夜であれば1日分損した気分になります。多少高くても乗り継ぎ時間に余裕があるチケットで安心と安全を買うのか、安さを優先するのか。どちらを選んでも、自分が納得する事が大事。気分を下げる要素があれば、旅に出る前に払拭すること」(高橋さん)

格安航空会社(LCC)を利用するときも見極めが大事です。「以前に、ジェットスターの公式メルマガのセールで、片道2000円程度で別府温泉に行きましたが、一番高くついたのはレンタカー代でした(笑)。LCCで行く場合は自宅から空港、空港から目的地までのアクセスの状況をチェックしないと、高くつくこともあるので注意が必要です」

アクセスがよければ、LCCを使ってプチぜいたくを楽しむこともできます。「例えば高松空港(香川県)は、市内に公共バスで行けてアクセスが便利。これなら、“ヘリでうどんを食べにいく”みたいな感覚を楽しめますね」

旅で出合う音楽のすべてが成長につながる

坂入健司郎さん(会社員、指揮者)

若手指揮者として高い評価を受けている坂入健司郎さんは、慶応義塾大学の関係者で組織する東京ユヴェントス・フィルハーモニーの設立者であり音楽監督を務める28歳。企業に勤めながら、業務時間外は音楽活動を続けるという二足のわらじを履いています。

坂入健司郎さん。慶応義塾大学在学中に、在学生を中心とする慶応義塾ユースオーケストラ(現・東京ユヴェントス・フィルハーモニー)を結成

オーケストラの指揮に興味を持ったのは小さい頃、親戚からもらった何枚かの交響曲のCDが、異なる指揮者による同じ曲目だったこと。「同じ曲なのにまるで別の曲のように聞こえて、指揮者が違うとこうも変わるのか、と驚きました。そこから探究心が生まれました」

坂入さんは大学を卒業してから6年ほどの間に、ドイツ、ロシア、イタリア、フランス、オーストリア、オランダ、ベルギーなどを頻繁に訪れています。普段から勉強のために頻繁に演奏会に足を運ぶ坂入さんですが、オーケストラの「音」は、ヨーロッパで聞くのと日本国内で聞くのでは雲泥の差があるといいます。「湿気の多い日本に比べ、湿気が少ないヨーロッパでは楽器の音色が違うんです。さらに、地震がめったにないヨーロッパでは建物の構造も異なるせいか、コンサートホールの音の響きも全く違います。日本で何回も音楽会に行くお金があれば、ヨーロッパで生のオーケストラを1回聞くことを自分は選びます」

聞きたい演奏会は世界中に数多くあるけれど、会社員として時間と予算は限られている。そんな現実と折り合いをつけながら、自身で旅のプランを決めていきます。それを繰り返すうち、最低限のコストで満足のいく旅をするための手段と方法が身についたそうです。

「ヨーロッパは1週間滞在するときでも、基本予算は飛行機とホテル代、現地交通費込みで20万円以内。時期や目的によってはそれ以上かかることもありますが、そこは受け入れます」。安いチケットを購入するために、格安航空券の取り扱いサイトや、ルフトハンザなど航空会社の公式サイトも頻繁にチェック。基本的に航空券の手配は早いほどいいとはいうものの、「サイトは1度見てすぐに購入するのではなく、1日~1週間ほど検討します」。その間に他の情報も集めて冷静に判断できるからです。

モンゴル・テレルジ国立公園にて、巨大な「亀岩」に登頂

音楽は国境を超えて人を魅了します。オーケストラと観客がつくり出す臨場感と空気感。それらを求めて、これからも世界を旅して音楽を体の中に取り入れていきたいという坂入さん。指揮者としての音楽性と人間性は旅することでさらに培われていくことでしょう。旅は人をつくり、人をつなぎ、人を育てます。

(明日の記事に続きます)

東京ユヴェントス・フィルハーモニー http://tokyojuventus.com/

(ライター 大崎百紀)

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