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「ブーメラン社員」即戦力に 退職女性を再雇用

2016/8/6

 人手不足を補うため、退職した社員を再び雇う制度を取り入れる企業が増えている。働く側はスキルを生かせる場所として注目。ブーメランのように以前いた企業に戻り、即戦力として働く姿を追った。

■夫の海外転勤先で日本語教師 トヨタ自動車、中野規子さん

退職前は鋼板調達を担当していた(東京都文京区)

 天然ゴム生産地の森林保全のため、資金支援とともに天然ゴムの持続可能な原料利用をする――。世界自然保護基金と、自動車業界で世界初の協力交渉をまとめたのはトヨタ自動車の中野規子さん(42)。スイス本部への出張、電話やメールでの協議を重ね、7月に成立させた。

 98年入社。鋼板を調達する部署に配属後、2003年には渉外部へ異動した。05年の愛知万博では博覧会協会会長(豊田章一郎氏)の来客対応やスピーチ作りを支えた。

 02年に結婚。妊娠後、07年4月から産休・育休を取る予定だったが2月、別会社に勤める夫に米国赴任の辞令が出た。出産後、渡米したが、2年の育休期限が切れる前に一時帰国。ここで「プロキャリア・カムバック制度」に申請登録して退職した。

海外の人と臆せず交流

 米国では教会の炊き出しなどボランティアに力を入れたが、今度は夫の英国赴任で渡英。日本語教師の資格を取り、外国人に教えた。「海外の人と臆せずコミュニケーションをとるのは愛知万博では難しかった。それができるようになった」のが収穫だ。

 15年に帰国。トヨタは再就職先の選択肢の一つだったが、異動後も連絡を取り合っていた鋼板調達時代の上司から「帰ってくる気はない?」というメールを受け取り、心を決めた。「海外の人はトヨタといってもそれほど知らない。日本やトヨタの存在感を高めたい」

 05年に始まったカムバック制度の登録者はのべ80人弱、復職した女性は二十数人だ。うち2人は課長級以上の管理職に昇格した。同社は20年時点の女性管理職を、14年(全管理職の1%強、111人)の3倍にする目標を持つ。山門豊・人材開発部第1人事室長は「女性は夫の転勤で退職することもあるが、優秀な人材には戻ってきてほしい。制度がうまく機能し始めている」と話す。

■人材会社で営業を担当 クルーズ、渡部純子さん

再雇用後、社員研修を担当する渡部さん(東京・六本木のクルーズ)

 「この会社の社員を、稼ぐ人材に育てるのが私の仕事」。衣料品通販サイトを運営するクルーズの渡部純子さん(37)は7年間他社で働いた後、2014年9月に舞い戻ったブーメラン社員だ。入社希望者の大学生の3次面接と、入社後2、3年の社員研修を体系化する仕事をしている。

 03年、設立3年目の同社に入社した。会社が急成長する時期に人事や総務を担当。仕事をこなすために夜通し働いたり、食事の時間がとれなかったりして体重が5、6キロ減った。新卒採用が始まると「優秀な人材を確保したい」と家庭訪問や、社名にちなんだ船上内定式をするなど工夫を凝らした。

 ところが「会社のおカネを使っているだけでしょう」と営業担当者から飲み会の席で言われた。自らの仕事を振り返っても自信はない。「広く浅く、言われた仕事を必死にしてきただけ」。会社の上場を見届けると、営業の仕事をしたいと07年に退社した。

「稼ぐ人材育成」に自信

 転職先の人材紹介会社では法人営業を担当した。金額目標を達成する喜びや、信頼関係を築くことが新しい仕事の受注につながる面白さを知った。異動して社内申請の電子化や子会社同士の合併に伴う制度統合を担当すると、これまでの仕事を生かしているとの手応えをつかめた。一段落したところでクルーズの友人らと飲んでいるとき「戻って来ないか」と口説かれた。「この会社の採用や人材育成をしたい」と戻る決心をした。

 同社には10人の出戻り社員がいる。対馬慶祐取締役は「出戻った人は仕事への熱量が高い」と話す。13年に正式に再雇用の仕組みを制度化した。対象の社員には「クルーズ号乗船往復チケット」と名付けた証書を送る。制度を作ったことで「辞めた人が社内でまた働いていても当たり前という、受け入れやすい雰囲気ができた」という。

■再雇用制度、成功事例増え利用者も増加

 再雇用制度が大手から中小企業へと広がっている。一般には、やむを得ない理由で辞めた人を再雇用するが、最近は人手不足と採用難から企業側が積極的だ。有効求人倍率は高く、転職しやすい環境にあるものの、「もう一度同じ会社で働くからにはと覚悟して戻るため、即戦力として活躍する人が多い」と転職支援のエン・ジャパンの河合恩取締役は話す。

 女性には育児や夫の転勤についていくため、退職せざるを得なかった例が多い。日本経済新聞社は3月、主婦向けのインターネット調査(大卒以上の学歴を持つ20~40代1000人)をした。「やむを得ず専業主婦になった」と答えた328人中、理由として2番目に多かったのが「夫の転勤」(31%)だった。

 配偶者の転勤に伴い支社や支店への異動を申請できる企業はあるものの、ごくわずか。海外への留学やボランティアなどの自己研さんといった理由で休職制度を整える企業もあるが、休む期間などに制限がある。その間、企業には社会保険料の負担や人員補充などの対応が必要だ。

 再雇用制度は退職前に上司の推薦や面接などを経て申請登録し、復職前の選考を経て採用する仕組み。キャリアは中断するが、円満退社で実績があれば退職前までに培った能力を生かせるうえ、人間関係などの不安は小さくて済む。企業にとっては前職での働きぶりが全く分からない転職者と比べてミスマッチが起こりにくく、退職期間中に別の企業で働くといった経験を積んでいる人なら、戦力アップになる。

 とはいえ、制度があっても社員がよく知らないため登録者がいなかったり、登録者がいても復帰していなかったりする。復帰時の選考で落ちる人もいる。

 女性が少ない企業では、女性管理職の数値目標の達成が課題だ。せっかく育てた優秀な管理職候補を逃す手はない。不可抗力でキャリアを断念せざるを得ない女性と、優秀な女性を手放したくない企業の思惑は一致している。成功事例が増えるとともに、制度利用者が増えるという好循環が生まれているようだ。

■再雇用制度、利用しよう

 法政大学キャリアデザイン学部の武石恵美子教授の話 働く女性にとって企業の再雇用制度は重要だ。女性のキャリアを考えると、制度があり対象となるなら、元の職場に再就職する方がいい。日本では新卒採用した社員を長期的に育てることが多い。その企業でのみ通用する独自スキルが身についているからだ。

 転職先で社内ネットワークを築くのは簡単でない。退職前の働きぶりを知っている人がいれば、トータルで考えて引き上げる評価に結びつく。育休を取る人が増えて、入社年次や同期の昇級、昇進を気にする必要もなくなってきた。

(畑中麻里)

〔日本経済新聞朝刊2016年8月6日付〕

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