町の豆腐店、希少な大豆使い存在感 大手に対抗
「高くても売れる」 新たな顧客獲得
町の豆腐店が国産の希少な大豆を使った商品で存在感を示している。濃厚な味や作り手の顔が見える安心感を生かし、スーパーの大手メーカー品より高くても売れる「素材にこだわった豆腐」で新たな客をつかんでいる。
埼玉県所沢市の山下商店は「おいらん」「金持ち豆」など3~5種の在来種を豆腐作りに使っている。在来種は国内に古くから伝わる大豆。育てやすさや収穫効率は改良品種に劣る。固まりにくく、製造に手間はかかるが、たんぱく質が豊富で、甘みが強いという。
価格は木綿、絹ともに1丁300円。量産品の2~3倍だが、近年は高齢者に交じって、濃厚な味に引かれた若い家族連れや20~30代の独身の客が目立つ。「今では10人のうち2~3人は若いお客さん」(代表取締役の山下健さん)。売り上げもここ3年で1.5倍になった。
原料の在来種、無農薬で育てる
原料の在来種は約2ヘクタールの畑に年30~50種植え、無農薬で育てている。自家栽培は10年ほど前に始め、これまでに200種以上を植えた。山下さんは「安心や安全を求めて原料に関心を持つ人が増えている」と手応えを語る。
東京・池袋の樋口豆腐店は「みずくぐり」で作った豆腐を1丁270円で販売している。みずくぐりは滋賀県に古くから伝わる在来種。経営者の樋口竜三郎さんは「香りが良く、くせがなくて甘みがある」と話す。
東京都江東区のとうふ処小川は埼玉の在来種「借金なし」を使う。1丁300円で、甘いので子供も食べやすく、牛乳アレルギーの子供をもつ親がたんぱく源として豆乳を買い求めることもある。約8年前に代替わりして以降、順調に売り上げを伸ばしている。
作り手の顔が見える安心感生かす
江東区では20年前に50軒近くあった豆腐店が十数件に減った。同店の小川直子さんは「顧客と顔を合わせて原料のこだわりや豆腐の魅力を直接伝えられる」と町の豆腐店の強みを生かして生き残りを目指す。
大阪市のまるしん豆冨店は、兵庫の丹波黒大豆と上月もち大豆を自然交配した有機栽培の「緑豆(りょくとう)」を使う。泡を消すための消泡剤は使わず、国産のにがり、水、大豆だけで作る。1丁300円だが1日に約200丁をほぼ完売する。
大手、収穫効率など高めた改良品種使う
大手メーカーの豆腐にも国産大豆を使った商品は多い。ただ、ほとんどは収穫効率や凝固性を高めた改良品種を原料にしている。「フクユタカ」「エンレイ」「ユキホマレ」「リュウホウ」「タチナガハ」の主要5種で、豆腐に使う国産大豆の6割を占める。
まるしん豆冨店の鯰田伸太郎代表は「(大量生産する)大手が無農薬の国産大豆を年数千~数万トン規模で仕入れるのは難しい。我々の規模だから作れる」と自信を見せる。隣にスーパーが出店して厳しい競争にさらされるなか、品質で違いを打ち出す。
自社で掘った井戸の地下水を活用
長野県松本市の富成伍郎商店は自社で掘った井戸からくみ上げた地下水と地元の大豆「ナカセンナリ」を使った豆腐を1丁180円で販売。昨年6月には京都府豆腐油揚商工組合主催の「日本一旨(うま)い豆腐を決める品評会」で金賞に輝いた。同社の富成敏文さんは「販売開始時と比べて売り上げも2倍伸びた」と話す。
豆腐は製法による違いを出しにくく、価格競争が起きやすい。総務省の家計調査によると、2016年4月の豆腐価格は1丁約67円と10年前に比べ3割安い。
低価格を打ち出すスーパーに押され、町の豆腐店は減り続けている。厚生労働省によると、14年度の全国の豆腐製造業者数は8017。個人事業者を中心に廃業が続き、04年度に比べ4割減った。厳しい経営環境の中、原料の差異化に力を入れる店が今後も増えそうだ。
(今橋瑠璃華、江口良輔)
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