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消費増税延期、年金・給付金・税金どう変わる?

2016/8/7

 政府は9月中旬に召集する予定の臨時国会に消費増税再延期関連法案を提出する。可決・成立すれば、10%への税率引き上げは当初予定の2017年4月から2年半先延ばしされて19年10月となる。家計が注意したいのは、消費増税の行方と関連して社会保障や税金面でさまざまな制度が見直されること。当面は一部世帯に恩恵が及ぶが、中長期的には負担増大につながる可能性が高い制度変更も予想される。

 「年金の受給資格を得るのに必要な保険料の納付期間を来年度から10年に短縮する」。自民党、公明党の連立与党が大勝した先月の参院選後、安倍晋三首相はデフレからの脱却を掲げる経済対策の柱に公的年金の充実策を挙げた。

 公的年金は全ての国民が20歳から59歳までの間、保険料を納付する義務がある。納付済み期間に、収入が少なくて納付を免除された期間などを加えて現行で25年に達する必要がある。だが非正規雇用者を中心に資格に満たない人が増え、問題となっていた。

■無年金者を救う

 受給資格期間の10年への短縮はすでに2012年に決まっていた。「社会保障と税の一体改革」を打ち出した当時の民主党政権と自民党、公明党との「三党合意」で消費税率10%への引き上げ時に実施するとした。今年6月に安倍首相が消費増税の再延期を表明して一時、実施が危ぶまれたが、財源確保のメドが立ったため実現する。

 期間短縮により、約64万人いるとみられる無年金者が、新たに年金を受け取れるようになる。特定社会保険労務士の井上大輔氏は「会社員が40年加入して受け取れる公的年金は約20万円。10年だと4分の1の5万円程度だが、低所得世帯にはかなりプラスになる」と話す。

 消費増税時に実施するとしている社会保障の充実策は他にもある(表A)。

 ひとつは「年金生活者支援給付金」の創設。低所得の年金受給者に対して加入期間に応じて最高、月5000円、年6万円を給付するという案だ。財源確保が難しく実現するか不透明だが、似た別の臨時給付金制度がすでに導入されている。最高で年3万円を給付するという今年度限りの措置で、来年度以降も当面、継続する可能性はある。

 もうひとつは65歳以上の低所得者を対象に介護保険の保険料を軽減する案だ。財源確保は難航しているが、昨年4月に一部で先行して引き下げられており、延期するとしても「あまり長くは先延ばししにくい」(井上氏)との見方もある。

 以上は主に高齢者や低所得者の負担軽減につながる政策だ。一方、消費増税時の景気落ち込みを抑えるための政策でも一部、見直しがある。

 ひとつは父母、祖父母が子や孫に住宅の購入資金をあげる際の贈与税を一定額まで非課税とする制度についてだ。高齢層から若年層への資金移転を促して景気を刺激する効果があるとされ、政府は非課税枠を最大3000万円に拡大することを決めている。

 その時期は消費増税の再延期に連動して2年半、先にずれる見通しだ。19年10月からの消費増税をにらみ「19年4月~20年3月」の1年間となる。それまでは現行の最大1200万円が続く。「20年4月以降は非課税枠を段階的に減らし、最終的には21年末まで続けるだろう」と税理士の藤曲武美氏はみる。

■介護保険を見直し

 景気対策に関連したもうひとつの見直しは住宅ローン控除だ。所得税・住民税を10年間で最大500万円減らせる住宅ローン控除は19年6月末で制度の打ち切りが決まっている。消費増税の再延期に伴い、その時期はやはり2年半先にずれて、「21年12月末」となる可能性が高い。

 現在は政府内で検討している段階だが、社会保障の負担増と給付減を通じて家計に影響を与えそうな制度変更は他にも多い(表B)。

 公的医療保険では、1カ月の自己負担額に年収に応じた限度額を設ける高額療養費制度について、高齢であっても高所得の人は限度額を引き上げるなどの案が浮上している。75歳以上が加入する後期高齢者医療制度については自己負担割合を現行の1割から2割にする案もある。介護保険では高額介護サービス費制度の見直しや2割の自己負担割合の対象者拡大、掃除や洗濯、調理といった生活援助サービスを保険対象外とする案も検討されている。

 消費増税による税増収分は、新たな社会保障充実策よりも、「すでにある給付金の穴埋めに充てられるほうが大きい」と社会保障制度に詳しい野村総合研究所の安田純子上級研究員は指摘する。消費増税の再延期で「社会保障の負担や給付は家計にとって厳しい方向に見直される面がある」(井上氏)。今後の政府の姿勢を注意深く見守る必要がある。

(M&I編集長 後藤直久)

■給与所得控除上限 既に引き下げ進む
 所得税では消費増税とは関係なく既に負担増につながる改正が実施されている。給与所得控除の見直しに伴う増税だ。会社員の課税所得は年収から給与所得控除を引いて求める。控除額は年収に応じて一律で決まる仕組みになっている。
 2012年までは年収が増えると給与所得控除額も増えたが、13年から控除額に上限が導入され年収1500万円超では一律245万円で頭打ちとなった。さらに今年分は1200万円超では230万円、来年分からは1000万円超では220万円が上限だ。収入が変わらなくても高所得者を中心に課税所得が増え、増税になる。住民税も一年遅れで増税となる。

[日本経済新聞朝刊2016年8月3日付]

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