街づくり、身の丈で 再開発より空き店舗活用40歳前後の世代 住みたい街創る

ゲストハウス「MARUYA」でスタッフと打ち合わせる市来広一郎さん(熱海市)
ゲストハウス「MARUYA」でスタッフと打ち合わせる市来広一郎さん(熱海市)
人口が減り空き家が増える時代に身の丈に合わせた、民間主導の街づくりが全国に広がりつつある。空き店舗や老朽ビルを、人が集うカフェなどに改修。そこで利益を上げながら、周囲ににぎわいを広げていく。行政主導の大規模開発とは一線を画す手法だ。担い手は40歳前後の若い世代。右肩上がりの成長を期待しない、この世代ならではの価値観が街づくりを支えている。

温泉地として今なお知名度の高い熱海。最盛期の雰囲気を残す熱海銀座商店街の土産物店2階に7月1日、空きフロアを活用したシェアオフィス「naedoco」がオープンした。運営するのは地元出身の市来広一郎さん(37)らが2011年につくった街づくり会社、マチモリだ。空き店舗を活用したカフェ、もとは倉庫だったゲストハウスに続く、同社が熱海銀座で開設した3番目の拠点。いずれも戦後の建物はそのまま生かし、内部を改修した。

新しい店に引かれるように人が集まり、5年前までは3分の1が空き店舗だった商店街に活気が戻ってきた。

市来さんは大学院で物理学を専攻し、東京で就職したが、帰省のたびに目にするのは高層のマンションやホテルが無秩序に増えていく故郷の姿。「東京と同じ殺風景な風景が広がるのが我慢できず、仕事を辞めて戻ってきた」

いわゆる「団塊ジュニア」の次の世代。中学入学のころにバブル経済が崩壊。就職で氷河期を経験し、社会に出ればリーマン・ショックなどに翻弄された。だから「我々の世代はバブルのような成長はそもそも期待していない」。

新しいビルを建てなくても、魅力的な建物が残っている。「熱海の遺産を壊してしまえば街の個性も失われる」との思いが原動力だ。

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築40年超の木造店舗を改装した「シーナと一平」。近所の主婦が気軽に立ち寄る(東京・豊島)

東京のターミナル、池袋駅から西武池袋線で1駅の椎名町。ここでも、木造の建物を再利用した、新しい店が3月にオープンした。

駅から5分ほどの場所にある「シーナと一平」。もとは「一平」というとんかつ店だった築40年を超える木造店舗。20年ほど前から店を閉めたままだったが、1階がカフェ、2階が宿泊施設に生まれ変わった。

カフェには一つの仕掛けがある。1階に置いてあるミシン。カフェで飲み物を頼めば無料で使える。「子育て中のお母さんや、近所の高齢者が自然と集まってくる」と、地域の交流の場になっている。

こうした拠点はNPOやボランティアが行政の支援を受けながら運営することが多かったが「シーナと一平」を運営するのは株式会社のシーナタウン。老朽物件などの有効活用方法を考えるため地元の豊島区が開いた「リノベーションスクール」で知り合った有志が100万円を出資。家主から建物を賃借した。

代表の日神山晃一さん(40)は大学で建築を学び、今は店舗設計会社も経営する。岡山県の実家が内装業を営んでおり「幼いころから布やミシンに親しんできた」。その経験が店作りに生かされている。

ただ、「事業はボランティアではなくあくまでビジネス」と強調する。1階では手芸教室や落語会など地域の人が気軽に参加できる有料イベントを開き、2階の宿泊施設でも収益を上げる。3、4年で初期投資を回収する計画を立てている。

「もうけはまたこの街に投資する。狭いエリアでも、お金が継続的に回る仕組みをつくれば、街は活性化する」と日神山さん。

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同じような事例は宇都宮市にもある。駅から2キロの住宅街にあるもみじ通りに、ここ数年若いオーナーの店が増えてきた。イタリアレストラン、ドーナツ店、美容室、リボンの専門店など約15店。郊外の商業施設などに客が流れ、一度は閉じた店のシャッターが次々と開いている。

中心になっているのは設計事務所、ビルススタジオ代表の塩田大成さん(40)。冒頭の市来さんらと同じ世代だ。

6年前、たまたま格安物件を見つけ、事務所を移した。ところが、近くには喫茶店すらない。ならばと、「自分がここにあればいいなと思う店を誘い、空き店舗の家主と交渉し出店を決めていった」。

かつては若手の代表として自治体の再開発計画にかかわったこともあるが、結局は実現しなかった。「最後は、誰が責任を持っているのかわからなかった。今はもみじ通りで自分で住みたい街を、そこで暮らしながらつくっている」と話す。

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「家守」会社、各地に 街をマネジメント

家守会社を広げる嶋田洋平さん

「家守(やもり)」も最近の街づくりのキーワードだ。江戸時代、不在地主に代わって長屋の管理をしたり、店子の面倒を見たりした街の顔役。それと同じように、民間の立場で街をマネジメントする現代版の家守会社が各地に続々と誕生している。やはり30~40代が活動の中心だ。

先駆けは、2012年に発足した北九州家守舎(北九州市)。政令指定都市でありながら衰退が目立つ小倉駅前の商店街で空き店舗などをリノベーションし、飲食店やシェアオフィス、起業支援施設などを次々とオープンした。

仕掛けたのは、地元出身で東京で建築事務所を経営する嶋田洋平さん(40、写真)。東京でも13年に都電家守舎(東京・豊島)を設立し、老朽マンションの再生や空きスペース活用の飲食店経営などを手掛ける。「空き家は、可能性の象徴。有効に使えば街が生き返る」と力を込める。

今では岩手県花巻市から鹿児島県鹿屋市まで、全国に25の家守会社が発足した。さらに10カ所ほどで設立の準備が進む。

(田辺省二)

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