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ヤマトホールディングス(HD)の木川真会長は社長時代に東日本大震災や「クール宅急便」の不適切管理問題など困難な局面に直面した。危機を乗り越えられたのは、銀行時代に修羅場を経験したことが生きたという。経営者になってから判断を誤らないように、若いうちに失敗を重ねろと語る。

 ――銀行では常務まで務め、エリート街道を歩まれたように見えますが、順風満帆だったのですか。

「僕の会社員人生は失敗の連続だ。座右の銘は『なさざる罪』。やらないことが罪という意味だ。社員には『正しいと思ったらやってごらん』といつも言っている。失敗したとしても、それを糧にして次にチャレンジすると無駄にならない。むしろ失敗した数だけ成長する。僕は若いころに失敗の連続で何度も怒られた。経営を担う立場になっても失敗した。そういう立場になればなるほど、失敗の会社に与える影響は大きくなる。だから、若いうちにたくさん失敗して学べと」

「経営者は最初に戦略を描くのが重要な役割だ。それに基づいてスタッフに各論を書いてもらう。戦略を描くのには必ずリスクが伴う。リスクを伴わない絵を描いたって面白くもなんともない。リスクを認識しながら、その所在を明らかにして、それが起こったときに危機対応として何をするか。上になればなるほど危機管理力を磨かなければならない。本当に間違えたと思ったら早く撤退する勇気がいる」

ヤマトホールディングス会長 木川真氏

ヤマトホールディングス会長 木川真氏

――銀行時代はどんな失敗を経験されたのですか。

「自分自身、何度も挫折している。働き盛りの時に身体を壊して入院生活を余儀なくされたこともある。さらに銀行時代の最後の10年は金融業界全体で色々な事案が発生し、その対応のために本当に大変な時期を過ごした。しかし、これら数々の修羅場を経験したことはもちろん辛かったが、結果として、私自身の後々のマネジメントには多くの教訓となって生きることになったので、決して無駄にはならなかったといえる」

「2001年の米同時テロの時は自分が現地に送った社員らがニューヨークにいた。そのときの対応で間違えたことはいっぱいある。決定的な間違いは東京からニューヨークに対してあれこれ指示したことだ。必死になって生き残り、へとへとになった社員に色々と指示をしてしまった。1カ月後に現地に行って、そのダメージが大きかったと悟った。現地の社員から『それは言われなくてもやっています』と言われた。僕が余分な仕事をつくっていた」

「ヤマトで東日本大震災が起きたときは、『あのときの轍(てつ)は踏まない』と思った。初めにやったのは東北の支社長に全権を与えることだった。業務をいつ再開するかの判断も含めてすべて現地に任せた。本社のスタッフには『現地に無駄な指示を出すな』という指示をした。こういうのも経験しないと分からない」

 ――ヤマトHD社長時代には「クール宅急便」の温度管理が不適切だったことが明らかになり批判を浴びました。

「問題が発覚したときの初期動作は、当時の山内雅喜ヤマト運輸社長(現在はヤマトHD社長)に対して、まず本気で社員全員に謝ったうえで実態を把握しろと指示したことだ。温度管理が守られていなかったのは、作業工程に無理があったからだ。社員に『短期間で徹底的に直すから本当のことを教えてくれ』と頼んだ。半日間で全国の拠点の何割がルール通りにやっていなかったかを把握した。何でルール通りにやらないんだと怒っても本当の情報は集まってこない」

 ――最近は失敗を恐れてリスクを取りたがらない人が増えているように思えます。

「僕は修羅場の連続だった。そういう経験をしたのは恵まれていると思う。修羅場を経験せずにトップになって、初めて困難な事態にぶち当たるとすごく大変だ。修羅場の経験は全部役に立つ。不幸は不幸のまま終わらせない。不幸を何とか乗り越えた以上は、それを経営に生かしていくことが大切だ。修羅場における判断ミスは致命的だ」

「若いころの失敗はそういう次元でないし、かわいいものだ。社員には若いうちに怒られた回数を増やせと言っている。若手が参加するミーティングでは、幹部と同じように若手を怒る。会議が終わると幹部から『かわいそうじゃないか』と言われたこともある。そういう時はうなだれて帰る社員を僕の部屋に呼び込んで『ここは良かった。ここはこうすれば良かった』と肩をたたいて別れるようにした。怒られることは全人格を否定されるわけではない。叱られることに慣れろと言っている」

 ――企業物流や海外展開など事業領域が広がると、社員に求められるスキルも変わります。人材育成にはどのように取り組んでいますか。

「経営資源としての人材は足りていない。特に新しくチャレンジするグローバル領域で不足している。社員を若いうちから地道に育てていくと同時に、即戦力の中途採用も精力的にやっている。外国人留学生も積極的に採用している。この6~7年で留学生の新卒採用は100人を超えた。組織がグローバルになる風土を自然につくっている。この時代のキーワードは『交じる』だ。人を交じらせることで新しい事業領域を担う人材をいろいろな階層でつくっていく」

 ――海外で日本と同様のサービスを展開するのは難しいのではないでしょうか。

「宅配便で培ってきたDNAはヤマトの原点だ。海外の宅配便の担い手たちに伝承しないといけない。日本と100%同じやり方でないにしても、基本的なサービスの理念は共通化したい。だが、歴史的な国の背景で培われた価値観は一朝一夕には変わらないので難しい。最初にやったのは、海外で人材を育てたいという思いのある日本のドライバーに手を挙げさせて、インストラクターとして送り込んだことだ。最初は言葉ができないけれど体を張って人材を育ててもらうということをやってもらった」

「上海とシンガポールに始まり、香港、マレーシアとやってきた。上海に派遣された社員は中国語でコミュニケーションができないけれど、現地の従業員と一緒に仕事をしてもらった。中国人スタッフのそばに立って荷物を運んでもらう期間が数年あって、ようやく現地の核となる人材が育ってきた。その人材が次の世代を一生懸命教育してくれている。現場で人材育成が行われており、2世代目、3世代目になってきた」

 ――リーダーとしての習慣はありますか。

「夜中に起きてメモをする。寝ているうちに今まで思いつかなかったアイデアが夢の中で思い浮かぶことがある。その時は無理やり起きてメモをする。瞬間的にメモをしないと忘れてしまう。だから眠りが浅くなった。最近は執行レベルを離れて熟睡できるようになった(笑)」

木川真氏(きがわ・まこと)
1973年一橋大商卒、富士銀行(現みずほフィナンシャルグループ)入行。2004年みずほコーポレート銀行(現みずほ銀行)常務。2005年ヤマト運輸入社。07年社長。11年ヤマトホールディングス社長、15年から現職。広島県出身。

(村松洋兵 代慶達也)

前回掲載「『リーダーは一言で伝える』 異業種からの改革者」では、金融業からヤマトに転じ、「小倉イズム」を継承して変革に挑み続ける経営哲学を聞きました。

「リーダーのマネジメント論」は原則火曜日に掲載します。

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