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企業社会に深く浸透してきたロジカルシンキング。その一方でロジカルシンキングに長けた人がつくった計画が実行段階で行き詰ったりするケースも増えてきた。どうやら職場は合理的なだけでは動かないようなのだ。「経営も職場運営も合理性と非合理性の双方を前提とし、考える時代に入った」と人材マネジメントに詳しい永田稔氏は指摘する。永田氏の最新刊『非合理な職場』(日本経済新聞出版社)からその実態を紹介した第1章を転載する。

前回掲げた問題解決のプロセスをもう一度ここに示す。

1 皆で現実と問題を直視し、課題を共有するプロセス
  ↓
2 問題に対し論理的な解決策を導くプロセス
  ↓
3 皆が解決策に納得するプロセス
  ↓
4 解決策を実行するのにメンバーを動かすプロセス
  ↓
5 メンバーが自律的に学び仕事を楽しむプロセス

前回は1について考察した。今回は2~5までのプロセスを一気に見ていこう。

◇    ◇    ◇

2 問題に対し解決策を導くプロセス

次は問題に対し解決策を導くプロセスである。

前回述べたように、解決策を導くにもロジックツリーやMECEを用いながら、アクションのオプションを検討するのだが、解決策の質を決める一つの要因は、その前段階の「アメ」=意味合い部分をどのくらい深く洞察できるかに依存する。

前回のケースでも、新興国メーカーの安い商品に押されているので自社も対応すべきというアメと、流通構造を含めた変化が起こりつつあり自社のビジネスモデルが揺らぎつつあるというアメでは、その後のアクション=カサが異なる可能性を示した。

天候を比喩に用いても、「単に明日アメが降る」と考えるのと、「近年アメが降るのは、気候の構造が変動したためと思われる。よって、今後ゲリラ豪雨が降るのが恒常的になる」という意味合いを出すのでは、とるべきアクションがまったく異なるのは容易に想像ができるだろう。

このように、現在の状況を起こした根本原因や構造を把握し、その根本原因や原因を引き起こした構造が時間とともに今後どのように変化をしてゆくと考えるのかが意味合いを考えるということである。

「アメは単に明日だけなのか」「それとも恒常的に、突然豪雨が降るような状態になっているのか」を考え、導き出した意味合いに対しアクションをもれなく、だぶりなく考えてゆくのである。

また、抜本的な解決策を考えるにあたっては、ソリューションスペースをどれだけ広くとれるかも影響する。

ソリューションスペースとは、解決策を考える広さである。

解決策を考える上での思考や目線の高さと広さと言ってもよい。

図1を見ていただくとわかるように、山の頂上へ登るのにも、今登っている山道から見るのと、山から離れた場所から山頂へのたどり着き方を考えるのでは、図にあるように出てくる方法論が広がるのがおわかりになるだろう(図1参照)。

目線を広く、高く持つことで取りうる解決策が広がるのである。

ケースの例で言うと、部下のコンサルタントが「価格を低くすべき」と主張したが、商品には価格以外にもブランド、性能、品質などの差別化要因があり、これらを含めて価格戦略を検討すべきであろう。

さらに、チャネル戦略まで視野を広げることも今回のケースでは必要であろう。

現在のチャネルを強化することで対応ができるか、新チャネルへの切り替えが必要ではないか、競合が使っているチャネルに入り込むことはできないか、などのソリューションが生まれてくるはずである。

さらに、もっと視野を広くすると、新興企業のほかの儲けの源泉を潰すことでその企業の低価格戦略に影響を与えることができないかなど、解決策は広がりを見せていく。

このように思考や目線の広さが解決策の広がりにつながるのはおわりいただけると思う。

天候の例で言うと、誰かに会うために出かけるのに、アメが降るのか、カサを持って行くのかを検討している場合には、「XXさんに会うために自分が外出する」との前提に立っている。

しかし、これを「XXさんと会う」、さらに「XXさんと情報交換をする」という前提に立つだけで、「XXさんがこちらに来てもらう」「スカイプを使って会話する」というように目的を実現するための方法が広がる。

しかし、これらのような根本的な意味合いを探る思考やソリューションスペースを広げる思考もこのように書くと納得していただけるが、現実の問題解決の場面では人は経験や思い込みによって制約を受けてしまうという事実がある。

これは人間の思考や認知の仕組み、意思決定のあり方の影響を受けてしまうためである。

3 皆が解決案を受容するプロセス

解決案を実際の策につなげるためには、関係者が解決案を受容するプロセスが必要である。

理解と受容とは異なる。

組織や人は、頭では理解はしても心では受け入れていないことがままある。

このプロセスはしばしば軽視されがちであるが、解決策を徹底的に実行し成果につなげるためには、関係者のコミットメントが必要不可欠であり、そのコミットメントはその案を心から納得し受け入れることから生まれる。

反対に言うと、関係者が受容しないような案は、実行されても中途半端に終わってしまうのである。

つまり、論理的に導いた案でも必ずしも受け入れられるとは限らないのである。

人間や組織には「好き、嫌い」や「価値観」というものがどうしてもあり、いくら論理的に正しくても「嫌いな案」を実行させることは困難である。

組織に「好き、嫌い」という感情があるのはピンとこないかもしれないが、組織には固有の価値観や組織文化というものがある。この固有の価値観や組織文化が、ある方針やアクションに対する態度に影響を与えるのである。

皆さんの勤めている会社でも、「このような打ち手はうちの会社ではとれない」とか「あのようなタイプの人はうちの会社では馴染めないだろう」という評価がなされることがあるだろう。その評価判断のもとになっているのが価値観である。

人であれ組織であれ何らかの価値観を持っており、組織の場合、その価値観が強くなり組織運営などのいたるところに表れるようになると企業文化と呼ばれるようになる。

問題解決者は、このような価値観や企業文化を無視して問題解決を行うことはできない。せっかく苦心して作った案も価値観や文化を考慮しなければ、関係者に受け入れられず、また心からの賛同も得られない。

そのような意味で、解決案の段階で候補案が受け入れられるかどうか、コミットメントを得られるかどうかの事前の検討が成功のためには必要なのである。

一方で、変革には従来の価値観や文化が足枷(あしかせ)になることも非常に多い。

この場合には、価値観や文化の刷新や文化に配慮した解決策の修正が必要になる。

4 解決策を実行するのにメンバーを動かすプロセス

解決策を確実に実行させるためには、達成すべき目標やとるべき行動をとるように組織や人を適切に誘引する必要がある。

この誘引の要因およびそのプロセスを「動機づけ」という。

動機づけというと、インセンティブや励まし、時に命令が頭に浮かぶが、人を動機づける方法は多様である。

例えば、我々の行動は自らも明確に意識しない無意識なレベルで動機づけられていることがある。

例えば、こうありたい、こうなりたいという自分の目標であったり、会社や仲間のためにという気持ちから行動をしたり、と自ら意識しないまま行動をとっている。

また動機の種類として、目標を成し遂げようという気持ちが強い達成動機や、反対に失敗を恐れる気持ちから挑戦などを回避する行動をとってしまうこともある。

よって、ある人や組織の行動を変えたい、このような行動をとってほしいという際には、その対象となる人や組織が現在どのような動機づけの状態にあるのか、その結果どのような行動をとっているのか、あるいは行動をとっていないのかをまず把握する必要がある。

その上で望ましい行動をとってもらうために、動機づけをどのように変えるべきかを検討するのである。

5 メンバーが自律的に学び仕事を楽しむプロセス

問題解決プロセスでメンバーに新たな行動をとらせるためには、メンバーが問題解決者に頼らずとも、自分で環境の変化に応じてスキルを身につけ行動を変えてゆくような状態に持ってゆくことが理想的である。

これは、単に知識をメンバーに学ばさせるということにとどまらず、自律的な学習のプロセスを各自の中につくってあげるということである。

環境の変化に対し、いつまでもあなたが指示を出すのではなく各メンバーが自律的に対応をしてゆく状態をつくること、そのためには環境から学び続けることが必要なのである。

以上、説明してきたように、真の問題解決とは狭義のロジカルシンキングを超えた変革プロセスであるということがおわかりいただけると思う。

机上でのロジカルシンキングと大きく異なる点は、自分以外の他者の思考や感情との関わりが非常に大きくなるという点である。

ロジカルシンキングは、基本的に自らの思考をいかに精緻にしたり創造的にしたりする思考活動であるのに対し、問題解決活動とはロジカルシンキングに加え、組織や人を説得し、動機づけ、動かし、学ばせ、育成をするという幅の広い活動なのである。

しかし、この一連のプロセスには「つまずき」や「罠」が多く存在する。

他人に自分の考えを理解させ動かすには、論理的な解決策の提示やコミュニケーションだけでは不十分であり、これだけでは成果につなげることができないケースが多く存在するのである。

人を動かすためには、「人はどのように物事を理解するのか」「人はなぜ動くのか」についての理解が必要であり、それはロジカルシンキングとは全く別ものなのである。

人や組織に理解させ動かすためには、人間の認知や心理、感情を理解することが不可欠である。真の問題解決者とは、納得感のある解決策を生み出す論理的思考力と人間の感情や非合理性を十分に理解し人や組織を動かすことができる力の双方を備え、解決策を実行に移し成果につなげられる人のことをいうのである。

永田稔(ながた・みのる)
松下電器産業(現パナソニック)、マッキンゼー・アンド・カンパニーを経てウイリス・タワーズワトソンに入社。一橋大学社会学部卒業、カリフォルニア大学ロサンゼルス校にてMBAを取得。20年近くビジネスモデル、組織モデル、人材マネジメントモデルを一体としたコンサルティングに従事。2016年6月にウイリス・タワーズワトソンを退社し、心理学とテクノロジーを融合させた人の能力支援システムの研究開発・商業化を行うヒトラボジェイピー(HitoLab.jp)を心理学者、IT技術者などと立ち上げる。
共著に『不機嫌な職場 なぜ社員同士で協力できないのか』(講談社現代新書)、『リーダーシップの名著を読む』(日経文庫)、『攻めのガバナンス 経営者報酬・指名の戦略的改革』(東洋経済新報社)。早稲田大学MBAプログラム非常勤講師。
「キャリアコラム」は随時掲載です。

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