苦労した分、成長できる 震災でも奔走
損害保険ジャパン日本興亜執行役員兼熊本支店長、野間和子さん
4月14日午後9時すぎ。夕食を準備していたときに熊本地震は起きた。揺れが収まると、ぐちゃぐちゃになった自宅に目もくれず、支店に駆けつけた。「1人でも多くの方に1日でも早く保険金を支払う。それが私たちの役割だから」
生まれも熊本。高校卒業後に熊本支店に一般職として入社した。本社勤務などを経て4月に熊本支店長に着任したばかり。故郷に錦を飾る晴れやかな気分は一瞬で消えた。その後1カ月、休日返上で対応に追われた。
保険金の支払いが生じそうな契約は5万~6万件に上った。でも支店内は家具や備品が散乱し、余震もやまず仕事にならない。急きょ県北部のホテルを丸ごと一棟借り上げて業務を一部移した。保険金の支払いは社員が被害状況を実検し、被害額を確定する。熊本支店の社員250人では足りず、全国に応援を募り1000人態勢で被災地を回った。初動の早さが実を結び、6月末までに95%は保険金を支払った。
社員とその家族らの安全・健康管理にも気を配った。勤務ローテをきちんと組み、強制的に休ませた。震災直後は水道・ガスも止まり、風呂にも入れない。そこで近隣の温泉へのバス便を社員とその家族向けに毎日運行し、苦労をねぎらった。
「入社時は数年勤めたら結婚して辞めるつもりだった」。転機は4年目。県内の小さな町に営業所を立ち上げることになり、初期メンバーに選ばれた。社員は男性総合職の同僚と2人だけ。顧客や代理店からの問い合わせや契約書類の事務管理から、営業所内の掃除や近所の草取りまで仕事は多岐にわたった。
「それまでは一部の保険契約しか担当していなかった。厳しい状況で精神力と知識が磨かれた」。以来「苦労した分、成長できる」が仕事上の信条だ。転勤ありのグローバル職に2005年転換し、本社のコンプライアンス部門や人事部で経験を重ねた。
自宅マンションは窓枠がゆがみ、洗面台は割れて住める状況ではなかった。仕事が一段落し、先月ようやく新居に引っ越した。支店から望む熊本城も見るも無残な状況だ。「故郷の復興に役立ちたい」と意気込む。
(編集委員 石塚由紀夫)
[日本経済新聞朝刊2016年7月30日付]
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